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ロマン・ロランについて②平和の使徒としての作家🌏


「わたしはうちのめされた。死んでしまいたい。
こんな錯乱した人類のだだ中に生きて、文明の破滅に、どうする力もなく立ち会うのは恐ろしい。
このヨーロッパ戦争は、数世紀このかた、史上最大の破局であり、人類の友愛精神に対する神聖な希望の破滅だ。」


フランス作家であるロマン・ロランの平和への願いもむなしく第一次大戦が始まりました。

ロランにとってショックであったのは戦争反対の声が少なかったことです。
本来戦争に反対すべき社会主義者もカトリック教徒も皆戦争に賛成しました。

「満場一致の戦争賛成だ。根本の考えから言っても、精神から言っても、国家の戦争に一番反対なはずの人たちー社会主義者やカトリック教徒さえもが・・・
ただの一人も国と国との戦争で死ぬより、自分の主義主張のために死のうとする者がいないとは」

ロランは、当時ドイツで最も良心的な芸術家の一人であったハウプトマンに、この野蛮な戦争に対する反対運動をおこしてくれるように要求する手紙を書きます。
しかし、返事は予想以上に厳しいものでした。ハウプトマンは、この戦争は祖国の死活を制する不可避的なもので祖国のためという至上命令によってなされたものだとしてロランの提案を拒否したのです。🥺

なぜロランは戦争に反対だったのでしょうか。
なぜロランは、ドイツに対する戦争はプロイセンの軍国主義を地上から追い払い戦争をなくすための戦争であるというような宣伝に乗せられず、終始公正な立場を守り続けることができたのでしょうか。

第一の理由は、ロランは、祖国という偶像、ブルジョア的な国家あるいは民族の観念から脱却していたことにあります。

また第二の理由は、ロランがゲーテやベートーヴェンを生んだドイツをよく理解し、そういうドイツに尊敬と親愛の情を抱いていたからです。

そして第三の理由は、戦争というものが、民衆の平和を求める善意に反して一握りの富裕な権力者たちによってもくろまれ遂行されるという国際政治の実相をロランは見抜いていたからでしょう。


ロランはスイスに居を定め反戦の論陣を張ると同時に、国際赤十字社の捕虜情報局につとめて、戦禍を受けた各国の不幸な犠牲者たちのために献身的に働きました。
各国の指導者たちの吐く不正な虚言と、彼らのプロパガンダによってかきたてられている一般民衆の憎悪にロランは向き合い戦ったのです。


ロランが最も忌み嫌ったものは憎悪でした。
しかし、ドイツによる野蛮な無差別爆撃により人々の憎悪は増すばかりでした。

ロランは、各国の社会主義者、宗教家、知識人が民衆を友愛精神へと導き、それにともない民衆が指導者たちに世界的平和を実現するように強制すべきだと説きました。
しかし、これらの主張は戦争の渦の中に巻き込まれている人々には受け入れてもらえず、祖国フランスからもロランは裏切り者、敗北主義者として非難され、孤立します。

ロランの代表作「ジャン・クリストフ」は家庭でも、学校でも禁書にされました。
ロランはフランスが盲目的な好戦主義、排他的な愛国主義に引き込まれるのを見て深く失望します。

「祖国に対する狂信的な崇拝は、過去の世紀における、宗教的不寛容よりももっと危険なものになりました・・・」

しかし、ロランは、戦争の残酷さから悲観主義に陥りそうになりながらも、「人類はらせん状の道を迂回して進歩向上する。」という希望を捨てませんでした。

彼は、世間からの逆風にもめげず、反戦の主張を貫き、1916年にはノーベル文学賞を受賞したのです。


ロランの今日シェアした時代は、今と重なる部分があると感じます。
昨日、軍事同盟NATOにフィンランドが加盟したというニュースを見ました。



戦前の帝国主義対立に逆戻りしている流れです。

ヨーロッパの国々はウクライナに支援という名目で武器を送り続けるばかり。


また、戦争が起きているのに、アーティストたちからの反戦歌や、戦争をテーマにした作品が少ないとも言われています。

反核や軍縮をうったえる社会的アクションも目立っていません。


日本も防衛費を増やしたり、殺傷能力のある武器を送ろうとする動きもあります。


戦争が好戦主義、排他的な愛国主義、憎悪をもたらすのは現代の戦争も同じ。
約100年前、ドイツとフランスはそんなに憎み合っていたのです、でも今では両国が再び戦争をするとは誰も思わないでしょう。


ロシアとウクライナも平和的に共存できるように、ウクライナの人々のロシアに対する激しい憎悪も消えてなくなる日が来ると信じたいと思います。


前回ロマン・ロラン①の記事はこちら


執筆者、ゆこりん、ハイサイ・オ・ジサン


参考文献
ロマン・ロラン 新庄嘉章著 中公新書
ロマン・ロラン 新村 猛  岩波新書


記事のウォール写真
Linn Nyan Htun
https://linnnyan.wordpress.com/


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