800字SS

ドリームダイバー

 小さい頃から夢の中で遊ぶのが好きだった。明晰夢とも言ったりするが、夢であることを自覚して行動したり操作したりするのが得意だったし楽しかった。アニメの魔法少女を真似て変身したり、技を繰り出したりする。ひそかな趣味だったそれが、まさか仕事になるとは思わなかった。
 ドリームダイバーの仕事は、人の夢に入って深層心理を探ったり、トラウマなど恐怖の対象があれば討伐するのが役目。精神科医やカウンセラーとチームを組み、彼らの指示に従って患者の夢の中を探索するのが主な仕事だ。
「センセ、私ゾンビは苦手なんだけど」
チームの担当医師にクレームを飛ばす。まさに今、患者の夢の中で私はトラウマがゾンビとして具現化したものを目の前にしていた。迷路のような暗い路地裏で、背後には患者の少女。震えて泣いている彼女を抱き寄せながら囁いた。
「いい? 光のバリアがあなたを守るから。あなたも自分が光に包まれているところを想像して!」
そう、夢の中では想像力がそのまま力になる。私は眉間が痛くなりそうなほど強く念じた。彼女が光に包まれ、その光でゾンビが焼かれるところを。両手を合わせてから左右にゆっくり開き、光の剣を作り出して、進行方向のゾンビたちを薙ぎ倒していく。ふと、背後の光が弱まった。彼女の恐怖心が想像力を上回ってしまったのだろう。私は急いで駆け寄って彼女の腕を掴んで、飛んだ。
「夢の中じゃ何でもありなのよっ!」
地上でうごめくゾンビたちに向かって、私は手のひらからビームを放った。爆発し、炎上する様子を背景に私たちは飛び去る。明るい方へ、もう怖くないところへ。彼女をしっかり抱きかかえて、夜の街並みを飛んでいく。地平線の近くが淡い色に変化し始めた。朝だ。
「もう大丈夫だよ」
その言葉を言ったか言わないかの辺りで目が覚めた。
同時に目を覚ました少女は泣いていたが、こちらを見るとふっと表情を緩ませた。大丈夫、悪夢は全部、私が倒すから。

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