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北の国から '83夏。 タイムスリップして巡る北海道の夏!

北海道へ行きたい。

北の大地が、俺を呼んでいる。

北海道、でっかいどう、HOKKAIDO。うわごとのように呟き、仕事も手に付かない。私の身体の中にある、北海道分が枯渇してしまった。こうなったらもう手遅れだ。旅人は定期的に日本各地の成分を取り込まないと、旅行熱が高まりすぎて大爆発を起こしてしまうのだ。爆発したらば最後、早急に北海道へと向かわなければならない。もしくはジンギスカンを摂取しなければ。

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最後に北海道へ行ったのは、もう2年前になるだろうか。大学時代から夏はツーリング、冬は雪まつりや湯治で毎年のように足を運んでいたので、これほどの長い期間訪れていないのは初めてではないだろうか。夏休みになると身体が真っ黒に日焼けするまで毎日ペダルを漕ぎ続けていたあの頃。いまではすっかり白くなった肌を見るたび、そんな日々が懐かしくなる。

折しも今年のお盆は雨模様。そうでなくとも旅へ出られないのに、雨降りとあっては外に出るのも億劫だ。暇を持て余し、家で動画を眺める毎日。

旅人なのに旅に行けない。旅の神様はそんな私を哀れに思ったのか、そっとレコメンド動画の欄にとあるゲームのプレイ動画を置いてくれたのだ。


まさかこのゲームが、今年の夏の主役となるとは思っていなかった。


ゲームの世界で旅をしよう!

そのゲームの名は、「新・北海道 4000km」。その名もズバリなゲーム名だ。

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ゲームの内容も、パッケージからなんとなくお分かりではないだろうか。そう、これは鉄道のゲーム。それも、北海道にある国鉄路線を隅から隅まで全て乗車することを目的としたゲームなのだ。

「国鉄」と書いたのは、もちろん誤記ではない。このゲームの舞台は今から約40年前、1983年の夏なのだ。時刻表や切符も当時のものが再現されているほか、車窓の風景や主要な駅では当時の駅舎の写真や駅のスタンプも見ることができる。

1983年夏。それは、北海道を走っていた国鉄の線路が最も長かった最後の夏だ。この夏が終わった10月、釧路支庁にあった白糠線が廃止となったのを皮切りに北海道の路線はみるみるうちに減少していった。1983年にはタイトル通り約4000kmあった鉄路は現在ではわずか2500kmほどまで減り、近年も利用の低迷や災害復旧の断念などの要因で廃止が進んでいる。今後もこの数字が減ってもおかしくない。

最近では苫小牧から襟裳岬方面を目指して走っていた日高本線が高波と台風により寸断されたまま復旧することなく、この春100km以上の区間が廃止となった。日高支庁には自転車ツーリングやドライブで何度か訪れたが、この路線に乗る機会は無かった。廃止されるのであれば、災害が起こる前に一度乗っておくべきだったと悔しい気持ちでいっぱいになった。

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路線だけではなく、特急列車や駅、駅弁もどんどんと廃止になっている。過疎化、利用の低迷、赤字の増大。さまざまな理由は数あれど、やはり1世紀近くの歴史を持つものが失われることは悲しいものだ。無くなったら最後、また復元することは容易ではない。

さらにこの状況下では、仮に廃止になったとしてもお別れすることもままならない。昨年4月をもって路線の一部が廃止された札沼線では、元々計画されていたさよなら運転が緊急事態宣言により中止となり、静かにその歴史に幕を閉じることになった。最後の勇姿を見届けたかった人もきっと大勢いるだろう。しかし一方では廃止直前の休日になると、最後の記念に乗車する人で通常では考えられないほど混雑していることも多い。この状況下では致し方ない判断だっただろう。

ちなみに廃止直前には、この路線の終点の新十津川駅には1日1往復しか運行されていなかった。始発と終電が同じ列車。一体どれ程の乗客数だったのだろうか。

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少しづつ鉄路が減っているこの時代。思うように旅ができないこの時代。こんな時代だからこそ、せめてゲームの中くらいは自由に列車で旅行をさせてくれないだろうか。

