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賃金のおはなし

 国主導による 賃上げだー賃上げだーという掛け声が勇ましいのですが、実質賃金は2年近く下落しています。
物価上昇に賃上げが追い付いていないわけですから、個人消費が低迷するのは当然というおはなしになります。

さて。政府が言うような 賃上げ いわゆる官製談合で日本経済は何とかなるのでしょうか?

私は減税の方向でないと無理だと思っています。

なぜかと言うと、天引き等々が凄まじいからです。

皆さん、ご自身の給与明細をまじまじと見つめたことはありますでしょうか? 恐らく・・・

なんでこんなに手取りが少ないんじゃー!!

と、手取り額の少なさに苛立ってオシマイという人が多いのではないでしょうか?
(いやいやそんなことない。ちゃんと事細かく見ているという人ごめんなさい)

経営者サイドから見ている景色は、手取り額で不平不満を爆発させている社員さんたちとは少し違うと思います。

我々経営者サイドとしては、

結構な額の賃金を支払っているんだけどなあ~

という感覚なのです。
このような労使間で認識のギャップが生じる根源は給与天引き制度にあります。

賃金を身近に考えるとすれば、まずは時給でしょうか。
高時給というフレコミで有名なコストコを考えてみましょう。
スタートは1,500円。最高額が2,000円です。
同一労働同一賃金のジョブ型雇用であるため、日本企業でこれを導入しようとする場合は、

正社員の賃金が引き下げられアルバイトの賃金が引き上がる

という姿になります。

パッと見て高い給料だなあと思われるコストコですが、時給のインパクトに比べると月給のインパクトは大したことがないです。

時給1,500円x月20日x日8時間とすると・・・月給24万円
時給2,000円x月20日x日8時間とすると・・・月給32万円

となります。
いかがでしょう? 日本の場合、諸手当が色々とつくので、時給と月給とでギャップを感じることになりやすいのです。

 なお、記事中での計算は、厳密さには欠けるのですが、
週40時間勤務 月=4週x5日=20日 12か月で240日勤務という大雑把さで計算されていますので、微妙なずれはご容赦ください。
社会保険料率の計算も東京都としている上、大雑把に丸めていますので、こちらも正確な数字ではないです。

次に、手取りを見てみましょう。

東京都の社会保険料率を適用すると、
それぞれ、手取り19万円ちょい手取り25万円ちょいになります。
東京だとコストコの最高時給2,000円ぐらいはないと生活がシンドイなと思うのではないでしょうか?

さて。ここで少し目線を変えてみましょう。

月給32万円 天引き7万円 手取り25万円 が 目に見える数字となります。

が、経営者サイドから見ると、これはとんだ茶番劇にしか見えません。

会社が実際に支払っているのは、これにステルス社会保険料の5万円がプラスされているからです。
というのも、社会保険料は給料明細に記載されている額の2倍だからです。
(要は、社員と会社の双方折半であり、会社負担額は不記載なのです)

つまり、

本当に会社が社員に支払っている賃金は、月額37万円になるのです。
国からステルスで5万円を上納させられ、社員に見せられる額面は32万円
で、さらに7万円が天引きされて社員の手元に残るのは手取25万円となるのです。

手取りから見れば1.5倍も高い賃金が会社から支払われているわけです。

手取25万円前後のみなさん。
会社が支払ってくれている賃金が月額37万円前後だと知ったら、どう思いますか?
会社はそれなりに支払ってくれていたんだな、と思いませんか?
(思わない人、ごめんなさい。)
早い話が、

国が国民の不満を企業に押し付けている

というメカニズムです。
なんともまあ・・・同じ釜の飯を食う会社の人間同士、上下関係がギスギスしやすいようにしてくれたものです。

それはさておき。
とにもかくにも、これが社員と経営者の間での賃金に関する見方の違いであり、社員は少ないと思い、経営者は結構頑張ってるんだけどなと思う原因になっているわけです。

では、会社が支払う賃金が37万円とすると、社員の時給はいくらになるでしょう?

370,000/20/8=2,312.5円です。

これ、賞与なしの計算です。
賞与を1.5か月。年間3か月として考えてみてください。

37万x(12+3)=555万円になります。

これを労働日数である240日で割り算してみましょう。
日給で2万3,125円。時給では2,890円になります。
さらに年間20日の有給休暇を完全に消化するとなると、220日で割り算になりますので・・・
日給で2万5,227円。時給では3,153円になります。

いかがですか?
総支給額で年収480万円の人の時給は3,153円になるのです。

なお、賞与についてはコストコでは一定の条件の場合のみです。
そう考えると、コストコの時給って、それほど高いとは思えなくなるはずです。
仮に、パートやアルバイトで、シフトを組んで週の労働時間を減らし、社会保険料免除としていた場合は、手取りは増えますが年金は激減することになります。
いかがでしょう? 
コストコが高時給というイメージが崩れ去ったのではないでしょうか?

なお、日本では賞与が当然の感覚ですが、海外では賞与(ボーナス)は特別給扱いであり、一般的ではありません。

なぜ、日本では賞与が一般的なのでしょうか?

