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タイムスリップ物のプロットを上手に韓国と北朝鮮の関係に落とし込んだ「愛の不時着」

とうとう、観終わりました!「愛の不時着」
「とうとう」という言葉を使いたくなるほど長かった!何しろ22時間26分!!一話平均1時間24分(もちろんCM無し)が16話である。通常のドラマならシーズン3まで観終わってるボリュームです。
しかし、観てる最中は全く飽きさせないというのが凄い!
「匠の脚本とはこういうものか!」と唸らせられる展開。
実は俺、いわゆる韓流ドラマって、これが初めてなんです。。。

さて、ストーリーはというと、韓国の財閥令嬢で世界展開をするようなトップブランドも自ら経営する敏腕経営者ユン・セリが自社で開発したスポーツブランドの商品の試用でパラグライダーをやっている最中に竜巻に巻き込まれ北朝鮮に不時着する。という話に聞くととんでもないプロットなのだが、ディテールの描き方が丁寧でリアリティを感じさせる。
大嘘を吐く時こそ細部に慎重になった方が良い!という好例。
でも、車で行けるような近距離なのにこんなにも国交が断絶されてる事の方が日本人の自分には理解し難いとんでもない設定だ。

Netflix「愛の不時着」トレーラー

そして、その辿り着いた地で彼女と出会うのが北朝鮮軍の将校リ・ジョンヒョクである。この男がとんでもなくカッコいい!
もう資本主義の国には存在しないんのではと思うほどの化石級の硬派でありながらお茶目なところも見せる。それでもって家柄も良い。

そんな似合いの二人を断絶させる要素が北と南の38度線になる。

北朝鮮の田舎町で、ユン・セリは韓国との文化の違いを目の当たりにする。よくある停電、そのために使えない冷蔵庫、ファッションの違い、食糧事情、住宅事情、近所との付き合いななど。脚本段階で脱北者にリサーチして描かれたという描写は、脱北者から見てもリアルな表現らしい。北朝鮮ならではの単語も何故かコミカルな要素を感じる。「オールウェイズ三丁目の夕日」のような古き良き時代を彷彿とさせる世界観だ。

なんでも手に入り豊かな生活を送れる韓国では、会社の跡取りをめぐる家族間のギスギスした争いが描かれ、それに対して北朝鮮の描写は、物が無いなりにいろいろな工夫をすることと近所のつながりで精神的に豊かな生活を送っているように見える。

そして、観ているうちにちょっとした既視感に襲われた。
あれ?これなんかよく知ってるストーリーだぞ。
そう、タイムリープ(タイムスリップ)物の定番のストーリーなのだ。
まるで文化の違うところに迷い込んでしまったものの言葉も通じる。混乱を避けるために自分の素性を明かすことはできない。本やドラマでは目にしたことがあるけど実際に行ったこと無い世界。次々と起こる事件もタイムリープものならではエピソードが重ねられる。
もしかしたら来た時と同じ方法を取れば戻れるのでは無いか?とか。。。

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ただ、この物語はラブコメディではあるけれど、サイエンスフィクションでは無い。誰もが知っている隣接した二つの国の現在の物語である。そのリアリティが偶然も運命と思わせてしまう説得力を持つ。

しかし、プロットが秀逸だからといって22時間半も視聴者を惹きつけることはできない。やはり、シリーズ物のドラマはコメディリリーフが重要。緊張感ある物語の弦を良いタイミングで緩めてくれる。
将校リ・ジョンヒョクを慕う中隊のメンバーも良いキャラクター揃いだ。
最初のうちは鼻持ちならないヒロイン、ユン・セリがだんだんと北朝鮮の田舎町の女性たちと馴染んで行く過程も楽しい。第5話で登場するダラビーは新型コロナ自粛中に見た自分には羨ましく感じた。

そして、ユン・セリ、リ・ジョンヒョクそれぞれに、かつて何かしらの関係があった異性が登場する。ソ・ダンとク・スンジュンである。それが物語を攪拌していく。

ただ、韓国と北朝鮮で共通しているものもあって、それが何故か車だ。どちらの国でも高級車といえばジャガー。四駆といえばレンジローバー。もう、明らかにジャガー・ランドローバーのタイアップが見える。それに限らずbb.q OLIVE CHICKENやSUBWAYなど出てくる飲食店も既存のチェーン店を上手く使っていて、これもタイアップかと思いつつもリアリティを増すのに一役買っているのは否めない。
実際、オリーブチキンが笹塚にあると聞いて行きたくなってる自分がいる。

もちろん、このドラマも北朝鮮で撮影出来るわけでもなく韓国とモンゴルでのロケで北朝鮮を表現している。
この「愛の不時着」を北朝鮮はどう見てるのかというとドラマのタイトルは明らかにしていないらしいが〈虚偽と捏造に満ちた不純極まりない反共和国映画〉〈許せない極悪非道な挑発行為〉という評価らしい。

今まで自分の知る限りでは社会性が強いドラマでしか描かれなかった北朝鮮を、こんなに愛情を持って表現されていることに素晴らしさを感じた。このドラマを韓国だけではなく、北朝鮮の人にも観てもらって笑ったり泣いたり出来るような時代が来てくれると良いのだが。。。

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