気づけば私は、ゲームの購入ボタンを押していた。


昭和にタイムスリップ!妙にリアルな旅感覚。

ゲームをコンピュータにインストールすると、取扱説明書を読むのもそこそこにプレイを始める。

このゲームのスタート地点は、札幌駅だ。全道に張り巡らされた鉄道網全てに乗車し、最後に札幌駅まで戻ってきたところでゲームはクリアとなる。

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ゲームの中では時計が動いており、時刻に合わせて列車が運行し、店が開店する。プレーヤーは時間に合わせて行動コマンドを選択し、列車に乗車したり、売店で物品を購入したり、宿泊したりしながら旅を進めていく。

ゲーム開始時の所持金は50000円。この中から交通費、宿泊費、食費等全てを捻出しなければならない。もちろん所持金が尽きたところでゲームは強制終了だ。しかし、何も考えずに食事や宿泊をしているとすぐに所持金が底をついてしまう。所定の駅で写真撮影をしたり、駅のスタンプや入場券を集めることで所持金が増えるシステムをうまく活かしてゲームを進めなければならない。

さらに、このゲームには健康度・満腹度・衛生度というゲージが存在している。満腹度はその名の通り、時間の経過で減っていき、食事をすると回復する。衛生度は行動しているとだんだんと減少し、銭湯や宿泊で回復する。体は清潔にしなければ旅は続けられないのだ。そして満腹度・衛生度のどちらかが0になると健康度が急激に下がり、健康度が0になると旅は強制終了となってしまう。

食べ物は特急の車内販売や駅弁のほか、駅の売店やそば屋でも購入できる。しかし、夜になると閉店してしまうので、早めに買い出しをしておかなければいけない。このゲームには24時間営業のコンビニなんてものはない、そのあたりも時代を感じさせる。

無茶をしすぎると健康面で旅行が続けられなくなるというところが、やけにリアルだ。きっと当時も、宿に泊まらず旅行をしていたような猛者もいたのだろう。それにしても、ゲームの中でも銭湯へ行ったり、コインランドリーで服を洗濯したりするゲームなんて、他で聞いたことがない。

しかし、それだけリアルに寄せているからこそ、本当に旅をしているような気持ちにさせてくれるのだろう。

命の限り乗り尽くせ!

実際にゲームを進めていくと、全ての路線に乗り尽くすのは思っていた以上に難しい。ある時は宿もない街で終電を無くしてしまい雨の中で野宿。またある時は、旅をするにしたがって所持金が減っていき、最後は無一文となり強制終了。

次第に節約のコツや上手な乗り継ぎがわかりはじめると、旅も軌道に乗り出した。宿にはできるだけ泊まらず、夜行列車で夜を明かしてひたすらに移動をし続ける。水曜どうでしょうもびっくりの移動方法だが、当時の鉄道旅行では常套手段だったそうだ。以前稚内のユースホステルで会った鉄道好きの旅行者が、そんな昔話を語っていた。今になってそんな思い出が、役に立つとは思わなかった。

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試行錯誤しながらなんとかクリアしたものの、ゲーム内の時間で18日間もかかってしまった。動画サイトで調べてみると、効率的に巡れば9日クリアできるそうだ。4000kmを9日でめぐる旅とはどんな強行軍なのか、ぜひ調べてみて欲しい。それを考えると、かなり非効率な旅をしたようだ。なにより現実世界で2週間以上も列車に乗り続けていたら、身体が凝り固まってしまいそうだ。

鉄道に乗るという、シンプルなゲームだからこそ奥が深い。鉄道はダイヤが決まっているから、運の要素はない。机上で計算することで旅程を検討できるところも実際の旅に近しいものがある。クリアができなくても、手軽に鉄分と北海道分を満たすという意味では充分面白い。昭和の時代へのタイムスリップだけではない。自分の青春時代へのタイムスリップでもあるのだ。駅の名前が表示されるたび、旅行先での思い出が蘇ってくる。

ゲームで旅行気分を味わい旅に出られない悲しさを紛らわせようとしたものの、北海道への気持ちはさらに高まってしまった。来年は、いや、来年こそは現実世界で北の大地を巡りたいものだ。


北海道に、いつか遠征へ行く日が来るまで。


北海道へ行くならば、是非サッカー遠征で訪れたい。もちろんコンサドーレの試合も良いが、最近北海道にチームが気になるチームが現れた。

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