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日常の記(8) 常圧限界の蒸留

 実は筆者はそこそこお酒が好きです。しかしながら決して強いわけではなく、概ね各種のお酒共にそれぞれに合った器3杯くらいが、気分良く酔える限界です。
 少量限定であれば、ある程度強いお酒の味わいも好きです。バーボンやスコッチは概ねストレートで頂きますし、ラムやテキーラも思い出したように買ってくることがあります。ウォッカやジンも、カクテルの素材だけにしておくのはもったいない感じでしょうか。
 そういったものの中で少し面白いお酒が、ポーランド産のウォッカの「スピリタス」です。
 スピリタスはアルコールの濃さが96%という、製造者の並々ならぬ決心の様なものがうかがえる強さのお酒です。ちなみに96%というのは、常圧の環境で蒸留できる限界濃度とも聞いたことがあります(未確認)。そう考えるとなんだかすごいお酒です。本場ポーランドでは飲用よりむしろ消毒に使うとか、そんなまことしやかなお話すら聞いたことがあります。
 尚、他人を酩酊させて犯罪を行う為に使う不届き者もいるそうですが、純粋に犯罪行為としても、お酒に対する冒とくという意味でも、けしからぬことであると思います。
 筆者の場合について、他の蒸留酒はストレートでの飲用が多い気がしますが、このスピリタスに限ってはなかなか難しいことです。必ず水で割るわけですが、割ってなおかなり強いお酒だと思います。
 ストレートを試したことももちろんあります。
 その際の感触なのですが、まず口に含んだ瞬間は、ぽわんとした温かさだけを感じます。直後、徐々にびりびりとした感触が口腔内をやすりの様にかけまわり、飲用後には、一定時間触れていた口内部位に少しの間かさかさした異常な感触が残ります。嚥下後には、のど越しと同時に食道から胃にかけて鈍い痛みが徐々に下がってゆき、そして最後に響き渡る割れ鐘の様な胃部の鈍痛が体内にこだまして、独特の余韻を残すのです。消化器系の悪性新生物形成への不安を呼び起こす感触です。そういったわけで、話題作り等の為に微量の挑戦をすることはあってもよいかもしれませんが、著しく健康に悪そうですので、これの本格的なストレートでの飲用はあきらめるべきでしょうね。
 しかし、同量くらいの水で割って50%程度とすると(それでも強すぎますけれど)、それなりに美味しくなります。飲みながら考えることは、「ロシア産の普通のウォッカがこんな感じだな。わってしまうと、成程ウォッカではあるのだな」といった極々普通の感想です。
 最近調べてわかったのですが、通常販売されているあのウォッカというお酒は、一般に96%位になる原酒を生産し、それを水で希釈して製品としてのウォッカとするということでした(きわめて乱暴な言い方をすれば、ですけれど)。なんのことはない、スピリタスは言ってみれば原酒をそのまま製品にしている様なものであったわけです。一方の一般的なウォッカの方が、そもそも96%の原酒を水でわって製品化していたというこで、つまりはスピリタスを自分の手で水で割るのにほぼ等しい感じでした。スピリタスの異様な強さから何やら神秘的とすら思えるような特別感を覚えすらしますが、まあ結局どちらもウォッカの一種であるという点では大きな違いはなさそうです。
 たまたま作文の流れでスピリタスばかり取り上げましたが、強いお酒でおいしいものは、他にたくさんあると思っています。
 口当たりの良さではラムがピカイチ、くせの味わいを求めるならジンやテキーラといったあたり、ウオッカ系統でもズブロッカというのが香りのよいお酒です。なぜか瓶にわらしべみたいなバイソングラスが必ず1本入っています。
 いずれも強い種類のお酒ですので、ストレートなら少しだけ舐めてみるのを推奨します。量さえ間違えなければ、味わいとしてもある種の文化体験としても、お勧めです。

 尚、エタノールへのアレルギーがある方、アルコールやアルデヒドの代謝が遺伝的に困難な方等は、絶対に飲用しないでください。

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