武川蔓緒
勝手に100の質問に答えたり、小説の感想やエッセイ的なの書いたり、色々。
日記形式ですが続き物では基本ないので何処からでも読めます。舞台のイメージは昭和と平成のはざまあたりのパラレルワールドといった所です。 ©️2021TSURUOMUKAWA
朗読して戴いたり、己でしてみたり、音楽をつけて貰ったり。
目醒めて、わかりました。天から地へひとすじのすきまより僅かな陽のさす、蒲団にくるまれている分にはいつもと何ら変らぬ朝でしたが、私にはわかるのです。主人が隣に眠るのも忘れ、闇をつきやぶるように障子を、建付けのわるい雨戸をひらきました。雲の残り滓もない好天でしたが、その青と澄んだかがやきを繋ぎあうように、木木を田を畠を、離れあった家の屋根屋根を、丘を、純白の雪がつつんでおりました。 私は逸る胸をおさえながら、化粧台の前掛けをはらいくすんだ鏡を見すえ、髪を、着物を、この日だけの
ホテルへ向かう。 「部屋の鍵を開け放して待っている」 と云う、男のところへ。「○○ボーリング場のすぐ南だから」 公衆電話からの回線によるか当人の資質か、くぐもって如何にも後ろ暗げな声による道案内はそれだけで、スパイでもあるまい、只のどこにでもころがる既婚者だろうに追われるように切れた。 私は《昔アイドルみたいなプロボウラーがいたんだっけ?》とぼんやり思うぐらいでボーリングなんて男みたいに球を片手で持てないし遊ばないから『○○ボーリング場』も知らないし、外は地球がイ
『チチキトク ○○ビョウイン』 逃亡先のホテルへ電報をよこしたのは、夫の唯一の血縁である息子。 真昼なのに翳が濃くエタノールくさい病院にその息子の姿はなく、骨ばった顔の看護婦が云うには荷運びの使用人のほか誰ひとり来ていないと。 『貴男がおらずとも家も社も世も恙無く廻る』と知れば、夫はどんな病状だろうと激昂し暴れるだろう。 私は夫より、数ヶ月逃げていた。 『死顔を視、後始末をするのは貴女の役目』というのが、4人目の妻とは名ばかりの、女中と秘書と娼婦を綯い交ぜにし
拙作『3月85日』をいぬいゆうたさんが朗読してくださいました。 https://note.com/onandoff99/n/n8eac3485e931 色々と読むには難儀な作品だったと思いますが(笑)。さり気なく残酷で優しくて真摯でエロくて…主人公のしょうもない男も役者の如く輝かせて貰っています。勿体無や。是非。
いぬいゆうた氏の『いぬいのラジオ(仮)』に、ヱリさんと共に出演させて戴きました。 2時間弱のサスペンスドラマほどの長さ、内容もある種唇からサスペンス。過去も未来も星座も越えるから抱きとめて! 『いぬいのラジオ(仮)』ということは冒頭コントコーナーがあるやんけ! と、いつになく関西人の血が騒ぎやっぱ好きやねんとムダにネタを練って頑張ったせいか私のスマホが温度急上昇君は赤道小町ドキッで収録停止する騒ぎとなったのもいつかきっと笑って話せるわ(ヱリさんの助言で保冷剤を出しました
『第二回あたらよ文学賞』一次選考を通過しました! https://note.com/eyedear/n/n874d57c3e54f 長めの話(七千字程)での通過は初めてです。「私は小説書いてると思い込んでるだけでは」と常々思うので、お医者様に「大丈夫ですよん」と言って貰った気分です。プレデターございます(笑)。
むかし愛したひとが帰ってきました。 何年が過ぎたのかしら。鬼乃助さんが帰らなくなってから、この家は時を留めた儘…… なんて云えたらよいのだけれど。たしかに桃色に塗ったモルタル壁のいまにも崩れそうな一軒家に私は独り棲みつづけているけれど。 かつて鬼乃助さんの寝起きした部屋にも洗面所にも浴槽にも玄関にも、私の服やら化粧品やら薬類やら小説本やら新聞やら、雑貨店で買ったレプリカの観葉植物群、タイとカンボジアとインドとネパールとカナダの人形や彫像たち、使えなくなった家電や使わ
