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山なのに、スタグル?サッカー場の逸品を、尾瀬で味わう最高の週末!

オープンテラスで食べる、優雅な朝食。フレンチトーストには濃厚なバニラアイスを添えて。

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洒落た盛り付けが見た目にも美しい。日本男児の朝ごはんといえば、なんと言おうとフレンチトーストだ。暖かなパンと、冷たいバニラアイスとのハーモニー。口の中でアイスが溶け、パンと一体となって甘みが押し寄せてくる。まさに美味。

なんて、柄にもない食レポから今回の記事はスタートする。

さて、美味しいもの好きの皆さんは、このフレンチトーストがどこで食べられるのか、気になることだろう。お店はいったいどこにあるのだろうか、想像してみてほしい。

中目黒、代官山、オープンテラスというくらいだから自然が多そうな二子玉川?

残念。どれも不正解だ。


この素敵な料理をいただける場所、それは、

Photo from 2021-09-12 10-00-40 (2)のコピー

尾瀬だ。

なんと、このフレンチトーストは「尾瀬小屋」という山小屋で提供されているメニューなのだ。山小屋といえば、普通はうどんやカレーといったメニューが定番だろう。しかし、この尾瀬小屋は一味違う。

店内の様子を写真に収めたので見てほしい。木材をふんだんに使ったおしゃれな内装に、メニューのレアステーキが一際目を引く。メニューの紹介文を見ると、カレーも相当拘っている。よく見れば、WINEの文字もある。もちろんメニューはこれ以外にもたくさんだ。

この写真だけ見たら、ここが山小屋と想像できる人は少ないのではないだろうか。

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そしてこのレアステーキにはある秘密がある。

実はとあるサッカースタジアムでも食することができる。つまり、山で食べることのできるスタグルなのだ!

山とサッカー、これまで関わることがないと思われてきた二つのまさかの組み合わせ。どこのスタジアムで提供されているのかは記事の後半のお楽しみにして、まずは尾瀬までに至る道のりを紹介しよう。


夜汽車は走る。山へと向けて。

今回の旅は、深夜の浅草駅から始まる。日付の変わる直前の駅で発車を待つのは、普段は昼間走っている特急列車だ。

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この列車に冠された名前は、「尾瀬夜行」。名前の通り、この列車が私を山に導いてくれるのだ。

尾瀬。「夏が来れば思い出す」の歌い出しで有名な『夏の思い出』でも有名な観光地だ。ちなみにこの曲の歌詞はをよく読むと、「夏が来ると、初夏の頃咲いてたミズバショウのこと思い出すよね〜」という回想の歌だ。ミズバショウの見頃は5月ごろ。「アース・ウインド・アンド・ファイアー」の『セプテンバー』の歌詞が、12月に9月の夜のことを思い出しているのと同じ時間のトリックだ。

せっかくなので、記事のBGMにぜひどうぞ。


そんな尾瀬には、東北地方最高峰の山が聳えている。その名は、燧ヶ岳ひうちがたけ日本百名山にも選出される山の一つだ。そしてその名峰こそ、今回の旅の舞台でもある。

東北最高峰にして、その高さ2356m。例えば筑波山は877m、高尾山は599mだから、標高だけ書くとなんとも壮大な登山のようにも見える。しかし登山において標高と難易度は実は比例しないことがある。燧ヶ岳の場合、ルートにもよるが1800m近い場所まで車でアクセスすることができる。適切なルート選定とある程度の登山経験、そして体力があれば、そこまで難易度の高い山ではないだろう。


浅草を出発した夜行列車は北千住、新越谷、春日部に停車して、いよいよ山へと向かっていく。さて、夜行列車なんていうとロマンチックで優雅な旅のような響きだが、実際にはなかなか難儀なのだ。普通の座席な上に、洗面所などに移動する人に配慮してか照明も暗くならず、眠ろうとしてもなかなか眠れない。明日も早いからここで休息を取らなければ、そう思えば思うほど、目が冴えていってしまう。普段は眠くなくても寝てしまって乗り過ごすことばかりなのに、どうして人間の体とはこうも不思議なものなのか。

