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映画感想文「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」 ヒーロー論を語りたくなる作品。鬼太郎の前日譚、目玉の親父の物語

配信で「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」を鑑賞しました。
感想を書いてみようと思います。

まず最初に情報的なことをいうと、この作品に鬼太郎は出てくるのですが、冒頭とラストしか登場しません。。。
じゃあ誰が主人公かというと、タイトルにも書きましたが、目玉の親父。
しかも、アイキャッチにあるような眼球だけの目玉の親父ではなくて、人型で成人男性?の目玉の親父。

あと、主要登場人物として水木というサラリーマンがいます。
「水木」といっても漫画家ではないのですが(銀行の社員)、原作者・水木しげるさんの戦争観を反映した人物なので、あえて同じ苗字にしているものと思われます。

この作品は、太平洋戦争の日本軍への批判を背景にした物語です。
PG12作品。
今作のタイトルをよくよく読むとちゃんと意図されているのだけど、「あ、鬼太郎だ」って飛びつくと、「ちょっと違うよ~」となっちゃうかもしれません。
そこだけは少し知っておいてもいいかなと思い、最初に書きました。

2023年 日本
監督 古賀豪
昭和31年。鬼太郎の父であるかつての目玉おやじは、行方不明の妻を捜して哭倉村へやって来る。その村は、日本の政財界を裏で牛耳る龍賀一族が支配していた。血液銀行に勤める水木は、一族の当主の死の弔いを建前に密命を背負って村を訪れ、鬼太郎の父と出会う。当主の後継をめぐって醜い争いが繰り広げられる中、村の神社で一族の者が惨殺される事件が発生。それは恐ろしい怪奇の連鎖の始まりだった。

映画.comより

今作は、日本が生んだダーク・ヒーロー鬼太郎はどうして生まれたのか?という、いわゆるハリウッドで盛んな「エピソードゼロ」ものです。
そこに原作者の水木しげるさんの戦争観を取り込んでいます。
太平洋戦争中の日本軍の非人間性に対する強い不信感ですよね。

自国の歴史の暗部をエンタメで、しかもアニメという手法で表現するという挑戦心を自分は買います。
あくまでも「鬼太郎」というフォーマットでそれを表現したのは自分は良いなと思いました。
若い世代が戦争に興味・関心をもつきっかけになるかもしれませんし、水木さんへのリスペクトも感じました。

ただ作品としては、ちょいと要素を盛り込みすぎたかもしれません。
あらすじにあるように横溝正史的な殺人事件があり、もちろんそこに妖怪も絡み(鬼太郎だから)、戦争(日本軍)への批判あり、ラブストーリーもある。
これをひとつにまとめるのはなかなか至難の業だと思います。

あと、個人的にねずみ男の活躍がほとんどないのも減点。
自分はねずみ男のファンなので、もっと活躍してほしかった。。。
ずる賢くて人間と妖怪のどっちにつくか分からない、あの身軽さが好きなのです。
今作で言うと、目玉の親父が人間嫌いの役割をおっていたから、キャラクター的にかぶってしまって、出番が減ってしまったのかもしれません。

鬼太郎って、自身は妖怪でありながら敵である人間の味方になるダークヒーローですよね。
鬼太郎(や目玉の親父)がどうして人間の味方になるのか、というのを解き明かしたのが本作です。
水木さんの「太平洋戦争への思い」が鬼太郎の出発点になっているところに触れたのが良点。
アメコミのバットマンは闇から生まれ「個人と他者との対立」を乗り越えることを描いている。
一方、鬼太郎は太平洋戦争への反省から生まれ、「人間と妖怪の対立」を乗り越えることを描く。
個人主義の盛んなアメリカとアニミズム(自然崇拝)性を持った日本の違いとして興味深い。
今回の鬼太郎はそんなヒーロー論を語りたくなる作品でした。

◇おまけ
じゃあ、バットマンに「ジョーカー」という作品があるように、鬼太郎にだって「ねずみ男」という作品があってもいい。
「ずる賢くて軽薄で自分さえ良ければいいーーー」という裏には、実は真面目で重くて仲間想いの側面がある。過去に裏切られた経験から、今のような「ねずみ男」になってしまった。
でもたま~に昔の面影が顔を出し、人助けをしてしまうーー、なんてね。
まあでもこちらは謎のままの方がいいのかもしれません。

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