ボーチンブルー養生記 #2
すっかり時間が空いた養生記の続きから。
気が付けば2カ月以上空いてしまった。
2ヶ月前。
まだ4月の頭で暖かくなりきらず、なかなか動かず、植え替えたは良いものの、相変わらずボロボロの様子を見る度に心が痛んでいたが、気が付くと私は引っ越しをしたので、ボーチンブルーにとっても引っ越しだったわけである。
かつての私は3階の角部屋に住んでいて、それはそれは風通しが良く、吹きっ晒しと言ってもいいくらい風が抜けていた。南東側に面していたことや周囲に高い建物もなかったこともあって日当たりもそれなりにあり、意外と植物にはいい環境だったように思う。
さて、そこから今度は1階に転居。実は1階に住むのは実家ぶりで、およそ10数年ぶりになる。やはり3階に比べるとどうしても風通しでは負けるし、横
には少し高い建物があるせいで日当たりは結構制限がある。
そういうわけで、ちょっと変わった環境で、ボーチンはどうなっているのかというと…
少し日当たりが悪くなって日照は減っているし、少しこもって湿度も高い感じはあるけれど、それでもなかなか元気になっている。やはり一番は気温の上昇で、成長の適期が来たんだなぁと思う。
人間もそうだけど、何をやってもダメな時期はあるもので、逆に波に乗れれば意外とすいすい行けることだってある。大切なのは良い時期が来るまで折れず腐らず耐えていけることで、ボーチンブルーは随分葉っぱが折れてしまったけれども、腐らずここまで耐えたお陰でこうやって美しい姿を見せてくれている。
ちなみに2カ月前はこちら。
2枚目と比べてわかる通り、上向きの葉っぱは2枚しかなかった。この中心のドリルも少し傷がついていて、2枚目の写真奥側の葉がそれにあたる。葉の中心に白い傷が残っているのがわかるだろう。そこから反時計回りに葉が展開し、合計4枚もの葉っぱが無事に展開してくれたのだ。
それから、下向きのいかにも不調な葉がたくさんあるのもわかるだろう。しかし、先と同じ2枚目の写真ではほぼなくなっている。そう、枯れたのだ。
そもそもダメージが結構あったこともあるが、おそらくこれは上部の新しい葉に栄養を注ぐために、下葉たちが持っているエネルギーを戻して自ら枯れたのだと思う。3枚目の写真を見るとわかりやすいが、葉先が茶色く枯れてしまっているのがわかる。
肉を切らせて骨を断つ、ならぬ、葉を枯らせて新芽を生かす、である。意味は変わっているけれども。
今となってはそう結論づけられるが、日に日に枯れていく当時は本当にこのまま死んでしまうのではないかと気が気ではなかったが、とりあえず一安心である。
もうすっかり元気になって快気祝いというムードだが、そうなるとタイトルの『養生記』は第二回にして終了となってしまう。
まぁこれはこれでそのまま残しておこうと思う。同じ過ちを繰り返さないように。
そして、せっかくなので他の植物たちも紹介したい。
アガベ アテナータ レイオブライト
すみません、でも仕方ないんです、植物屋に行ったら、こんな素敵な奴がいて…あんな綺麗に斑が入って、あんな綺麗な様子でこっちを見ていて…そうだよ、こちとら引っ越し前だよ。荷物増やしたよ。でもこいつがこっち見てたんだよ。しかもさ、そこそこの大型なんだけど、なんかびっくりするほど安くてさ。
…いや、確かにね、ボーチンブルーと並べてた。死にかけのボーチンブルーの横に置いてた。でもそれでボーチンブルーが奮起したのかもしれない。こいつに負けられないって。
真偽のほどはともかく、本当に美しいと思っています。やっぱりアテナータが好きなんだなぁ。
それにしても君、写真映り良くない?盛れるタイプ?
そしてやたらと成長が旺盛。
買った段階で根っこが結構出ていたのでかなり整理して鉢の中にしまったんだけど、ものの2カ月でこのありさま。元気なことはいいことなんだけれども。そしてボーチンブルーもこんな感じで根っこが出ているといいのだけれども。
オリーブ ネバティロブランコ
この子も死にかけてたタイプ。オリーブの話も以前どこかでしたと思う。
去年に強めに剪定をして、子ぶりに育てようとした矢先、晩夏に水やりをいい加減にしたせいか、夏のダメージが出たのか枯らしかけていた。4本居た内の1本は完全に枯死して泣く泣くおさらばしたけれど、残り3本は様子を見ていた。2つはかなり元気に葉が展開していたが、この子はうんともすんとも言わず。そろそろ捨てようかと思っていたのだけれど、どうにも根っこは張っている感じがあって、そのまま辛抱強く水を遣っていたらようやく…という感じ。養生記はむしろ君のためにあったのでは?
