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7/21公開、『PLASTIC』宮崎大祐監督へのインタビュー

映画チア部の(かず)です。
今回は、映画『PLASTIC』の宮崎大祐監督にインタビューしました。

記事の本編にはネタバレが含まれますが、映画のおもしろさを増幅させるものであると思います。どうぞ記事を読み終えた後に映画をお楽しみください。

左:宮崎監督、右:(かず)



― 名古屋芸術大学の学生と一緒に撮影を行ったきっかけを教えてください

文化庁からコロナの助成金が降りる時期があったんです。それで、配給会社のboidと「その予算で音楽映画を撮りましょう」と話してたら、「来年まで待てば宮崎君が教えてる名古屋の大学で撮影できるかもよ」みたいな話をされました。それから1年待って撮影をしました。名古屋の大学で教え始めたきっかけは、本作の仙頭プロデューサーの紹介です。今年で2年目です。


― 学生さんはどういった関わり方をされましたか?

撮影スタッフはプロ中心でした。そこに要所要所学生も入っていた感じです。


― 撮影はどんな雰囲気でしたか?

撮影自体それなりの規模もありましたし、小泉今日子さんや尾野真千子さんのようなキャリアのある方々もご出演されていたので、そういう方々と仕事をするのが楽しかったですね。自信にもなったし、反省点もあったけど、将来に活かせるなっていう感じの現場でした。

― 俳優さんたちの出演の経緯を教えてください

小川(小川あん)さんは、元々『VIDEOPHOBIA』のことを誉めてくれていました。『MADE IN YAMATO』ってオムニバスをやったんですけど、ちょい役で小川さんに出てもらってまして、今回の役に合うなと思ってキャスティングさせていただきました。藤江(藤江琢磨)くんは、某フェスのために短編映画を作ることになったときに、作中で謎の男のナレーションを担当していただきました。オーディションで「声だけでもいいから出たい」って言ってくれて、声もいいし、雰囲気としてもすごく面白かったんです。なんでまだ発見されてないんだろうなって思ったんで、今回『PLASTIC』で世界に広められたと思います。小泉(小泉今日子)さんは『VIDEOPHOBIA』(2020年公開)のめっちゃファンだって言ってくださっていました。あと言うまでもなく役にも合っていたので


― 本作ではジュンの車のシーンが多々見られ、シリアスな会話が多く、その中で成長する姿を感じたのですが、車のシーンは何か狙いはありますか? 

乗り物って面白いなって思ってて、車も飛行機も船もバイクも、なんでもいいんですけど。去年くらいから乗り物にはまってて、それからずっと乗り物を撮るのにもはまっています。今年の正月くらいに、自転車でひたすら街の中を走るだけみたいな映画を撮りました。それがかなりいい体験になりました。今作では、名古屋をぐるぐる回って、最終的に東京に行くっていうイメージはありました。でも、車撮るのめっちゃむずいんですよ。撮るのにいろんな障害があるんです。ただ、撮れたら面白いのはわかっているんで、ちょっとチャレンジしました。でも車の撮影が一番大変でした。 スタッフがスタジオの車動かしたり、屋外の駐車場で 天井作って撮ったのもあります。実際車走っているのもあるし。いろんなパターンを撮りました。止め撮りは窓の映りとか大変なんですが、芝居しながら運転するのと比べると難易度的にはマシかもしれません。実際に車を走らせるとカメラのポジションもかなり限定されるし。お金があるとね、でかいトラックで車をコンって乗せてそのまま撮れるんですけど、ただしお金がいっぱいかかっちゃうので。それで、なかなか難しくて。そん中で工夫した車の撮影でした。

― 一方で、出会いのシーンはジュンがギターを弾てるところにイブキが現れますが、何かこだわりはありますか?

宮崎がまさかのスローモーションカットバックするとは誰も思ってないんですけど(笑)。あそこのロケ地がすごい良かったんです。あの場所は”愛地球博”用の電車が走っていたんです。でも、愛地球博が終わったら誰も使わなくなっちゃったから、それで、そこが潰れて、取り壊す予算もないからそのままになっているそうです。それをロケ地にしました。

― 伏見ミリオン座が出てきますね。そこで宮崎監督の作品(『VIDEOPHOBIA』)のポスターが貼られていました

伏見ミリオン座は僕が好きな劇場で、あの『VIDEOPHOBIA』のポスターは意図して貼りました。あそこにあったポスターは全部boidの作品です。本作の後半の部分を時代感覚がよくわからない感じにしたくて、ポスターの作品の時代と、物語の時代が1年ずれてます。


― 店長がジュンにプラスチックを分解する微生物の話をするシーンがあります。本作のタイトルに触れるシーンですが、店長は2階に上り、ジュンを見下ろして話をします。なにか意図はありますか?

あそこは場所がすごい面白くて、構造が西部劇の売春宿っぽく、1階で飲んで2階の部屋に行くみたいな構造だったんで、なんかできないかなって思ってました。僕、昔は結構映画見てたんです。ハワード・ホークスとニコラス・レイとの西部劇とかが好きで、映画で出てくるような構成の場所で撮りたかったのもあります。店長ではなくバイトの先輩です。偉そうなことを言いながら教育的に上に上がってくっていうのは、ありなんじゃないかと僕は思ったんですけど。だから位置関係で関係性を見せる演出のつもりではありました。


― タイトルを『PLASTIC』にしたのはどうしてですか?

