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『同じ下着を着るふたりの女』キム・セイン監督へのインタビュー

こんにちは!
映画チア部”神戸”の(かず)です。
今回は映画チア部”大阪”の(なつめ)と一緒に、『同じ下着を着るふたりの女』のキム・セイン監督にインタビューさせていただきました。

真ん中がキム・セイン監督

取材内容

― よろしくお願いします。キム監督はどんな映画が好きですか?

昔は主人公が1人の映画が好きだったんですけど、今はいろんなキャラクターがいて、いろんな方向から見れる映画が好きです。でも、好きなジャンルも別に1個っていうわけじゃなくて、色々なジャンルが好きです。今回の映画もそういうところがあります。書くときにこだわってることでもあるんですけど、主人公にだけ注目すると、どうしてもその人の感情だけの視点になると思うんです。それだと映画自体がシンプルになってしまうので、いろんな人が出てきた方が方向性にも色々あって自由に描けます。シンプルな映画はそのシンプルであることが良さであって、だからこそ、すごく深いところに深堀りできるっていう良さがあります。


― 今作は、キム監督ご自身の体験を参考にしていないそうですが、 どのようにリアリティのある脚本を書いたのですか?

今回のシナリオは自分の体験談じゃないにしても、母を憎むような感情面では、ある程度共感できる部分もあったし、これまでの自分にもそう感じることがありました。なので、ストーリーを考えるにあたって自然に出てきましたけど、母と娘を描いた本とか、いろんなものを読みました。自分の経験談に基づいてしまうと、どうしてもそれだけになってしまうので。女性監督が自分の話を作るっていうのも、あまりいい印象を与えないみたいで、そういうのを避けたかったのもあります。第1作目から自伝的な感じで作ってしまうと、2作目、3作目とか「この人にはもう話ないんじゃないの」と思われてしまう可能性も考えてました。今回の映画は、娘だけじゃなくてお母さんも主人公みたいになってるんですけど、実際この映画を見た人から、私のお母さんがこういう人(スギョンみたいな人)なんじゃないかと思われることを懸念しました。それで、自分のお母さんを傷ついてしまうんじゃないかと不安になり、釜山国際映画祭で初めて上映する際に、その前日とか始まる前は悪夢にうなされていました。でも、お母さんが映画祭で作品を見てくださったら、特に怒ったりはせず、「お疲れ様、頑張ったね。よく作ったね」と褒めてくれたから安心しました。韓国の本でお母さんを描いた漫画本があるんですけど、それを家の机に置いていたら、お母さんがそれを読んでいました。普段は本とか一切読まないお母さんなんですけど。そのお母さんの姿を見て、母の気持ちを表現する映画にしないといけないなと思いました。韓国もそうなんですけど、母と娘っていうのが、やっぱり社会の中で2人だけで統一してしまうところがあるので、そこで娘が救われる映画を作ってしまうと、お母さんだけが残ってしまうと思ったので、そういう映画は作りたくなかったです。


― イジョンがスギョンに「私を愛してる?」と尋ね、スギョンが笑うシーンがありますが、なぜ笑ったのか聞きたいです。

シナリオの時点では、それは決まっていました。笑うというよりは、ちょっと呆れるというか、戸惑いのように表現しています。普通であれば、20代後半の娘が「私のこと愛してる」って聞くことないじゃないですか。だから、スギョンは急にそう言われて、ちょっと戸惑う気持ちもあるし、愛について感じてこれなかったから、ちょっとびっくりして変な笑いみたいな、戸惑いの笑いみたいなのが出ちゃうときがあると思うんですけど、そういう笑いです。すごく苦労した人生を送ってきて、愛について考えられる時間がなかったので。



― スギョンはイジョンのことを愛してるわけではないんですか?

その質問はよくされるのですが、質問が2つに分かれています。娘を愛しているのか愛してないのかと聞かれるのと、最後の笑った理由が分からなかったという質問です。監督として、その答えを知っていなきゃいけないという、脅迫観念みたいなのは最初ありました。でも、愛してるかどうかを考えたんですけど結局はわからなかったです。これは答えを出すのではなく、見ている側に問い掛ける映画でもあるなと思います。今回のシナリオの中でも、スギョンが答える場面は一切作らず、表情や仕草だけで表現しているので観客と一緒に考えたいと思っています。



― 今後はどういう映画を作りたいですか?

これまでは、青春を楽しめていないような様子を描いてるので、今後は青春を扱った映画を作っていきたいです。私自身、20代が終わって30代になんですけど。なんか青春を逃してしまってるんじゃないかという気持ちを抱えてます。なので、恋愛映画を考えています。1人の人が20代前半から後半にかけての恋愛を描くような映画です。今回の映画の中では、スギョンとジョンヨンの恋愛シーンがあります。

― 最後に日本の学生にメッセージをお願いします

難しい質問ですね。シンプルなんですけど、他人の目を気にしたりしてないで、自分に目を向けて生きてください。あと3日あれば、もっと話せるんですが(笑)。



感想

今回の取材の前に、キム・セイン監督が西川美和監督との対談する映像をYoutubeでみました。そこで西川監督は、これほどの映画を作れる若手の監督を排出できる監督の映画業界に感心していました。本作を見た人の中には、衝撃を受けた人がいるかもしれません。もちろん、ストーリーに衝撃を受けたかもしれないですが、本作はキム監督の長編処女作であることに衝撃を受けた人がまちがいなくいると思います。少し前から、ネットで”親ガチャ”という言葉を目にする機会が増えました。スギョンに育てられたイジョンが、親ガチャを耳にしたらどう思うでしょうか。ただ取材内容にもあるように、本作はイジョンを中心に描いた作品ではありません。イジョンの視点だけではなく、母親であるスギョンの視点を描いた作品でもあります。親ガチャは子供から見た親への言葉ですが、スギョンからすれば子供ガチャに外れたようなものでしょう。劇中でも、スギョンがイジョンに対する非難を多々浴びせています。その中には、娘であることを非難したものもあります。ここまでの感想は、一方的にスギョンが悪い内容になってしまいました。本作を見た人もそう思う人が多いかもしれません。しかし、スギョンの視点からすればイジョンが悪いのです。となると、どちらが正しいのかと考えることは合っているのでしょうか。もちろん、スギョンの行動や言動が変わればイジョンとの関係は改善するでしょう。本作見ながら考えたのは2人の視点です。どちらも相手が悪いと思っています。どちらか一方が、自分自身を変えることができれば改善すると思いませんか?人の行動は変えるのは難しいので、自分の行動を変えるしかないのでしようか。考えさせられます。



本作は、シネ・ヌーヴォ7/21まで上映中です。

また、今回の取材記事は大阪チア部からもでています!
あわせてお読みください。
『同じ下着を着るふたりの女』特集🎞|映画チア部大阪支部 (note.com)

執筆:(かず)


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