とりあえず目を閉じて体力回復に努める。そのうちにようやく短い眠りに入ると、次に目を覚ました時には目的地の会津高原尾瀬口駅に到着した頃だった。

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列車の扉が開き、ここからはバスヘと乗り換える。今回の山行のスタート時点、沼山峠まではバスで2時間弱。尾瀬とはこれほど山深いところなのかと、改めて感じさせる。幸いにもこちらは発車すぐに車内照明が消えたので、しばしの休息を取る。

次に目が覚めたのは、夜行バスの照明が灯いた時だった。目的地に到着したことに気づく。ここからが旅のスタートだ。まずは尾瀬沼方面へと向かって歩き、その後登山道へと入り本格的な山登りが始まるのだ。


登山家は頂を目指す。

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尾瀬沼周辺は、木道の上を歩いていく。このあたりは、本格的な山の装備がなくても散策できるだろう。尾瀬といえばこういった木道の風景を思い浮かべる人も多いだろう。自然保護のため、この上を歩かないといけない。

途中で分岐があり、山頂方面へは長英新道と呼ばれる登山道へと進んでいく。山道は緑の色濃い山中へと分け入っていくコースだ。天候はそれほどよくないが、幸い雨は降っていない。

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眺望のない山の中を歩いていく。1合目、2合目という看板を心の頼りにして、ゆるい登り坂を登る。4合目、5合目、数字が増えるに従って、段々と道が険しくなってくる。しかし、これは山頂へと近づいているというサインでもあるはずだ。休憩を挟みつつ、さらに上を目指す。

すると、不意に開けた場所に到着した。

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雲の切れ間からは、尾瀬沼の姿が見える。さっきまであの辺りを歩いていたはずなのに、気づけばあんなに下にある。登山中に達成感を味わえる瞬間はいくつもあるが、その一つは自分が歩いてきた道を振り返った時だ。ほんの数時間前にいた場所が、あんなに遠くに見える。あんなに小さく見える。自分の足で、ここまで辿り着いたんだ。それを実感できるのだ。

振り向いて上を見ると、靄の中に山頂の姿が現れた。しかし、頂までの道のりはまだまだ遠い。下の風景が小さく見えるように、目的地もまた、遠くに遠くにあるのだ。

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方向を変え、さらに上へ上へと歩いていく。既に標高は2200mを超え、高さ方向では残り150mほどだ。しかし、数字だけで判断すると痛い目を見ることが多いのだ。

森林限界を越えたのか、高い木が減り植生が変わる。周りを見渡すと周囲の山々がよく見える。一方で、遮るものがないということは風を直接受けることにもなる。身体を冷やさないよう、防寒装備を整えながら山頂を目指す。時に狭い道を歩き、時に岩を登り、一歩一歩進んでいくのだ。

そしてその積み重ねの先に、ゴールはある。

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燧ヶ岳、無事登頂!

残念ながら山頂で晴れ間が覗くことはなかったが、こればかりは仕方がない。登頂記念に石碑を撮影しておく。山頂を示す碑や看板はしっかりしたものが設置されている方がいい。その点で燧ヶ岳は非常にどっしりと構えていて良い感じだ。


あのスタジアムのグルメを、山の中でも楽しもう!

