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【インタビュー】就学と雇用の壁を越え、コーヒーを通じてタイの移民の子どもの選択肢を増やしたい

インタビュー企画「気になるあのひとに会いにいく」の第4弾。このシリーズは、読んでくれた方が「会いたい」「応援してみたい」人に出会うきっかけとなる記事を書きたいという想いから始めた企画です。

今回は、株式会社Saphan(サパーン)の代表である作田詩織さん(以下、作田さん)にお話を伺います。作田さんは、タイのカレン族のコーヒー販売を通じて、タイへの移民の子ども達の教育格差是正にむけて活動しています。

学生時代からタイを巡って孤児院の扉を叩き、現在の仕事につながる移民学校やコーヒー農家と出会った作田さん。子ども達の将来の選択肢を増やしたいという強い想いが、地域に根ざし、人と人を繋いで、学校だけでなく農家にも良い影響を及ぼしています。

このインタビューでは、そんな作田さんの活動のきっかけと想いの源泉を探ります。


目指し続けたのは、子ども達の可能性を広げる仕事


作田さんが活動するのは、タイ北部、チェンマイの下のターク県。タイには周辺国から仕事を求めて人々が集まり、ターク県にはミャンマーからの移民が多く暮らしている。作田さんは、この地域の教育格差に課題を感じ、解消に向けて取り組んでいる。

「海外に興味を持ったのは、小学生の頃の家族旅行でした。日本だと手で食べたらあかんのに海外ならいいみたいに、日本の当たり前が当たり前じゃなくなる海外が好きでした。

高校進学の時、将来は海外に関わる仕事がしたいと思って、海外で活躍している人たちの本を読んだんです。そこでジャパンハートの創設者である吉岡秀人さんを知り、その活動に憧れました。

小児外科医の吉岡さんは、東南アジアの貧困地域に医療を届ける活動をしています。怪我や病気を治すことは、学校に行ける子どもが増えることに繋がって、彼らの将来の可能性を広げていると思います。その時、出会った人の人生を変えるような生き方っていいなと感動しました」

病気を治して子どもたちの選択肢を増やしたい。その思いで最初は医者を目指したが、2浪して農学部へ進学を決めた。大学生になった作田さんは、憧れのジャパンハートで活動を始める。

「カンボジア、ラオス、ミャンマーで、衛生教育やお母さんたちへの栄養指導をしました。ジャパンハートでの活動だけでなく、自分でもベトナム、カンボジア、タイのスラム街や孤児院を訪れました。

国営の施設は制度が厳しくて、無理だよと追い返されることもありました。なので私は個人運営の学校で、見学やイベント企画をさせてもらいました。そうやって活動を続けるうちに、新しい訪問先を紹介してくれる人が増えたんです。

その中でも、タイにはかなり訪れました。タイってとにかくご飯が美味しいんです(笑)そして、言葉が通じなくても自分を分かろうとしてくれるタイ人の人柄の良さに惹かれて、一番好きな国になりました」

想いがふたつの縁を引き寄せ、ビジネスが始まった


タイ周辺国からの移民の教育問題は深刻だ。公立学校と異なり、移民学校を卒業してもタイの大学に行けず、そもそも稼ぎのためにドロップアウトする子どもも多い。作田さんは、最後まで学校に通える環境づくりや、卒業後に正規で就職するための支援をしたいと考えた。

「もともとコーヒー屋さんがやりたかったわけじゃないんです。タイの北部で資源を探していたら、コーヒーに出会いました。日本人にもタイ人にも身近なコーヒーを、社会課題解決に繋げたいと思い、コーヒーのブランドを作ろうと決めました。

そこからは移民学校の先生やお母さんたちに、「コーヒー農家さんおらんかな」みたいな感じで聞いて、地道に探し始めました。人づてにたどり着いたのが、現在のビジネスパートナーのひとりである、カレン族という山岳民族の農家です。

現地のコーヒー農家には、非常に安く買い叩かれるという課題がありました。だからフェアトレードでの取引は、カレン族の村への貢献にもなります。私たちが日本での売上を学校の環境整備などに還元していけば、双方にとっていい関係が築けます。こうしてコーヒー事業を始めることにしました」

移民学校との関係構築も、作田さんの地道な活動と強い想いが実を結んできた。

「個人で運営している孤児院では、見学だけでなく子ども向けのイベントもしました。例えば、おにぎりや天ぷらを一緒に作って食べたり、ペットボトルで作ったスティックでラクロスを体験したり。

