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WSBKカタルニアラウンド

 WSBK2024年の第2戦、カタルニアが終了しました。今回はこのカタルニアで行われたレースを取り上げたいと思います。

 開幕戦の行われたフィリップアイランドは非常に路面グリップの高いサーキットですが、カタルニアは逆に非常に路面グリップの低いサーキットです。路面グリップは対極のサーキットですが、共にタイヤライフに非常に厳しいサーキットです。フィリップアイランドでは再舗装によってタイヤへの攻撃性が更に高まり安全性のためタイヤ交換が義務付けられましたが、カタルニアでは安全性は問題にはならず予定通りの周回数でレースが行われました。タイヤライフに厳しい上に規定の周回数を走らなければならないので序盤からペースを上げすぎるとレース後半にそのツケを払わされることになります。

各レースの雑感

 レース1は見事にタイヤを管理したトプラク・ラズガットリオグルがBMW移籍後初優勝。終盤近くまでレースをリードしながらも急激にタイヤのグリップを失い逆転を許したルーキーのニッコロ・ブレガ(ドゥカティ)は経験の差を見せつけられた格好になりました。BMWの勝利は2021年、ポルティマオ大会以来ですが、この時はスーパーポールレースでウェットコンディションでした。フルディスタンスレースおよびドライコンディションの勝利は2013年、BMWが前回ワークス参戦していた最後の年のアラゴン大会、チャズ・デイビスの優勝以来のことです。
 続くスーパーポールレースは周回数が少ないのでタイヤライフお構いなしの大激戦が繰り広げられ、最終周の最終コーナーでラズガットリオグルがバウティスタのインを差して劇的な勝利を飾りました。ラズガットリオグルはこれでダブルウィン、BMW初のトリプルウィンに期待が高まりました。
 レース2はカタルニアとライダー・マシン共に相性抜群のドゥカティのバウティスタが制し、ラズガットリオグルのトリプルウィンはお預けとなりました。過去にも触れた通り、バウティスタは今年から車体にバラストを積む事を義務付けられています。それもあってか昨年までのような不条理とも言える速さは影を潜めた感はありますが、バラストを積んでいてもなお、ライダーと車両の総重量ではグリッド上で最も軽いライダーです。なのでカタルニアのようなタイヤに厳しいサーキットでは多少減じられたとは言え相変わらずのアドバンテージがあったのでしょう。
 トリプルウィンは逃しましたがBMWのダブルウィンは前述の2013年アラゴン大会以来、2019年のワークス参戦再開後では初めてのことです。正直な所、開幕戦の様子を見る限りBMWが勝てるようになるまではもう少し時間が掛かるのではないかと思っていましたが、まさか2戦目でダブルウィンを決めてしまうとは想像できませんでした。レース2ではマイケル・ファン・デル・マークも4位に入っており、ラズガットリオグル以外のライダーも速さが底上げされているかもしれません。
 各社の戦力差についてですが、やはりメインストレートでの最高速は昨年までのような理不尽な差は無くなったようで、ドゥカティが相変わらず速いものの、ヤマハやカワサキを楽には抜け無くなっているように見えます。ただ、これまでの表彰台登壇率はドゥカティが群を抜いており、その意味ではちょっとバランスが取れていないようにも思えます。これもジョナサン・レイが低迷しているためでもあるでしょう。レイ本来の実力が出せていればロカテッリよりも上位にいるはずで、それが開幕から5レースノーポイントというのは想定外も良い所です。今回レース2でようやく8位完走、今季初ポイントを得ましたが、ここから彼本来がいるべき場所に戻って来れるのを期待したいと思います。
 カタルニアは前述の通りタイヤに厳しく、レース1とレース2、特にレース2はタイヤを温存しなければならないため見ている側もフラストレーションが溜まるような展開でしたが、タイヤライフを気にせず走れたスーパーポールレースは目まぐるしく順位が入れ替わる激戦が繰り広げられました。次戦以降でもこのようなレースを期待したいと思います。

勝つことで失われるもの

 今回ラズガットリオグルはトリプルウィンを逃しましたが、ここで勝てなかったのは何も悪いことばかりではありません。以前も説明しましたが、BMWは昨シーズンの成績が振るわなかったためスーパーコンセッションの対象メーカーです。スーパーコンセッションの対象メーカーには通常の改造範囲にとどまらない改造パーツ(スーパーコンセッションパーツ)が使えたり、シーズン中のテスト日数が通常10日のところ16日使えるといった優遇措置がありますが、ドライコンディションのレース1又はレース2(スーパーポールレースは対象外)で合計2勝した時点でこの優遇措置は終了してしまいます。すでに導入済みのスーパーコンセッションパーツは引き続き使えますが、年間のテスト日数はその時点から残り6日になってしまいます。
 今季はすでにカタルニラウンドに先立って2日間のテストを行っているのであと14日残っていますが、もしカタルニアのレース2で勝利していたら残りのテスト日数は一気に8日も減らされて残り6日になってしまい、スーパーコンセッション対象外のドゥカティとヤマハの残り8日よりも2日少なくなってしまうところでした。
 BMW、カワサキ、そして今回も全く良い所の無かったホンダが次戦までにテストをやると言う話はまだ出ていないようですが、次戦アッセンまでは4週間開いているのでやる可能性は高いのではないでしょうか。