その理由も天引き制度に原因があるのです。
私がサラリーマンだった頃、賞与に社会保険料の天引きはありませんでした。
そうです。企業側にとっても社員側にとっても、賞与は天引きがない理想的な隠れ蓑だったのです。

そのため、大企業なんかだと1回3ヶ月。年間6か月といったとんでもない割合の賞与を出すこともあったのです。
年収480万円だとすると、18分割ですから、月収は26万7000円。
でも、ボーナスは1回80万円ぐらいになったのです。
当然、企業が支払う社会保険料は激減しました。
社員がもらえる手取も大きかったのです。
ですが、年金制度が苦しくなってくると、国は賞与にも社会保険料を掛けるように変えてしまったのです。
何と言いましょうか・・・

国は、徹底的に企業や国民をいじめたいみたいですね。

ただ、賞与は日本の文化として根付いてしまいました。
賞与がないというのは、企業の魅力を大きく損ねることになるため、どこの会社も賞与制度を維持せざるを得なかったのです。
その結果、企業は少しでも負担を減らすべくベースアップや定期昇給を引き下げていくことになりました。

国が賃上げだー賃上げだーと騒いでいるわけですが、経営者から見れば、お前らが賃金UPの邪魔をしてきたんじゃんか? となるわけですね。

さて。先程の計算で会社が支払う額が555万円。
年収にすると480万円の人のお話をしました。
現実には、中堅規模以上、中高年世代でないと、ここまでの賃金を出せないでしょう。

そこで、実際に近い数字で考えてみることにします。
最頻値の層が年収300万円程度。
中央値が、年収420万円程度。
平均値が、年収525万円程度。
となっています。

賞与を年3か月として、月給を割り出すと、それぞれ

年収300万円 / 15か月 = 月20万円 手取り16万円 ステルス3万円
年収420万円 / 15か月 = 月28万円 手取り22万円 ステルス4万円
年収525万円 / 15か月 = 月35万円 手取り27万円 ステルス5万円

という計算になります。

会社が支払う額は、それぞれ

15か月 x 23万円 = 345万円
15か月 x 32万円 = 480万円
15か月 x 40万円 = 600万円

勤務日数は240日なので、有給消化0なら・・・

会社が負担する日給は、
14,375円
20,000円
25,000円

時給だと
1,796円
2,500円
3,125円
になります。

有休消化20日であれば・・・220日で割り算になりますから

日給
15,682円
21,818円
27,273円

時給だと
1,960円
2,727円
3,409円
になります。

有給全消化させてくれる会社さんだと、
年収300万円と書いていても、ステルス給料を考えると時給1,960円なんですよ。
国が最低時給1,000円とか1,500円で話をしていますが、ステルスの説明がないのが最大の問題なのです。

事務職なんかだと労働分配率が 7~80% ぐらいなので、

上記の時給 ÷ 0.7 にすると、給料分働いた、と言えるだけの稼ぎの目安が見えてきます。
一般的な製造業なんかだと5~60%ですから、 0.5で割る、もしくは2倍にする感じですね。
自動化が進んでいる製造業になると、労働分配率は30%を切ることもあります。その場合、上記の 時給の3倍 は稼がないと給料分は稼いだとは言えません。

これが、見積計算で用いられるチャージの概念になってくるんですね。
社員の平均給与からチャージを割り出すわけですが労働分配率が50%の場合、
平均年収300万円なら 1,960円 / 0.5 = 3,920円
平均年収420万円なら 2,727円 / 0.5 = 5,454円
平均年収525万円なら 3,409円 / 0.5 = 6,818円
となるわけです。

そして・・・現実は厳しいです。
末端の町工場のチャージ計算は、4,000円ぐらい。
厳しい価格帯のところだろ3,000円以下というところも・・・
つまり、平均年収300万円クラスになるんですね。

それを補うのが、仕事の工夫と、より低賃金なパート・内職の活用です。
が、なかなかどうして・・・

日本人はコストにシビアなんですよね。
そして、優秀な町工場が多い。

だから、仕事の工夫といったって他所と大差がないです。
したがって低チャージからは、そう簡単には逃れられません。
本当に厳しい世の中です。

事務系やIT系がどのような工夫をしているのかは定かではありません。
製造業としては、

  1.  労働分配率を引き上げる

  2.  機械化(無人化)する

  3.  難易度の高い仕事(難削材とか高精度、面倒)をする

概ね、この3つの選択肢を採用するところが多いです。
もちろん、自社開発に走るとか、業種転換を図る等々、打ち手は様々に残されています。

上記3つの場合、1は、設備投資余力を失います。
円安で日本に仕事を回帰させようとしても動きが鈍いのは、これが原因です。
多くの下請け企業が1を実施しているため、賃上げ余力や設備投資余力が残っていないのです。

2の場合は毛色が異なり、設備投資に積極的な企業となります。
その代わり、多品種少量に対応するにしても限界点が発生します。
人間なら手のひらサイズからメートル級まで変幻自在ですが、ロボットの場合、守備範囲が厳格に決まっています。
ですから、似たような大きさ、似たようなパターンでないと対応が難しくなります。
※)ヒト型ロボット等でそれらの制約を打ち破る時代もいずれ訪れるでしょうが・・・

3については、色々です。
高精度な設備機械、高精度加工を実施できるだけの環境(恒温室・防振等)も用意しなければなりませんので、2に負けず劣らずの設備投資が必要になる場合と、反りやネジレ、ひずみに対応したり、熟練の矯正作業を要する面倒な仕事の場合といった感じで、機械と職人、それぞれがエキスパート化する方向でのお話になるからです。

さて、賃金のおはなしですが・・・
突き詰めていけば、色々な事柄についてお話が広がっていきます。
まだまだ書く内容はあるのですが、すでに4700字を超える長文になってますので、この辺りでお開きとします。

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