僕の時代意識として、物心ついた80年代ってすごいピカピカしてて、『グーニーズ』とか『グレムリン』がやってる映画館に家族で見に行ったり、ビートたけしのテレビでさんまが出てて、ミニ四駆があって、ファミコンがあって、みたいな子供時代があったんです。90年代ぐらいからこう、なんかちょっと社会の方がよくわかんない感じになりました。ギャルが出てきて、安室奈美恵とか、僕がちょっとついていけない感じのノリが周りで発生してました。僕は音楽とか映画とか触れたんですけど、そっから2000年代ってマジでなんもなかったんで、あっという間に2010年代になった印象でした。若い頃はなんもないから、なんか起きないかなってずっと思ってたりしてました。自分の家が古びてきたりとか、街が古びてきたみたいなことは、なんにも思わなくて、 すごい満たされた状態だった。2000年、2010年ぐらいから、80年代のイケイケな感じがなくなって、埃をかぶってきたのを感じ始めたのがこの5年ぐらいです。 だから全てが終わってしまった後の、なんか祭りが終わった後の静けさのように、埃が積み重なってるみたいな認識があったんですよ。それって多分映画的ではないから、映画は懐かしい昔の歴史を描いたりとかって方向になってるように感じます。プラスチックに埃がつもりはじめたけどどうしたらいいかわからない状態。あとは、プラスチックは名詞でもあれば、動詞としてというかその過疎性、柔軟であって、ぐにゃぐにゃ変われる定まらない意味があります。人生って続くのに、いまは一回変なこと言ってしまったら叩かれたりして、そこで死亡みたいな風潮があるじゃないですか。そうじゃない。そういう過疎性フレックスな、その時にした悪いことは悪いことだけど、それでも人生は続いて終わらない。そこでパツンって死ぬことができない人たちのことを、なんか肯定したい。「でも、それでも生き続けるしかないよね」みたいな映画撮りたくて。

― 個人的に本作は終始暗く、最後のシーンだけ少し未来に向かって希望を抱けるような印象でした

それもちょっと面白くて、僕も結構暗い印象なんです。初号で見た時に、「すごい鬱映画だな」と思って見てました。東京で試写やったんですけど、8割方の人が「ああいうことってよくあるよね」「あるある」「自分と共感できる」「昔あんなことあった」「昔の彼氏を思い出した」「昔の彼女を思い出した」「やっぱ青春っていいよね」みたいな感じで、すごい共感による評価をいただきました。2割ぐらいが「超暗い気持ちになる」と言ってました。「自分は人生で全部裏目ってきたから、最後は多分出会えないで死ぬんだろう」「すごい暗い気持ちになったけど、いい映画でした」って言っている人がいて「面白いな」「すごい同時代的だな」と思いました。多分、今の時代の人ってそんなに新しいものとか見たくないだろうし、存在を脅かすものなんて絶対触れたくないから、自分から「結局私って大丈夫だよね」っていう確認作業を映画でやることが多い気がしています。そうすると、「あるある」とか「共感」とか、元カノがどうみたいな話に収束するんですけど。そういう捉え方の人もいるけど、そういうことではないかなって。


― 明るい映画と捉えた人たちは、どうしてそのように思ったのでしょうか?

多分ね、その方達は「最後絶対に出会える」っていう自信があるんでしょ。「色々あったけど、私は運命の人と絶対に出会える」というような。それなりに明るく生きてきたっていう自信があるんでしょう。


― わたしはそんな自信ないです 

私もないんで(笑)。でも、それも狙いではあったからいいんです。ただ、 僕のなんとなくな方向性である、暗いけれど行くしかないんだぞっていうとこまでたどり着いてくれる人もいるかもしれない。


― 宮崎監督が学生の頃に好きだったとか、 影響を受けた作品はありますか?

映画の入りが、『鉄男 TETSUO』だったんです。塚本晋也さんの『鉄男』を見て、「うわ、すごい」と思って、”シネ・アミューズ”という劇場が渋谷にあったんですよ。当時の渋谷はミニシアターブームだったから、劇場それぞれが監督を推していました。それがすごく面白かったんです。その時代は、黒沢清さん、青山真治さん、塩田明彦さんがいました。それをリアルタイムで見れたっていうのは大きかったです。その中で、今はライブハウスの”WWW”になってるんですけど、その前にあった”シネマライズ”で見た、レオス・カラックス『ポーラX』を見れたのはすごく大きかったです。 今回の『PLASTIC』の構成は『ポーラX』を意識していて、今まで作った映画の構成も『ポーラX』を意識しています。あと井土紀州監督の『百年の絶唱』っていう8ミリの映画があるんですけど、この2本が体験として大きかったです。


― 学生にメッセージをいただきたいです

映画が絶滅危惧種なのは日々実感しますし、自分もほとんど映画を見なくなっちゃったんでわかるんですけど。そんな中で映画を好きでいてくれる、映画を大切に思ってくれてる若い方々ってほんとに貴重だと思います。これからも映画は好きでいてほしいし、機会があれば自分でも作ってもらいたいと思います。その際は、僕に何か協力できることとかあればいつでも言ってください。


いかがでしたでしょうか。本編にもあったように、本作が暗い作品か明るい作品なのかは、見る側のこれまでの人生が関わりそうです。でも、暗い作品に思えたとしても、悲観することはなく、それを受け入れて前に進められればいいような気がします。

映画『PLASTIC』は7/21(金)から上映いたします。
京阪神では以下が上映館です。
シネ・リーブル梅田
シネ・リーブル神戸
アップリンク京都

©️Nagoya University of Arts and Sciences

また、宮崎監督の新作『#ミトヤマネ』が8/25に公開予定です。

執筆:(かず)





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