見出し画像

平凡なきつねうどんから始まる海外旅行

うどん。おにぎり。カレー。

平日出社の日のランチとしてはとり立てて心が踊らない「ふつう」のメニューが、海外旅行の前後には恋しくなる。日本食に飢えているわけではない旅行前にも、私はいつもなんとなくそれを選んでしまう。

成田空港の保安検査場を通過する前。第二ターミナルの出発ゲートからエスカレーターで一階上がり、なんてことないレストランのなんてことないきつねうどんを食べる。空港内のファミレスみたいな場所だ。空港価格の千円はすこし高いと思うくらいの平凡さ。でも、これが私をこの旅行の始めと終わりのきりとり線のように、ゆるやかに送り出してくれるのだ。

食に執着がない方かもしれない。それは私が成人を過ぎてから初めて気づいたことだった。それまでの私は、食いしん坊で通ってきた。子どもの頃は横綱と呼ばれて1月生まれなのに学年で一番の体重を誇るあかちゃんだった。親戚は大きくなっても私を「よく食べるまゆちゃん」として認識していたし、部活でもバイトでもおやつで餌付けされていて、もうほんとにそういうキャラだよね〜で通ってきたのだ。だからてっきり、私にとっての食はとびきり大切なものだと思っていたのだ。

でも、ふたを開けてみたらそんなにこだわりがなかった。留学先でご飯にこだわらずに生きている自分に驚いてから、こだわりのなさは年々増しているようだ。一人暮らしのときには、朝お鍋いっぱいに作った鍋料理を三食食べる日々を繰り返していた。友人には、同じものを食べ続けて飽きないのかと不思議がられたけれど、別に一日中おんなじものを食べるのは苦ではなかった。

私がひとりで旅行に行っても、ついその土地のものを食べそびれてしまう。海外なら飛行機でもらったパンとか、日本ならコンビニ飯とか、そういうもので適当に済ませてしまうので、ひとり旅じゃない時はご飯が豪華で驚く。その土地の特別なものを食べ続けるのは、私にとってはいい宿に泊まる以上に贅沢かつ、優先度の低いことかもしれない(さすがに有名なものの一つや二つ食べるけど。)。だからひとりなら、不満もなく一日二食てきとうなものを食べて自分なりに優雅に過ごしている。

そんな私だから、楽しみな旅行のはじまりが、例えば慣れ親しんだうどんの味だとほっとするのだ。日常からゆるやかに非日常へと飛び出して、でもその先でもすごく特別なことをするわけではない私の旅行スタイル。それを繋げてくれるのが「きつねうどん」なら、なんだか優しくいろんなことを受け止められそうな気がする。

この記事が参加している募集

休日のすごし方

旅の準備

ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。 スキやシェアやサポートが続ける励みになっています。もしサポートいただけたら、自分へのご褒美で甘いものか本を買います。