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『「神戸市立小磯記念美術館」を訪ねて』

私は、小磯良平の絵画が好きだ。神戸に<小磯良平美術館>があるのは、知っていたが、中々訪問する機会がなかった。だが最近、朝日新聞の広告で<秘蔵の小磯良平~武田薬品コレクションから>と言う特別展が開催されるのを知った。7月の連休を利用して、思い切って神戸の美術館を訪れたのだった。
 タクシーは、海岸を埋め立てて作った<六甲アイランド>に向かう長い橋を渡り、高層マンション群が建ち並ぶ木立の一角に止まった。美術館は、清閑な佇まいの広い平屋の建物であった。案内口でチケットを購入すると、別棟の美術館へと誘導してくれた。順路の矢印に沿って、展示品をゆったりと鑑賞。
まず、本格的な<油彩>が続き、<素描>や<薬草画>等、時間をかけて、作品を堪能したのだった。途中には、小磯が長年絵を描いた<アトリエ>も見学できた。
 小磯の油彩は、特別なモデルでなく、普通の庶民を描いているが、顔の表情まで丹念に表現しているのに驚く。
画風は、どっしりとして、筆遣いが力強い。それでいて、自然体で描かれているのが良い。腕や足や背中等の逞しい肉体が立体的に見事に表現され、着衣の襞や皺まで細かく描かれているのに感心する。小磯は、楽器が好きだったようで、ヴァイオリンやマンドリンやリュート等を画像に取り入れている。
 <武田薬品コレクション>とは、六代目社長の<武田長兵衞>が蒐集したものだと。小磯とは、幼少期から、親しくしており、死ぬまで交流が続いた。小磯の絵画にほれ込んだ武田は、スポンサーとなり、小磯の作品を蒐集していた。そのコレクションを彼の美術館に寄贈することになり、それを記念して<特別美術展>を開催したようだ。武田薬品工業と言えば、今や業界トップのメーカーである。
 美術館の鑑賞を終えて、妻と二人でカフェに行き、余韻を楽しんだ。お茶を飲みながら、私が昔の記憶を思い出していた。小学高学年の頃だったろうか、ある日、南海放送が学校にやって来て、音楽会を開催して、それをラジオ放送する事になった。生徒皆が講堂に集められたが、とにかく初めての事なので、興味深々だった。
放送機械が並ぶなか、まず、<パンビタン>の歌から始められた。その後、司会のアナウンサーにより、音楽会が始まったが、歌手が何人か来ていて、歌を歌ったのだろうか。その音楽会の内容は、もう思い出せないが、思い出すのは、<パンビタン>の歌だ。
どんな歌かは、思い出せないが、とにかく、歯切れの良い、歌いやすい歌だった気がする。そんな話を聞いていた妻は、「そうそう、あの頃は、ラジオから、よくパンビタンの宣伝が聞こえていたわね。」と相図地を打ってくれたのだった。
 あの頃は、戦後まだ間がない時期で、庶民は、食糧難から抜け出せず、栄養不足が深刻だった。そこで、武田薬品が、<総合ビタミン剤:パンビタン>を開発し宣伝していたのだった。



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