重力に挑戦する街、Lavenhamへ
15年ほど前に英国に住んでいた頃、おもちゃのような街があると聞いた。
Lavenhamという小さな街で、英国東部のSouth Suffolk州に位置する。
人口は2000人弱だが、素敵なホテルもあるらしい。
車で行ける距離だったので、初夏のある日に1泊の予定で向かった。
(地元の人はLavenhamを「ラベナム」と呼んでいた。他に「レイブナム」とも「ラベンハム」とも呼ばれており、ここでは英語表記とする。)
街に入ると、木造家屋が並んでいる。
その姿に思わずめまいがする。
私の価値観をぶち破る家々が並んでいる。
15世紀に羊毛貿易で栄えたLavenham。家の建築が追い付かず、新しい木を使って木造家屋が次々に建てられたんだとか。
十分に乾かさずに使用した木材がその後反り返っていったが、羊毛貿易の衰退により村も衰退し、家がそのまま残されたとのこと。
歴史は少し寂しく切ない。
英国はレンガ造りの家が多い。日本とは異なり、築年数が古い方が好まれる。治して住み続けるのがあたりまえだ。
地震の少ない英国は、建物に耐震基準を課していないのだろうか。
若者大勢が家に集まって床が抜けた、なんてニュースも聞いたことがある。
日本人は傾いた家を本能的に危ないと感じるが、英国人にとっては歴史深いと魅力に映るのだろう。
日本人の私には「住もう」と思う気が理解できない。
「家はまっすぐ建っているもの」という私の価値観は無残にうち破られた。
宿泊するホテルも、もちろん傾いている。
廊下も客室も傾いてはいるが、木造建築の懐かしい香りがする。
英国では木造の家になかなか出会えない。なんだか落ち着く。
静かなレストランで、おいしい夕食をいただく。
英国の老夫婦があちこちで静かに談笑している。
皆楽しそうで、とても素敵な雰囲気だった。
建物のゆがみは最初は気になったが、すぐに慣れる。
客室でも快適な時間を過ごすことができた。
英国に住んでいた間はこんな感じで、自分の価値観が揺らぐ色んな出来事や刺激があった。
またいつか訪れてみたいけれど、円がもう少し高くなってからかな。