各社のコンセッションの状態

 WSBKはコンセッションルールによりシーズン中のアップデートが制限されており、コンセッションの対象にならなければシーズン中のアップデートは行えません。今年から、このコンセッションの対象・非対象の判定を行う「チェックポイント」の頻度が2大会毎になりました。今回、カタルニアラウンドが終了した時点で今年最初のチェックポイントを迎えたことになります。そこで、現時点でのコンセッションの状態を調べてみました。
 コンセッションについては過去の記事でも説明しましたが、未読の方は先に以下の記事でコンセッションルールの説明だけでもお読みいただけたらと思います。

「コンセッションポイント」とは?

 前回の説明ではコンセッションポイントについての詳細を省略していたので補足します。
 レースの1位から5位までのライダーにチャンピオンシップポイントとは別にコンセッションポイントを付与、これをメーカー毎に集計し、チェックポイント毎に最もコンセッションポイントの多いメーカーとの差に応じてコンセッションの対象を判定するものです。
具体的には以下の通りです。

コンセッションポイントの配点
1位 10pt
2位 8pt
3位 6pt
4位 4pt
5位 2pt
 上記はレース1・レース2の場合です。スーパーポールレースではこの半分になります。
 各「チェックポイント」において、「コンセッションポイント」が最も多いメーカーに対し、33ポイント以上少ないメーカーはコンセッションの対象になります。これに基づいて、第二戦終了時点の各メーカーのコンセッションポイントを見ていきましょう。以下は各レースの5位までの入賞者とそのメーカー、コンセッションポイントを一覧表にしたものです。

コンセッションポイント(CP)をメーカー毎に集計すると、以下の様になります
ドゥカティ 86pt
BMW 30pt(-56)
カワサキ 20pt(-66)
ヤマハ 14pt(-72)
ホンダ 0pt(-86)

 ドゥカティのコンセッションポイントが図抜けて多いのは参加台数が多く、いずれも実力者揃いのため5位以内の入賞が多いからに他なりません。最もコンセッションポイントの多いドゥカティに対して残る4メーカーは全て33pt以上の差を付けられているので、皆コンセッションの対象になりうる状態です。なお、ドゥカティはレース1とレース2で合計2勝以上したので以後今シーズン中はコンセッションの対象にはなりません。

アップデートの権利はあるが、それを行使できるかはわからない

 第2戦終了時点でドゥカティ以外の4社はコンセッションの対象になりうる状態になりました。以前の投稿でヤマハは昨年と同じカムシャフトを使っている事を書きましたが、これでカムシャフトのアップデートに向けて早くも道が開かれたかもしれません。残る3社も何らかのアップデートが行える可能性があります。ですが、実際にコンセッションパーツをアップデートするには「トークン」が必要です。
 以前はコンセッションポイントだけでアップデートの可否が判定されていましたが、2022年10月のレギュレーション改定によりトークンが必要になりました。これは、順位を元にしたコンセッションポイントだけではタイム差が拮抗した接戦と大差を付けた独走との違いが反映されないためでしょう。トークンはラップタイムの比較により性能差を数値化したもので、レギュレーションを要約すると、トークンは「レースの上位3名のベストラップの75%のライダー毎の合計の3名の平均」に対する「各メーカー上位2名のベストラップの75%のライダー毎の合計の2名の平均」のパーセンテージで表される、とされています。昨年は第5戦ミサノ以降レース2の公式リザルトAll Pdfの最終ページにコンセッションポイントやトークンの保有数等の詳細情報が公表されていたのですが、今年は3月29日の時点でまだ出ていなので残念ながらメーカー毎のトークン保有数は不明です。
 リザルトのラップタイムから計算すればトークンの数値がわかるはずなので現在調査中ですが、ちょっと時間がかかりそうです。公式リザルトへのコンセッション情報の追加およびFIMからのリリース等があれば改めてコンセッションパーツのアップデート可否について続報をしたいと思います。

 最後までご覧いただきありがとうございました。ご指摘等ございましたらコメント欄にてお知らせいただけると幸いです。

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