アガベ メリコ錦
この子は拗らせた子。元はもう5~6枚下葉があったんだけど、ある日、水やりがてらチョンっと触ったら、ぐにゃっとした感覚が返ってきて「え?」と思ってよくみると下葉の一部が黒く腐っていたのです。多分、日当たりと風通しが悪かったことが原因で、新しい環境に適応できなかったんだと思う。
急いで鉢をひっくり返して様子を見たら根っこは結構生きていて、でも下葉は随分腐りが進行していて、葉を引っ張ったら糸を引くくらいカビている様子があった。腐った部分は全て引きちぎって、引っこ抜いた状態で1日薬浴させて、植え直した結果がこれ。多分カビ菌はなくなったと思うのだけれどまだ気は抜けないし、結局買った当時にサイズダウンしてしまったのは残念。
…あれ、君も養生組か?
アロエ ワイリー コヨーテ
転居後、初購入植物。新しく住んだ土地でイベントをやっている情報をSNSで見かけて知らない街をポチポチ歩いて行った先で見つけた子。
以前から少し気になっていたアロエで、棘の鮮明な赤と、青みがかった部分とのコントラストも良いし、紅葉したり、育て方によって色も変わるみたいなので少し楽しみな一株。
そしてそのイベントが楽しかった。
滞在時間は短かったのだけれど、ちょっといわゆるひとつのイニシエーションというか、新しい街で生きていくために必要なイベントだったように思う。
元々、その土地やコミュニティに根付くことへの強い憧憬があるんだよね。親が転勤族で私は度々転校生だったし、地元というものをしっかり持っていない根無し草な感覚がずっとあった。いや、地元はあったのだけれど、何とも好きになれなかった。引越し前に住んでいた街は合計15年くらいいたけど、実は自己最長居住記録で、わりかし気に入ってたりしたんだ。
前の街では決して交友関係は広くなかったけど、それでも地元の飲み屋とかで顔見知りの人は何人かいたし、noteでも散々書いてきた珈琲屋なんてまさにつながりの一つで、そういうところでの何気ないおしゃべりってさ、中身とか、深さとか、そういうのはないんだけど、自分の中ではすごく楽しいというか、意外と生きがいになっているんだなって。どこまで行っても地元民の猿真似でしかない感じもあったけどね。
これもどこかで書いたかもしれないけど、多分私が植物を育てていることのひとつには自己投影っていうか、根無し草な自分が根を張る植物を愛でて育てているのはまぁ自己愛的と言いますか、ご自愛している感じもあったりしているんじゃないかなって勝手に思ったり。それもどこかで、根を張ったとしてもあくまで鉢の中の話で、土地にどっしり根を下ろせない哀しみが浮き彫りになってるだけな気もしたりして。そんな哀しみも見て見ぬふりしてたら植物が増えていったのかもしれない。
オリーブ育て始めた頃、スペイン、ギリシャ、アメリカ、イタリアの4種類を育てて、それが日本のベランダに一堂に参集しているんだからなんか面白いよなと思いつつ、そんな私のエゴでここに来てもらったわけだから、しっかりと根を張って少しでも長く、強く生きてほしいとちょっと力んでいた。
当時は結構本気でそんなこと思って熱を込めていたんだけれど、今は少し気楽になりながら、それでも適当に育てるってわけじゃなくて、もう少し楽しめるようになってきたというか、いろんなところで生まれた色んな特徴を持った人が、何となくそこに集まって、何となく一緒にいて、怪我したり病気になったりする奴も居ながら、何となくそこに根を張って一緒に生きているということに面白さを覚えたり、これって結局人間社会も一緒じゃないかと思ったりしている訳です。
根無し草コンプレックスのようなものの自由さを謳歌しつつ、私もまた、少しずつ根を伸ばし出しているのかもしれない。
そんな梅雨の晴れ間に。
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