車のない車道はまっすぐ、傾斜5度ほどのゆるやかなくだり坂で、プラタナスのアーチを飾りながら、僕の悪い眼では永久に続いていると感じる。下へゆくのに、逆に天へのぼるように彼方のほうが光が満ちているように思う。 車がたえず往来しているときは、気づきもしなかった。 空なんか視るよりも不思議とやすらぐので、ときどき来ては交差点のど真ん中にたち、みおろす。 ……だが、いま。 その、僕のアパートから凡そ8分の近所に存在する私的な永遠の象徴に、まさかの邪魔、異物が混入する。二車線
【No.060】 私たちの方が余程、冷えているわ。 妻の言葉はそれが最後か。気づけば目前には、コードを首に巻いた妻の瓜実顔が転がっていた。コードを解き、冷蔵庫を抱え、アパートを出る。 学生の頃買った小さなもの。結婚する頃には冷却機能は壊れていたが、手放せなかった。枕元においた。扉をあけ何も納めず、ライトだけ光らせていた。妻の眼は澱んだ。 今は光すらもない冷蔵庫を助手席に座らせ、軽自動車を走らせる。白のボディにシートベルトを巻き、ゆっくり走る。 山を河を、冷
あ、最後か、ときづく。 歯の治療をようやく終えて存分にキスできると云っているのに、御座なりだし。 裸で私を背中から抱いてはいるけど、テレビ点けて極彩色のビスチェに短パン姿の女性アイドルのことを「整形してる」「性格悪い」とか延々毒づいているし。 部屋を出る際、今迄みたく車で家に送ってくれそうもなかったから、 「送って頂戴」 と、私から。もう最後だから、二度と会わないから少しでも一緒にいたいと思ったのか。それとも解散を成る丈延ばしてイケズしたかっただけか。返事はなく露
6月某日 神 ①地元で、『神様』と呼ばれる男がいる。 市内の北神社と南神社に、高さ5メートルほどの石像が一体ずつあり、それがこのあたりの神様とされている。 像は南北いずれも、福福しい顔と軀。丁髷を結い、豪勢な化粧廻しをつけており……相撲が由来であるのか、確たる証拠はないが。 間違い探しみたいに、丁髷のかたちや廻しの柄がちょっとちがい。焼いてふくらんだ餅の如き尻にはイボが、片や右、片や左に。 両者は同一の存在でなく、双子だと云われている。『仲が悪いから離れた場所に社
6月某日 子 6年前、夫との新婚旅行で、ある孤島に1日だけ寄った。 おもに農牧をしているらしい、家畜のみならず人さえも支配されているような、色のあわい緑ひろがる島だった。 ちょうど今日みたいに雨が降りそうで降らない、白とグレイのフェルトでつくったような空で。 妙だったのは、ときおり視かけた、人形みたいな子供たち。厳密に云えば、セルロイドと、人間のはざまのような。髪や皮膚が糊で固めたように艶々して、首・腕・脚といった関節のうごきがぎこちなく、水晶みたいな碧の眼はぴ
有難うございました!
わたくしの(妄想)食わず嫌い王決定戦(昔とんねるずの番組でやってたタレントの嫌いな食べ物をぜんぶ食べたうえで当てるクイズ)。 ①ナスのポン酢浸し ②生ネギぶっかけうどん ③とろ鯖寿司 ④オクラの豚肉巻き クセある具材ばかり並べる狡いタイプの出演者(笑)。
5月某日 邸1 邸宅にて、主である老人が、木目調のグランドピアノを弾く。皆でかこみ、聴く。老人だが、プレリュード。第◯番が終るたび、客人たちは椅子取りゲームよろしく飲み物を手に笑いながら席替えし、サンルームのガラス壁ガラス天井の反響、すこしあけた所からの風と緑のささやきによる聴き応えの違いを愉しみ。 「次の譜面はどこ?」 と、老人はよく止り。こんなお金持ちなのに、譜めくりの役をこなせる人間はゼロなのか誰にも、執事にさえ助けて貰えず。ついには苛だって撒き散らすが、結局じ
赤い傘を、さしてゆく。 私のでない、むろん彼のでもない女物の、ほんの微かにダマスククラシック薫る、傘。 飴色に艶めくバンブーのハンドルをもち。もう雨のひとつぶも降っていないけれど、ひらいて。 なんとなく傘の赤にそろえた、厚底サンダルのおもたい脚がふらつき浮くのは、さっき紅茶より多めにいれたブランデーのせいか、例年より早く日本を舐めまわした台風がおおかた去り警報も解けたとはいえ、名残の風に身をすくわれているのか。民家の塀のうえや、電柱の側面をちょっと歩いては、アスフ