放浪猫ドミニク

どういう風に音を立てるのか判らない、かたっという秘密のドアの鍵を開ける音がする、久しく聞かなかった音だ
「ボン・ジュルノ」
柔らかい茶色の耳が二つ、照れたような笑顔が飛び込んで来た
(まあ、ドミニクだわ。ああ、ドミニクだわ)
一癖ありそうな面魂、顔にも胸にも無数の喧嘩傷をつけたような放浪猫
それでいて、どこか育ちの良さを感じさせる品のあるものごし
そのドミニクが帰って来たのだ
 一年前、彼はいつも窓際に座っているここと恋に落ちた。
「すごいんですよ。毎日、窓越しに見つめ合っているんですよ
。この間なんか、急に激しい雨が降ってきたのに、ここは窓際を動かない
どうしたのかな?と、思ったら、ドミニクがぼくの車のしたに潜り込んで、そこから、じっとここを見上げているんですよ」と
家附き娘のここと世界の湊を旅して歩いているようなドミニクの恋
 ある日、外の庭で遊んでいたここは、庭の隅に居るドミニクを発見した。ここがドミニクをめがけて突進した
なんとドミニクが逃げ出した。思い切り背伸びをしたここは、丈高い草地の中に潜んでいるドミニクを見つけ出し、又もや、ドミニクにむかって、突進する
静かな窓越しの恋が動き出したのだ
(、、と私たちは思った。)
突然に、ドミニクが姿を消した
窓際に座り続けるここ
(何故?ドミニクは逃げたのだろう?)謎のまま、一年が過ぎた
そのドミニクが帰ってきたのだ。

青く澄み水のみにて咲くヒヤシンスどこかまぶしき世界のある
降る雪は魂鎮めするやはらかき太古のまひるに触れゆくやうな
二月の闇 蝋燭の灯をともさうよ 素顔より真顔みせたくなく

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