今の移民学校も、バンコクの孤児院のイベントで出会った人のつながりです。参加者の学生が紹介してくれた人が、今のビジネスパートナーになっています。

その人は、20年以上貧困地域のNGOで移民学校の支援をしている方です。学校とのコネクション作りや子ども達の活動のコーディネートを助けてくれます。経験の多いタイ人のサポートがあると、現地の方とのコミュニケーションも円滑になります。子どもや移民のスペシャリストとして活動を支えられているんです。」

知るきっかけの提供が、選択肢を広げる一歩目に


コーヒー栽培と移民学校の運営。それぞれの専門家と信頼関係を築いてきた作田さんは、2022年5月に株式会社Saphanを立ち上げた。

「『子供たちが環境に左右されず、自分で主体的に進む道を決めることができる社会を創る』ことが私たちのビジョンです。Saphan(サパーン)はタイ語で架け橋という意味があり、子ども達が未来に向かって進む架け橋となること、タイと日本の架け橋となることを願ってつけました。

ネガティブな伝え方をしたくないから、あえてNPOではなく株式会社にしました。現地をよく知らない人たちに向けて、この人たちはこんなに可哀想だから買ってください、お金くださいっていう発信をしたくなかったんです。子供たちが夢中になって絵を描いた様子や、コーヒー農家の方のこだわりなど、プラスの面を発信することでビジネスを進めたい。経営は難しいんですけどね(笑)」

学校の環境整備だけでなく、子ども達がチャレンジする機会づくりにも力を入れている。

「自分は何に興味があって何を好きなのかって、体験してみないとわからないじゃないですか。だからこそ、焙煎体験やパッケージ作成、日本の子どもたちとオンラインで関わるなどの体験を提供しています。

現地の子ども達の多くは絵が好きで、パッケージも夢中で描いていました。商品に選ばれる人と選ばれない人がいるっていう差があるのも嫌なので、ステッカーになる紙を1000枚用意して、直接描いてもらいました。好きなものを描いてほしいと言ったら、コーヒーカップや、家族の仕事と繋がりのある牛、大好きな花に水をあげる様子などを楽しんで描いてくれました」

就学を後押しする給食と、その先に目指すもの


作田さんは現在、就学率を上げるための取り組みとして学校給食の提供プロジェクトを行っている。

「教育はほんまに大事やと思っていて、算数ができなければ買い物もできないし、タイ語がわからないとタイで働けないじゃないですか。だからこそ進学率を少しでも上げて、子どもには生きていくのに最低限必要な教育を受けてほしいんです。

でも、現地では1食分を稼ぐために、学校に行けずに親の仕事を手伝う子どもがたくさんいます。だから昨年は学校で給食を出すプロジェクトを行いました。働いても給料が安くて1食分にしかならないから、給食が出るなら学校に行かせたいという親も多いようです。

給食プロジェクトでは、毎日通う子どもが増えたり、平均体重に届かなかった子の体重が増えたり、全く通学しなかった子が学校に来るようになったりしました。たった3ヶ月でもここまでの効果があると分かり、今後12校の移民学校すべてに導入したいと思っています。

長期的には、雇用を作り、格差是正に取り組みたいです。コーヒー以外にも雑貨などのプロダクトを増やせば、そのぶん雇用を作ることができるし、もっと将来の選択肢が増えます。

タイの中で最も多い、ミャンマーからの移民地域の底上げに成功したら、カンボジアやラオスからの移民にも応用できると思います。遠い未来かもしれませんが、移民の貧困を解決するためのシステムを考えるのが理想です」

最後に、作田さんの行動力と熱意を支えるモチベーションは何なのか聞いてみた。

「とにかく楽しいんです。現地の人たちを尊敬しているし、一緒に過ごすのが楽しい。そして日々変わっていく子どもの成長や、身の回りの自然を遊びに変える創造性には刺激を受けます。人生って本のようだと思っていて、子ども達の物語を一緒に追い続けたいと思うんです」

現地の様子を語る作田さんの声は弾んでいた。そこには現地の仲間や子ども達への愛情と誇りが滲んでいる。

文章:mayu
写真提供:作田詩織



作田詩織(さくだしおり)

Twitter:@kamehimawari
Instagram:@shiori_sakuda
Saphan coffee Twitter:@Saphancoffee
Saphan coffee Instagram:@saphancoffee

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