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恋占い

「アンドロイドの占い師?」
「そう、すごく当たるって有名らしいの」
同僚たちが噂する彼を私は知っている。リオという名前で、中性的な見た目の、物腰の柔らかな占い師だ。まだ彼が今ほど有名ではなかったころ、ネットの小さな記事をきっかけに彼を訪ね、それから私は常連客になっていた。

 駅から少し離れたところにある小さな占いハウスに彼はいる。最近予約が取りづらくなったが、今日は久しぶりに予約が取れた。
「今日もお願いします」
執事のような格好の彼は優しく微笑んで頷いた。私は前回相談した仕事についての報告と、新しい恋の悩みについて話し始めた。彼は幻想的な絵柄のタロットを広げると、いったん私にシャッフルさせ、それから丁寧に並べ始めた。彼の優しい語り口はスッと心に入ってきて、時折鋭い指摘にゾクリとさせられる。今日も私が好きな人と久しぶりに会えたことを言い当てられてドキッとした。
「どうしてこんなに私のことが分かるんですか? その……やっぱりAIだから、いろんなところで私を見ているんですか?」
人間とは処理能力が格段に違う彼なら、監視社会と言われる現代のことだ、監視カメラや各種通信データを傍受して言い当てることも可能かもしれない。
「まさか。そんなストーカーのようなことはしていませんよ。私はAIなので膨大なデータを抱え、そこから情報を瞬時に引き出すことができます。でも、途中であなたにシャッフルしてもらったように、カードの出方まではコントロールできません。それでは占いではなくマジックになってしまう。私はただ出たカードを読むのが上手いだけで、本当にすごいのはカードのほうですよ」
そう言って彼は慈しむようにカードに手を置いた。ああ、カードが羨ましい。私も彼に優しく触れてほしい。
何を隠そう、私の好きな人は彼、リオなのだ。今日最後に出たカードは運命の輪。
「きっとご縁がありますよ」
そう微笑む彼はきっと私の気持ちを知らない。

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