クタのビーチで

豊満なバリの女性がおおきな目を見開いて、ベッドに仰むけになる私の顔を覗き込む。

「いっつこーるど、いっつこーるど、、」
そう訴え続ける私に、彼女は困った顔をしながらエアコンで温度調整をする。タオルを一枚しか掛けていないから寒いのか。しかしここは南の国、バリ。たとえ暑くても寒いわけがないのだ。

バリ旅行の最終日、ホテルのエステを予約した。初日に到着してウェルカムエステなるものを受けたときの彼女のふっくらとした手が忘れられなかった。包み込むように、やわらかく揉んでくれる手つきが気持ち良くて、最終日も予約したのだ。それなのに、あまりの寒気にそれどころではなかった。

エステが終わると、寒さを逃れるためにうつろなまま外へ出る。一歩踏み出した世界は、真っ赤だった。眼前にはおおきな夕日がポッカリと浮かんでいる。フラフラとした足どりで夕日の浮かぶクタビーチへと向かう。かがやく波に乗る人々や、砂浜に腰をかけて幸福そうに語り合う恋人たちが、赤い光に照らせれて影絵のように揺らめいている。日本のはかなげな夕焼けも美しいが、こんなに彩度がたかい夕焼けを見たことがなかった。

真っ赤な空気が全身に入り込んでくる。体は粒々に分解され、粒と粒は微細に振動し、赤い光をすみずみにまで運ぶ。体は熟れすぎたザクロのように赤く腫れ上がり、甘く危うい目眩におそわれる。よせては返す波を捕まえようと、砂浜を歩き海へと向かう。

ふと、あのふっくらとした手が私に触れる。握り返すとやさしい気持ちで満ちたりた。夕日が沈んで夜が訪れるころ、クタの町を少し歩くことにした。

ベンチがあれば、そこに座ろう。夜がきらめく。

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