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時計塔にまつわる物語 「ヒューゴの不思議な発明」と「幽霊塔」

映画「ヒューゴの不思議な発明」を配信で鑑賞しました。
このお話は、パリのモンパルナス駅舎の時計塔の中でひとり暮らしている少年が主人公です。

「時計塔の中で暮らしている少年」、この設定だけで自分はワクワクします。
大小いろんな形の歯車⚙が複雑かつ有機的に絡み合って、大時計の針を動かしている。
少年はひとり時計塔に暮らしながら、その歯車を回しているのです。

、、、なんかいい。
それだけでもう胸が詰まります。

で、映画を観ていて、時計塔といえば江戸川乱歩の『幽霊塔』がパッと浮かびました。
みんな大好き宮崎駿監督の「ルパン三世 カリオストロの城」にインスピレーションを与えた小説です。

大きな時計塔がついたお屋敷で起きる怪事件を主人公が追っていくのですが、あの乱歩の読者を煽る巧みな語り口でお話が進むので、とてもドキドキします。

というわけで、今日は映画「ヒューゴの不思議な発明」と小説「幽霊塔」について書きたいと思います。

映画「ヒューゴの不思議な発明」

簡単な情報です。

2011年(日本公開2012年)
アメリカ・イギリス・フランス
監督 マーティン・スコセッシ
1930年代のパリ。父親の残した壊れた機械人形とともに駅の時計塔に暮らす少年ヒューゴはある日、機械人形の修理に必要なハート型の鍵を持つ少女イザベルと出会い、人形に秘められた壮大な秘密をめぐって冒険に繰り出す。
映画.comより

巨匠、マーティン・スコセッシの職人芸を感じる作品でした。
スコセッシ氏にしては珍しくハートウォーミングな物語で、悪い人はひとりも出てきません。そういう意味でパンチはないかも。
でもとても上質。
ストーリーは過不足なく語られるし、カットの割り方も上手。

2時間強の作品ですが、1時間ぐらいのところから映画黎明期の伝説的な映画監督、ジョルジュ・メリエス氏の半生を追いかけます。
そのエピソードにスコセッシ氏の映画への愛が込められていて、映画ファンならずとも観ていて幸せな気持ちになると思います。
昔の名作の映像もあります。

映画史の勉強にもなる作品ですが、小難しいことは一切なくて、映画のもつ視覚的な楽しさを優先しています。子どもでも楽しいと思う。
そこに巨匠の優しさを感じました。
家族で安心して見られる映画なので、秋の夜にしっとり観るには向いてると思います。

ただ個人的には、冒頭で書いた「時計塔でひとり暮らす少年」というところに感情移入していたので、「駅舎では無数の人が行き交っているのに、それを見つめる自分はひとりぼっち」という孤独が背景に追いやられている感じがちょっと残念でした。
もうひと彫りほしかった。

でも、スコセッシ氏はこの作品に限っては、あまり暗いものを持ち込みたくなかったんじゃないかなという気もします。
まるで、わが子が生まれたときを振り返っているような作品です。
まずは全てを差し置いて、祝福ですよね。
「映画があって本当によかった」という巨匠の飾らない感謝の気持ちが伝わってきて、観終わった後、とても温かい気持ちになりました。

総合評価 ☆☆☆

☆☆☆☆☆→すごい。うなっちゃう!世界を見る目がちょっと変わる。
☆☆☆☆ →面白い。センス・好みが合う。
☆☆☆  →まあまあ。
☆☆   →う~ん、ちょっと。。。
☆    →ガーン!


小説「幽霊塔」

2015年に岩波書店から出ている宮崎駿氏のカラー表紙版がなんといってもおすすめ。

時計塔のからくりである大小の歯車⚙の前に和服の女性が立って、こちらを不敵に見つめています。
これだけで、自分はドキドキしました。

和服が好きとかそんなフェチは全くないのですが、歯車の精緻な論理性と妖しい女性の雰囲気という真逆のものが重なり合っていて、表紙を見ただけでどういうお話なんだろうと惹かれました。

主人公の北川青年が時計塔を備えた古びた洋館でヒロイン野末秋子嬢に出会ったことから、運命の歯車が動きだすーー。

月並みな表現だけど「運命の歯車が動きだす」、キライじゃないです。
カチっと小さく乾いた音がして、物語が少しずつゆっくり回り始める。
そこには主人公が知らなかった思惑や過去の因縁が絡んでいてーーー。

まあ荒唐無稽なところもありますが、とにかくいろんな仕掛けがあって、退屈しません。
妖しげな美女、クモ、殺人事件、人間改造、洋館のどこかから聞こえる助けを求める声。
そして財宝。

実はこの「幽霊塔」は乱歩のオリジナル作品ではなくて、海外の作品を大正時代に日本で翻案して、それをさらに乱歩が1937年にリライトした、というものです。

上記の岩波書店版は、宮崎駿氏が表紙だけでなく作品の魅力を語った口絵があり、より楽しめると思います。
微に入り細に入った時計塔の絵は圧巻。

そうそう、「ルパン3世 カリオストロの城」では絵画の目が動いて、裏から部屋を覗いているシーンがありますが、本作ではポスターの目が動いて主人公が驚く描写があります。
ね、いかに宮崎氏がインスピレーションを受けたか分かるでしょ。

「ヒューゴ〜」には大時計の針にぶら下がるシーンがあります。
あれ、やってみたいけど、絶対怖いよな。

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