武川蔓緒

ムカワツルオです。みじかい小説を書きます。シュールだったりちょっとレトロだったりです。…

武川蔓緒

ムカワツルオです。みじかい小説を書きます。シュールだったりちょっとレトロだったりです。写真もイラストも基本は自家製です。趣味は音楽・映画・アート・ファッション等、主に昭和のものに尻尾をぶんぶんふります。

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  • 掌篇・短篇小説集

  • 読切掌篇小説『Z夫人の日記より』

    日記形式ですが続き物では基本ないので何処からでも読めます。舞台のイメージは昭和と平成のはざまあたりのパラレルワールドといった所です。 ©️2021TSURUOMUKAWA

  • その他

    勝手に100の質問に答えたり、小説の感想やエッセイ的なの書いたり、色々。

  • 朗読企画

    朗読して戴いたり、己でしてみたり、音楽をつけて貰ったり。

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【ピリカ文庫】短篇小説『里神楽』

 アールデコ調のエントランスの屋根で羽をひろげる孔雀は、飾りかと思ったら、本物。  親類の結婚披露宴に招待されたので、帰郷がてら、行ってみる。  会場は、この地方で唯一の巨大ホール。人気歌手や劇団がコンサートや芝居でやってくるならココ一択という、そんな場所を一個人……厳密に云えばふたつの豪商の家が、貸切にし。そして見事な迄に、満席としている。  三階の座席より、はるかに見おろすステージに於いて、金屏風を掲げ、たとえ快楽殺人を犯していても清麗に映るスポットを浴びているのは、

    • 短篇小説『ゴールドフィッシュ・ブギー』

       金魚鉢の街で。  すこし肌寒い水。今日は。  結婚式だろうか葬儀だろうか、忘れてしまったしどうだっていい。ただ黒のスーツとかワンピースとか着物とかが佃煮ほどいっぱいいて、みんなうごく度わらう度肌寒い、ちょっとカルキくさい水が揺らめいて。おおきな泡を団子みたいに浮かせて。  泡ふいてみんな気絶するか、皮膚呼吸のやり方忘れて溺れ死んじゃえばいいのに、って思う。何処の誰が結ばれようが孕もうが寿命を全うしようが非業の死を遂げようが、鉢の底、じゃなくって心の底からどうだっていい。

      • 掌篇小説『Z夫人の日記より』<158>

        5月某日 弟  白い靴。白いコート。  私は身につけない。穢れるから。  母が入院する、  と、弟が現れる。  母にも私にも誰にも似ていない。未だ青年ぽい雰囲気。  おなじ母から生れたことだけは妙に確信しているが、ほかのことは何ひとつ知らない。成人してから会うのは初めてだろうか。私を隠せるほど、肩がひろい。  蟠りもシミひとつもない顔で、語り口もやわらか。ちょっと雲のかかる、白っぽく陽の傾きかけた刻に現れることが多い。本人の顔や手や着ているロングコートも靴も、いつ

        • 掌篇小説『火曜の女』

           風薫る季節。  その町ではお見合いの制度が古来よりあり、今もなお淡々と続く。  誰の御告げやら神託やら不明だが、ランダムに一方的に未婚者の町民同士の組合せが決められ、毎月七日の申の刻に、男女二人が、会う。場所は自由。親族や仲人は介在しない。いつの時代からかその形が為来りとして、護られている。  苔むしきった慣習ゆえ、その気の全くない者、および同性愛者等が巻き込まれる事態にもとうぜん陥るが、結果が良縁となろうと時間を溝に棄て終ろうと、「おめでとう」「残念だったね」「しっか

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        【ピリカ文庫】短篇小説『里神楽』

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        記事

          ラジオ『すまいるスパイス』3周年

           プレデターございます。  もとい、  おめでとうございます。  いちばん印象に残った回……もう配信終了しているかと思いますけれど。  私はすまスパを第1回ピリカグランプリが終ったのちから聴きはじめました。まだ「ネットラジオて何?」という感覚だった頃、カニさんをゲストに迎えての「審査裏話」の回が印象的、というか衝撃的でした。 「応募10人ぐらい来ればいいかと思ってた」 「誰も来なかったら審査員で賞金分けようかって(笑)」 「いざ蓋を開けたら凄い数で、読むのに目にきた肩に

