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体育館って広いんだなぁ ~初めて学校に来た就学免除生徒の言葉~

最近妻が電気圧力鍋を買いました。肉じゃがってこんなにおいしい料理だったんだ!と感動しているMr.チキンです。(無水カレーもおススメです)
今日は就学免除制度についてお話します。
「学校に行く」ということは大切な権利なのだと教えられたお話です。

就学免除という制度

就学免除という言葉をご存じでしょうか。

就学猶予(しゅうがくゆうよ)及び就学免除(しゅうがくめんじょ)とは、市町村(特別区を含む。以下同じ。)教育委員会が学齢期に達した子の保護者に対し、その子を学校に就学させる義務(就学義務)を猶予又は免除することである。日本では学校教育法第18条がこれを定める。

就学猶予及び就学免除の適用を受けるのは、義務教育(国民が子女に受けさせなければならない教育)を受ける学齢期(6歳から15歳)の児童生徒の保護者のうち、病弱、発育不完全その他やむを得ない事由のために就学困難と認められる子女の保護者である(学校教育法第18条)。

Wikipedia 就学猶予と就学免除より

つまり、病弱や発育不完全などの理由があれば、保護者は「教育を受けさせる義務」を猶予または免除させられるという制度です。
病気療養などにより、学齢期内に適正な教育を受けられない場合などに有効だとされています。いったん猶予しておいて、完治してから教育を受けさせるときなどに使われるのが一般的です。
しかし、その裏には障害児・者に適用することにより「学校に行くことのできない障害児・者」をたくさん生んできたという歴史があります。

就学免除・猶予されてきた方が初めて登校した日

私の初めて着任した病弱養護学校では、就学免除・猶予されてきた方の
入学を受け入れていました

そのため、40代・50代の小学生や中学生がいました。
ある日、私が担当している児童と校庭で遊んでいると、
病院と学校をつなぐ渡り廊下を、教員に車いすを押されながら来る3・4名の集団がいました。
「あ、職員朝会で話されていた就学免除の方の見学だな。」と気付き、
若かった私は、好奇心もあり、児童を連れて車いすの後をついていきました

体育館って広いんだなぁ

一行は体育館につきました。何やら見学者の方が教員と話をしています。
見学者の方はおそらく強い麻痺のある方でした。
耳をそばだてても、よく聞き取れません。
そばにいたベテランの教員に何と言っているか聞くと、

体育館って、本当に広いんだなぁ」って言っているよ。

と言っていました。
そして、その方の目にはうっすら涙が浮かんでいました
ベテランの教員は続けてこう言いました。

彼らは知的には遅れがないから大体のことが分かっている。
だから、テレビなどで学校の存在は知っているんだ。
でも、学校に来ることはできなかったんだ。
すぐそこの病院に入院していたんだけれど、ようやく学校に入学できるんだよ。

病弱養護学校だったので、病院は目と鼻の先です。
きっと、涙ぐんでいた方は、テレビなどで学校について見てきたのでしょう。
行ってみたいなと思ったことも何度もあったでしょう。
体育館って、本当に広いんだなぁ」という言葉は、心から出た言葉のようでした。
私たちが当たり前に使っていた体育館ですが、
そこにアクセスすることが難しかった方々の存在に、
恥ずかしながら初めて気付いた瞬間でした。

自分が食べているものを知る喜び

その方々が入学してからしばらくして、
そのクラスの授業を見に行く機会がありました。
内容は、食育でした。
カレーに入っているのは何か、
味噌汁に入っているのは何かなど
メニューと材料を対応させる授業
です。
正直、その方々にとっては簡単すぎるのではないかという感想をもちました。
その後の授業検討会で正直にそのことを伝えると、
ベテランの教員の方はこう言いました。

この方たちは、普段、流動食を食べている。
もう、混ぜられているものを体内に取り込む生活なんだ。
だから、材料に関する知識はあるけれど、自分たちの食べている物が何なのかは結びついていないことが多い
この人たちはあと三年で卒業する。
そしたらまた学校から離れる生活になるんだ。
できるだけ生活を豊かにする授業をしなくてはいけない。
もう時間が足りないと思いながら日々過ごしている。

その話を聞いて、また次の日、特別に授業を見せてもらいました。
授業を受けている生徒たちの顔を見ると、
とてもうれしそうな表情でした。
自分たちが食べている物が何かを知るということ。
その私たちにとって当たり前のことが彼らの喜びだったのです。
卒業後、この方たちは、この学びの喜びを一生の糧として、
再び入院生活に向き合うのかもしれないと感じました。

まとめ

その先生はこんなことも言っていました。

この方たちは、病院の中で看護師さんやお医者さんと話をしたり、
テレビを見たりして知識を蓄えてきている。
でも、そこで得た知識には、かなり大きな偏りがある。
公教育はその偏りを、広い知識に変えていかなくてはいけないよね。

本当にその通りだと、若いころの私は感動しました。
そして、この考え方は、どの子にとっても同じだと考えています。
世の中には、学びにアクセスすることが難しい子どもたちがまだまだいます。
そのような方々に公教育を行きわたらせることは、
すべての教育の質を高めることと同じではないでしょうか。
私たちは、目を凝らして、社会を見つめていく必要があるかもしれません。
では、またね~!

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