『夢幻』予告文
現代の大人はいつも忙しいものです。
忙しくて、普段は感傷から逃れている気になりますが、それでもなにか満たされない瞬間があります。
たとえば、日常の喧騒から逃れてほっと一息ついているとき、安らぎを感じながらもふと感じる寂しさ―
たとえば、忙しさにかまけて人生の目標達成に近づいていると思いつつ、人生をいくらか浪費しているような気になって感じる失望―
たとえば、過去の出来事を思い出して、懐かしみつつも込み上げる羞恥心や後悔、喪失感―
そんなとき、あなたのなかに、そっと滑り込んでくるなにものかを「浪漫」と呼ぶことにしましょう。
いえ、滑り込んでくるという言い方はふさわしくないかもしれません。あなたが潜在的にであれ顕在的にであれ、意志に基づいて求めているものかもしれません。たとえば漱石やルソーが書いたように。
「浪漫」とは、意志の力に支えられた情熱ともいえるかもしれません。
このような気持ちは、人生が長くなればなるほど、表向きはなくなってくるようで、実はある瞬間に強い衝動を伴って押し寄せるものです。ある時には、この気持ちが現実社会の新しい活動の原動力となるでしょう。いっぽうでまたある時には、この気持ちが新しい奇妙な世界への扉を開くかもしれません。
我々『夢幻』編輯所とそこに集った同人は、上記のような現代の「浪漫」を嗅ぎ取って、それに身を任せんとする者です。こうした「浪漫」的要素を皆様にお裾分けしたり、お届けしたりできないかと考えて集まりました。
そしてこのたび、皆様の「浪漫」心を刺激せんとして、文藝同人誌『夢幻』を発刊するはこびとなりました。間もなく、皆様のもとへとお届けできることと思います。
願わくば皆様と一緒に浪漫できることを!
明治157年(大正112年)3月 『夢幻』編輯所一同
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?