マガジンのカバー画像

短い小説のようなもの

21
運営しているクリエイター

記事一覧

足が悪い男

男とよくすれ違う。 たとえば道の途中だったり、近所のスーパーマーケットだったり。 男は20…

M.Masako
3年前
3

旅にでる

窓を開けていると、風に乗ってみずみずしい草の匂いが行ったり来たりする。車が走り抜ける音、…

M.Masako
3年前
5

お腹の反対

1年ほど風呂に入っていない。外に出ないので問題はなかった。しかし、ここにきて背中がとても…

M.Masako
4年前
5

わたしのこいは

池で飼っているこいが、ぶくぶく太って、わたしの身長とうとう超えた。「ああ、こりゃいかん」…

M.Masako
4年前
8

クタのビーチで

豊満なバリの女性がおおきな目を見開いて、ベッドに仰むけになる私の顔を覗き込む。 「いっつ…

M.Masako
4年前
6

愚問の来

朝、目が覚めてカーテンを開ける。窓の外は半透明に煙っていた。先の見えない世界にいざなわれ…

M.Masako
4年前
3

頭の中の砂嵐

頭の中でザーッと砂嵐がなっている。手を頭の中に突っ込んで、砂をつかみ取る。今度は目の前のテレビへ投げ入れる。テレビ画面にはノイズが走り、砂が規則正しく舞っている。チャンネルを変えると、ウイルスの話題で持ちきりだった。どんなに科学技術が発達してもウイルスで世界経済までもが混乱しているのだ。辟易してきたのでテレビを両手で持ち上げて、床に思いっきり砂を撒き散らす。砂嵐はだんだんと勢いをなくし、ただの砂になってしまった。それを掃除機で吸い取り綺麗さっぱりなくしてみたが、またすぐに頭の

へそ

「あなた昨日、何してた?」 「え!?昨日? 昨日は…普通に会社に行ったけど」 「行って? …

M.Masako
4年前
4

うたかたの木

雨が降っている。空には色がない。灰色の道路には木々が等間隔で植え付けられている。ふと、一…

M.Masako
4年前
7

啼き声

「ねぇ 触って」 そう言って、君は右の頬を差し出す。 思わずポケットに手をしまいこんだ。 …

M.Masako
4年前
3

隣の男

朝早く、ゴミ出しのためドアを開ける。 おなじタイミングで隣の部屋の男性もゴミ袋を片手に出…

M.Masako
4年前
5

炎上猫

オーブンで猫を飼っている。 家に帰ってきたら、まず猫を焼く。オーブンから取り出した猫は焼…

M.Masako
4年前
9

冷蔵猫

冷蔵庫で猫を飼っている。 家に帰ってきたら、まずその冷え冷えとした猫を冷蔵庫から取り出し…

M.Masako
4年前
11

真夜中の手紙

真夜中に一通の手紙が届きました。 その手紙はしっとりと肌触りがよかったものですから、うっとりと体に巻きつけてみました。 手紙はスルスルと伸びてきて、私の肩に首に腹にまとわりつき、足首をやさしく締めつけるのです。 書かれた文字たちはコソコソと立ち上がり、耳元へやってきてはくすぐるように語りかけてきます。私はたまらなく欲しくなってしまい、一文字一文字やわらかく指で持ち上げ口へ運びます。それから舌の上でコロコロ転がして飲み込むのです。 甘く湿った文字は喉をすり抜け、溶けなが