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1889年を生きた人々② 髙松習吉

老いた兄に面と向かって「老いぼれぜよ」と言っちゃう髙松習吉

 真実は時として人を傷つけます。事実であっても、いくら正しくても、面と向かって言ってはいけないこと、この世の中には多いですよね。今風にいえば論破王とかになるんでしょうか。見てる分にはおもしろいけど、決して隣にはいてほしくない人。そんな逸話も残っているのが、この『追い風ヨーソロ!』に登場する高松習吉です。
作品の中にも、老いが見えてきた兄に対して、親しき仲には礼儀は不要とばかりに「兄者はもう老いぼれぜよ」とか言っちゃう習吉。この一言が思わぬ展開を招くわけですが、それは是非とも劇場でお楽しみいただければと。

 髙松習吉は前回、紹介した髙松太郎の弟。もちろん坂本龍馬の甥になります。ただ、龍馬と太郎の年齢が近かった一方で、太郎と習吉は11歳の差。龍馬や太郎は、いわゆる幕末の志士になりますが、習吉は時代が明治になったときも、まだ15歳の少年でした。
 この兄弟、今作の1889年には、実は髙松の姓ではなくなっています。兄の太郎は龍馬の没後、その養子となり、弟の習吉は坂本の本家、龍馬の兄である権平の家督を継ぎました。太郎は新たに立てられた龍馬の家を単に継いだだけですが、習吉は権平の孫にあたる鶴井と結婚。この鶴井さんについては後日あらためて掘り下げるとして、このとき習吉は改名して坂本南海男と名乗っています。安田朗は「やすだ・あきら」ではなくて「あんたろう」。習吉は「さかもと・なんかいおとこ」ではなくて「さかもと・なみお」。南海男なんて、なんとも高知っぽい名前ですね。ともあれ、1889年には髙松兄弟は坂本兄弟となっていたわけですが、ただ、今作の主な舞台は安田町。兄弟は髙松太郎と髙松習吉、安田村で過ごしていたときの名前で登場します。もちろん、わざとです。この稿でも、習吉で統一します。

 兄の太郎が時代が明治になってから謎に包まれていく(?)一方、習吉の活躍は明治になってから。いわゆる自由民権運動に身を投じます。当時の高知県は、自由民権運動の中心地といえる土地柄でした。土佐の東部で志士たちの精神的支柱といえる存在だったのは髙松順蔵ですが、その血は間違いなく習吉にも流れていた、ということなのでしょう。

「安田まちなみ交流館・和」のチラシ裏面より


上京した習吉が、太郎にとっては師匠であり、赤坂の氷川神社の近くに住んでいた勝海舟を訪ねたことが勝海舟の日記に残されています。このことは大田区立勝海舟記念館で教えてもらいました。ありがとうございます。ちなみに、それほど遠くない麹町に住んでいたのが太郎なんですが、勝海舟の日記には全然、出てこない。習吉を海舟に紹介した形跡もない。ほんと、なにやってんだか兄貴は。

 その後、習吉は弾圧され、東京で投獄されます。そして、大日本帝国憲法の発布による大赦で放免され、帰郷。父母の墓参に訪れた安田村で偶然、太郎と再会するのです。
当時、多くの政治家がそうだったように、習吉もヒゲがトレードマーク。そんなヒゲをたくわえて、習吉を演じたのが山川竜也です。習吉のヒゲ、現在の安田町にいる豊永勇次のヒゲ、山川のヒゲ。大心劇場のスクリーンもさることながら、そのヒゲもまた、過去と現在が交錯する『追い風ヨーソロ!』に大きく貢献しています。もちろん、芝居巧者の山川の演技も、お見逃しなく

自前の髭を育てたくわえ撮影にのぞむ山川竜也。ダンディ

※『追い風ヨーソロ!』の上映が終わった翌日から習吉こと坂本直寛の企画展示が行われます。
このタイミングはまったくの偶然ですが、映画と合わせて楽しんでみてはいかがでしょうか。

「龍馬の志を継いだ男 坂本直寛 生誕170年」
場所/安田まちなみ交流館・和
時間/9時~17時(最終入館16時30分)
観覧料/200円(高校生以下および障害者手帳提示者は無料)
休館日/火曜日(祝日の場合その翌営業日)

『追い風ヨーソロ!』からバトンタッチするタイミングで始まる。「安田まちなみ交流館・和」のチラシより


◆◆◆

『追い風ヨーソロ!』

【出演者】
大野仁志 我妻美緒 山川竜也 八洲承子 愛海鏡馬 豆電球

【上映日時】
2023年6月24日(土)~6月30日(金) 毎日13時~・19時~
各回、出演者による舞台挨拶・トークショーあり。

【木戸銭】
大人/1,500円 中学生・高校生/1,300円 小学生/1,000円

【会場】
大心劇場
〒781-6427 高知県安芸郡安田町内京坊992-1
http://wwwc.pikara.ne.jp/mamedenkyu/

【あらすじ】
1889年、安田村。唐浜では通りすがったお遍路の男に看取られながら、ひとりの女が息を引きとった。そして安田川のほとりでは安田村を離れていた兄弟が偶然の再会を果たしていた。その前に父の仇だと刀をかまえる女が現れた……。

時は流れて現在、安田町。かつての安田村にいた面々と同じ顔をした者たちが集ってくる。他人の空似か、あるいは前世か。交錯する過去との因縁。時を超えて、彼らを包むように風が吹く。

全編高知・安田ロケ、上映は大心劇場による地産地消映画がここに誕生!


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