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「映っちょった」パート2

 映画で「映っちょった」というと、たいていの場合は、真夏の夜に似合うアレですよね。映っていてはいけないアレ。人間の目には見えないアレ。もう、映っちょったことに気づいた時点で夏の夜の蒸し暑さなんて簡単に吹っ飛ぶ、アレです。ただ、今作には、ソレは映っちょりません(たぶん)。でも、いくつか妙に間延びしたように見えるカットがあるのですが、そこには何らかの安田町の息吹ともいえる何かは映っちょったりはします。その何かについては、次の機会に劇場で目を凝らしていただければと思います。

 この『追い風ヨーソロ!』の”母港”である大心劇場の前身、中山映劇が、たまたま劇中に「映っちょった」ことは前回、紹介したとおりです。ご縁を感じるほどの奇跡でした。でも、この奇跡には続きがあったのです。奇跡が起きたのは同じカット。ほんの数秒のカットに、奇跡が隠れていたのです。

 そのカットは、大心劇場から安田川をさかのぼって車で1、2分くらいにある橋の風景。そこを川上のほうから五島梨香が颯爽と自転車で通り過ぎるのですが、その川の向こう、客席から見て左側に中山映劇の建物が映り込んでいました。その奥。画面の中央に咲き誇る紫陽花の後ろに、ちょっと異質な建物が確認できます。この地域は古くは中山村で、昭和18年に安田町と合併したのですが、それまで中山村の役場であり、信用共済組合(現在の農協)と共用されていたのが、この建物でした。厳密には「旧中山村役場、旧有限会社・中山信用販売購買利用組合」の建造物で、現在の中山公民館(中山支所)の建物ができてからは森林組合が利用していましたが、時は流れ、奇しくも数字が同じ平成18年に安田町の指定有形文化財に登録されました。映り込んでいる2階は大広間や会議室として使用されていたそうです。当時としては珍しい和洋折衷の建物で、昭和7年に地元の大工さんが設計しました。このとき建設に携わったのが、大心劇場の館主であり、出演者でもある豆電球こと小松秀吉さんのおじいさま、横山猪之助さんでした。

映画のワンショット。紫陽花の上に見えるのが旧中山村役場の2階部分。撮影は2022年

 

こちらは2023年の写真。焼けてしまって黒くなった骨組みが見える

最初は中山映劇が「映っちょった」ことに気づいただけの小松さんでしたが、何度目かに文化財の建物が「映っちょった」ことに気づいたそう。映画は何度も観るもの、という思いを強くする一方で、小松さんのお父さまとお祖父さまが小松さんの背中を押し、その小松さんが我らパートナーシップ6人の背中を押してくれていた、そんな気もしてしまうのです。縁あって安田町で撮影した『追い風ヨーソロ!』。大心劇場での公開を経て、エン(縁)がオン(恩)に変わったような思いにも駆られてしまいます。

 描かれている安田町は明治22年と現在ですが、この建物の物語は、その間に起きたこと。明治22年と現在で、唐浜から見る海は同じ姿であり、時が流れても変わらないものがある一方、多くのものが姿を変えます。この建物の姿も、実際には、もう見ることは叶いません。でも、その勇姿は映画の中に残っています。映画は、歴史の証言者でもある。『追い風ヨーソロ!』には、そんな横顔もあります。

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『追い風ヨーソロ!』

【出演者】
大野仁志 我妻美緒 山川竜也 八洲承子 愛海鏡馬 豆電球

【会場】
大心劇場
〒781-6427 高知県安芸郡安田町内京坊992-1
http://wwwc.pikara.ne.jp/mamedenkyu/

【あらすじ】
1889年、安田村。唐浜では通りすがったお遍路の男に看取られながら、ひとりの女が息を引きとった。そして安田川のほとりでは安田村を離れていた兄弟が偶然の再会を果たしていた。その前に父の仇だと刀をかまえる女が現れた……。

時は流れて現在、安田町。かつての安田村にいた面々と同じ顔をした者たちが集ってくる。他人の空似か、あるいは前世か。交錯する過去との因縁。時を超えて、彼らを包むように風が吹く。

全編高知・安田ロケ、上映は大心劇場による地産地消映画がここに誕生!


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