          ラジオ『すまいるスパイス』3周年

          掌篇小説『日曜の女』

           風薫る季節。 「日曜会ってみて頂戴、いいお嬢さんなのよ」  大伯母は家にくると僕に土産のように見合いの話をもってくる。子どもの頃はいつも図鑑を買ってきたものだ。いずれにせよ僕に無用なコレクションであるのに変りはない。  しかし今回は妙だった。見合いの話と云いながら、図鑑の一枚となる筈の相手の写真を手にしておらず。只「いいお嬢さんなのよ」と云われ、住所のみ手渡された。 ◆◇◆  街も眠たげにうすく霞む青天におおわれた日曜、その住所へと独り出かけた。どこかの喫茶店かホテ

          掌篇小説『日曜の女』

          掌篇小説『Z夫人の日記より』<157>

          4月某日 湯 『春の夢』と通称呼ばれる温泉郷にきた。母をつれ。  春が終ったらどうなるのだろう。春より前は何をしていたろう。  堤のしたを流れる河が総て温泉であるらしい。湯気もたたず匂いも感じないけれど。  桜などとうに散っているのに、河の左岸のこちらも数十メートルさきの右岸のあちらも、欄干にそい何故か赤系のみのビニールシートを広げた老若男女で溢れかえり、お弁当やバーベキューやビールや抹茶やベイクドチーズケーキ等が鼻をつき。それで湯の匂いが嗅げぬのか。 「母をつれ」来

          掌篇小説『Z夫人の日記より』<157>

          今あなたに話すと遠い物語

           小牧幸助氏主宰の『シロクマ文芸部』。  最初の一節だけ提示され(ex. 誕生日)、あとは小説でも詩歌でもエッセイでも、長短も自由に書きませう、という企画。  昨年4月より毎週催されていますが、「週の真ん中にお題が発表され、日曜夜に締切」というデフォルトも面白いですね。趣味で空き時間に嗜むもよし、瞬発力を高める修業の場とするもよし……  で、不肖わたくしも趣味と修業の間辺りで、気づけば十数篇書いており。お題と短い執筆期間による化学反応か、一日で自己ベストな文字数書いたりとか、

          今あなたに話すと遠い物語

          掌篇小説『Z夫人の日記より』<156>

          8月某日 貨  偽造硬貨を選り分けるバイト。  どこかの安めな紙幣になりそうな顔の男が、十円玉ぎっしりの半透明なゴミ袋を計3つ、朝の玄関においてゆき。  十円玉は手に取ったおおきさや重さはどれもおなじだが、ニセモノは表面に字も画も立体的に刻みつけてはおらず、唯イラストで描いてあるだけ。  イラストとは云え、御堂の柱や瓦まで本物より精密に描かれたものもあり。虫眼鏡でのぞくと、ブラウンの暮れ時もしくは明け方に狩衣の人間が今にもとおり過ぎる気がして、うっとり。  その一方で、

          掌篇小説『Z夫人の日記より』<156>

          いまのキミはピカピカに光って

          ↑こちらの続きです。 ◆『拝啓マーシャル』転調  お題は「文芸部」でしたがほぼ無関係に、そのお名前通りに転調してゆく痛快さ。 「2周目」というのは今年某テレビドラマで話題になった「失敗した人生の(タイムワープによる)やり直し」ですね。でもドラマとはやっぱり無関係に、転調さんならではの時も国も軽々跨ぐワードセンスがひたすらに楽しく。全体像がとりとめないものになってしまいそうでならない、通底した音楽(私的にはヒップホップよりも新しめのジャズみたいなイメージ)が其処に流れるよう