山頂を満喫したら、下山だ。下りは尾瀬ヶ原方面の見晴新道と呼ばれる登山道で降りていく。しかし、この見晴新道、素敵な名前の割には眺望があるのは山頂近くだけで、後半は深い藪の中だ。さらに、数日前に雨が降ったのが原因か、はたまた湿原に近いこともあってか道が全体的にぬかるんでいる。雰囲気はさながらスーパードンキーコング2の沼のステージだ。

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写真の場所はまだ傾斜が緩いが、少々急な降り坂がぬかるんでいるようなところも見受けられた。足を取られないようにしながら、用心して進む。これから山頂を目指す人にも何組か出会したが、ぬかるんだ道を登るのはなかなか骨が折れるだろう。休憩中に、目的地まであとどのくらいだろうかと持参した山と高原地図をよく眺めると、「見晴新道はぬかるみの多い熟練者向けコース」との記載があった。なるほど、地図に書いてある通りだと納得した。

なんとか熟練者コースを抜けると、久しぶりの木道に辿り着いた。ここまで来れば、あとは難なく歩いていけるだろう。

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木道を抜けた先に、ちょっとした集落のような一角がある。山のイラストもおしゃれな看板によると、ここは尾瀬の秘境・見晴地区だそうだ。尾瀬自体がなかなかの秘境だが、その中でも秘境というのだから恐れ入る。そんな区域に、何軒もの山小屋がひしめき合っていて、まるで山小屋銀座だ。今日は、ここで山小屋泊をする。

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チェックインをして荷物を下ろす。一日歩いた足の疲労がここにきて押し寄せるが、久々の山登りとあってどこか懐かしくて心地よい痛みも感じる。時計を見ると、まだ15時すぎ。夕食の時間までは時間がある。せっかくなので、散歩しながら他の山小屋を偵察へと向かうことにする。

真っ先に向かったのは、山小屋がひしめくこの界隈でも、一際目立つ山小屋。そう、冒頭にも触れた尾瀬小屋だ。

黒板に描かれたおしゃれな看板、電飾にパラソル。オープンテラスの前には尾瀬の風景が広がり、贅沢な景色を見ながら食事ができる。

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看板を見ると、SINCE1957との記載がある。古くからの山小屋のようだ。しかし、以前尾瀬を訪れた際には、こんなおしゃれだっただろうか。記憶にない。最近模様替えしたのだろうか。

宿泊していなくても食事が取れるらしく、テラスはお客さんがたくさん。よく見れば、みんな楽しそうにお酒を飲んでいるではないか!夕食まではまだ時間がある。せっかくだから、私もおしゃれなテラスで乾杯しようじゃないか。

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そう思ってメニューを眺めると、これまた山とは思えないようなものばかり。

生ハムとサラミ、ピザにガレット。ドライフルーツとクリームチーズ。ソーセージの盛り合わせ。デザートもフレンチトーストにアイス。ここは東京のど真ん中なのか?いや違う、尾瀬の秘境だ!

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中でも、一押しメニューはレアステーキとのこと。山で疲れた身体に、良質なタンパク質を摂取したい。しかし、夕飯も控えている……。ここはやめておくべきか……。

そう逡巡していると、店員さんが私の背中を押す決定的なラストパスを出した。

このステーキ、川崎の等々力陸上競技場でも提供しているんですよーー

え?今、等々力って言いましたか?

とどろき、TODOROKI、轟、等々力。いろいろと変換してみたが、川崎の等々力といえばあれしかない。そう、川崎フロンターレの本拠地だ。

山で飛び出したあまりにも急なサッカーの話題に、驚いてしまった。話を詳しく聞くと、この山小屋の運営している会社は飲食事業として川崎駅前のスポーツバーや等々力陸上競技場でキッチンカーを出店しているそうだ。川崎サポの方ならば、「ALCキッチン」という名前でご存知のことだろう。8月の横浜FC戦では、マッチデースポンサーも務めたとのこと。そして、スタジアムなどで提供しているのと同じ良質な食材を使用した料理をを山小屋でも提供しているのだそうだ。

確認したところ、川崎フロンターレの公式サイトでも、レアステーキ丼が紹介されている。これは間違いない。

残念ながら、JFL党の私にとって等々力陸上競技場へ観戦へ行く機会は滅多にない。なれば、ぜひここ尾瀬の地で味わおうではないか!

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