天皇陛下のお名前

海外メディアや、日本のメディアの海外サービスを見ていると、今上天皇陛下を「The Emperor Naruhito」などと表現されているのだけど、我々日本人にとっては、陛下のお名前が「徳仁(なるひと)」であることを意識する場面はそう多くなくて、ともすれば「存じ上げない」なんてこともあるかもしれない。それはよろしくないだろうということで、歴史をふくめてちょっと勉強してみる。


陛下の「徳仁」は、諱(いみな)である。いわば本名、本当の名前のこと。

諱はもとは「忌み名」。本当のお名前を直接お呼びしてはおそれおおいということで、代わりに皇族の方々はそれぞれ固有の「御称号」をお持ちである。これはたとえば幼少時などに諱を避けてお呼び申し上げるとき用いられ、通常「〇宮」という形をとる(秋篠宮家などの「宮家」の「宮」と別の概念)。今上陛下の御称号は「浩宮(ひろのみや)」。御称号と諱をつなげて「浩宮徳仁(ひろのみや・なるひと)」と表記されることもある。幼少時には「浩宮さま」、皇太子となられると「皇太子殿下」、天皇の位につかれると「(天皇)陛下」などとお呼び申し上げる。宮家の当主の方であれば、秋篠宮さまなどと宮家でお呼びする。

しかしながら現在では、諱を直接お呼びするほうがふつうである。愛子さまは「敬宮(としのみや)」が御称号だが、愛子さまとお呼びするのが一般的。秋篠宮さまの3人のお子さまには御称号がない。


明治天皇は御称号が「祐宮(さちのみや)」、諱が「睦仁(むつひと)」。皇后(昭憲(しょうけん)皇太后)との間にお子さまはなく、大正天皇(明宮嘉仁(はるのみや・よしひと))は側室の柳原愛子(やなぎわら・なるこ)との間のお子さまであった。

なお、天皇の后(正室)を皇后、天皇の実母を皇太后(こうたいごう)、天皇の祖母を太皇太后(たいこうたいごう)といい、三后と並び称すが、大正天皇の実母である柳原愛子は皇后ではなかったことから皇太后および太皇太后に即位していない(昭和の御代までご存命であったものの)。歴史上最後の太皇太后は、1158年に太皇太后となった藤原多子(ふじわらのまさるこ;近衛天皇の皇后)までさかのぼる。

明治天皇のお生まれは1852年11月3日。父・孝明天皇の崩御により、1867年2月13日(慶応3年1月9日)に皇位を継承した。14歳であった。その後、1868年10月23日(慶応4年=明治元年9月8日)に慶応から明治に改元。同時に一世一元の制が定められた。新暦(グレゴリオ暦)が採用されたのが1872年(明治5年)であり、明治5年12月3日を明治6年1月1日としている。このあたり、時系列がややこしい。明治天皇の即位と明治時代の始まりは一致しないことを覚えておこう。

大正天皇のお生まれは1879年8月31日。天皇の位についた、すなわち明治天皇が崩御したのが1912年7月30日であり、1912年=大正元年=明治45年となる。皇后である九条節子(さだこ)(貞明(ていめい)皇后)との間に、昭和天皇、秩父宮、高松宮、三笠宮の4人の男子をもうけた。大正天皇に側室を持っていただく案もあったようだが、天皇であれど一夫一妻が妥当であろうということになり、今に至る。

昭和天皇のお生まれは1901年4月29日。御称号「迪宮(みちのみや)」、諱は「裕仁(ひろひと)」。4月29日は昭和の御代の天皇誕生日。平成になってから「みどりの日」となり、2007年以降は5月4日を「みどりの日」、4月29日を「昭和の日」と定めている。昭和天皇の即位=大正天皇の崩御が1926年(=昭和元年=大正15年)12月25日。年末であった。その後の激動の昭和時代はしっかり勉強するとして。皇后は良子(ながこ)・香淳(こうじゅん)皇后(香淳皇太后)。2000年6月16日に97歳で崩御された。昭和天皇との間に7人のお子さまをもうけられ(2男5女)、男子のおひとり目が現在の上皇さま、おふたり目が常陸宮さまである。

上皇さまのお生まれは1933年12月23日。御称号は「継宮(つぐのみや)」、諱は「明仁(あきひと)」。1989年1月7日、昭和天皇の崩御をうけて天皇に即位。平成の御代、我が国の象徴として君臨された。2016年に、退位のお気持ちのにじむお言葉を発表され、2019年4月30日を最後に今上陛下に譲位。5月1日より令和の御代が始まった。皇后・美智子さま(現在の上皇后さま)との間に3人のお子さまをもうけられた。今上陛下、秋篠宮文仁さま、紀宮清子(のりのみや・さやこ)さま(黒田清子さん)である。

今上陛下は1960年2月23日のお生まれであり、現在63歳でいらっしゃる。皇后・雅子さまとの間に、愛子さまがいらっしゃる。


補足であるが、皇室典範では、(今上の)天皇・皇后・皇太后・太皇太后の敬称を「陛下」、その他の皇室の方々の敬称を「殿下」と定めている。また「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」により、上皇・上皇后の敬称は「陛下」とされた。一方メディアでは、今上陛下にのみ「陛下」、その他の皇族の方には「さま」をお付けしてお呼びするのが慣例となっており、本稿ではそれにならった。

なお、過去の天皇に「陛下」などの敬称は加えない。たとえば「昭和天皇陛下」とはお呼び申し上げない。これは、「昭和天皇」という表現が、(昭和当時の)陛下の崩御後におくられた諡(おくりな;追号・諡号とも)であり、これ自体に敬意が込められているからと言える。言うまでもないが、ご存命・ご在位中から「(元号)+天皇」とお呼びすることはたいへんな失礼にあたる。

天皇が亡くなることを特別に「崩御(ほうぎょ)」という。皇室典範には「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。」(4条)との表現が見られる。上皇、三后(皇后・皇太后・太皇太后)や、外国の王・女王などが亡くなったときも「崩御」を使う場合がある。その他の皇族の方が亡くなった場合には「薨去(こうきょ)」という言葉が用いられるが、メディアでは「ご逝去」と表現する例も多い。


暗記!
明治天皇 睦仁(むつひと)
大正天皇 嘉仁(よしひと)
昭和天皇 裕仁(ひろひと)
上皇さま 明仁(あきひと)
今上陛下 徳仁(なるひと)

1867年 明治天皇即位
1868年=明治元年
1912年=明治45年=大正元年
1926年=大正15年=昭和元年
1989年=昭和64年=平成元年
2019年=平成31年=令和元年