          いまのキミはピカピカに光って

          唇よ、熱く君を語れ

           小牧幸助氏主宰による、『シロクマ文芸部』。  とても門戸の広い企画でありつつ、執筆期間の短さがスリル、というギャップがいいですね。トロい自分にはムリかなと思っていたら、気づけば7ヶ月で10数篇ほど粗茶を淹れておりました。飲んでくださった皆様有難うございます。  短期間でゼロから書くとなると私の場合、勢いでいてこますほか無いのですが、そうすると素のじぶんに恥ずかしいほど近いようなもの、逆に何コレ? と言うほど果てしなく遠いものが現れたりして、完成度はさておき面白く感じていま

          唇よ、熱く君を語れ

          掌篇小説『Z夫人の日記より』<155>

          12月某日 博  北国へ。或る作家の記念館へ。  壁いちめん、床まで黒く、照明にぎらりと熙る。ちいさな窓に切り抜かれた空は、昼時なのに静脈みたいに蒼ざめて。  1階のショップにて、記念された作家自身とおぼしき、着物姿の霊が、人気グッズらしい星座表のプリントされたキャップを被り、己の文庫本を舌打ちしつつ読んでいる。昔のひとだからか私より背がひくく、華奢な肩。  詩作のワークショップがあるというので参加する。  講師は夫妻で、忘れたがどちらか一方が詩人で、もう一方が脚本家

          掌篇小説『Z夫人の日記より』<155>

          掌篇小説『Z夫人の日記より』<154>

          12月某日 橋  首都へ。  通称『をんな橋』と呼ばれる、何故だかそこだけ人のかよわぬ、欄干に御札のいっぱい貼られたアーチ橋のてっぺんで、寝袋をつかい野宿した。  夜明けに眼醒める。腕時計を視る。冬にしては、はやすぎる夜明け。ぼんやりした頭で陽にてらされた西側の街を眺めていたら。マンションだろうビルの屋上から、顔まで覆った赤の全身タイツの、起伏のとぼしい恐らく男と思われるひとが、躊躇いなく飛んだ。けして近くはない場所だが、地上のブルーグラスに叩きつけられ首や脚が明後日のほう

          掌篇小説『Z夫人の日記より』<154>

          掌篇小説『Z夫人の日記より』<153>

          12月某日 列  振り返ると、たいした事のない1年。回顧も、来年の展望も莫迦らしくって、唯今日を生きる。重力および引力にまかせ。  ショッピングセンター。  なじみのブティックで女店主と閉店時間を遥かに超えて話しこみ。ともにビル内で食事し、呑み。 「泊ってけば?」  と云われ、ブティックでボンボンの垂れた帽子つきの、ピエロ服のようなパジャマのようなのを借りて着て、長椅子で寝る。  丑四つ時、眼が醒め。トイレにゆくついでに彷徨く。ムードを出して蝋燭といきたいが、懐中電灯を手

          掌篇小説『Z夫人の日記より』<153>

          ちいさな小説群<10>

          【No.058】  某刑務所にて服役中。上下白い服を着て、ほかの罪人の男たちとのんびり歩いている。グラウンドでドッヂボールをして、火照った軀をさましつつ、大部屋に帰るところ。薄曇りだが、天国へ迎えてくれそうでくれない金色の西陽がふりそそぎ、如何なる人間もいじらしく、無邪気に視せ。看守はおらず、客観視すれば学生たちが体育の授業を終え校舎へ戻る風景と大差ない(齢がバラバラであることを省けば)。  うすい髪が産毛みたいに光るおじさんが隣に。話しかけてくる。手に、手にあまるほどの赤

          ちいさな小説群<10>

          掌篇小説『Z夫人の日記より』<152>

          8月某日 虫  地方のバー。  いちおう歌の仕事じゃなく客として下見にきたが、マスターからいきなり「数曲歌え」と云われ。最奥の、床より数センチ高い、歌用でなかろう畳の舞台へのぼる。  客席では中年以降の男たちが、囲碁将棋をしたり競馬新聞を煙草で燃やしたりパチンコ玉に色を塗りビー玉遊びしたり「家で作った」というキムチをぶん投げて振る舞っていたり「四十四代目の俳号は知ってまっしゃろな?」「出汁が濃すぎる饂飩みたいに視えてへんのとちゃいまっか?」とかなんとか云いあい、中高年同士で

          掌篇小説『Z夫人の日記より』<152>