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恐怖から見つける自分への疑惑。続くのは、大江健三郎を再び読める日まで。

大江健三郎と古井由吉が、対談している。

大江健三郎は、「短編の文章の緊迫を復活して、日本の文学、表現の世界を再建する必要があるんじゃないか。」と言っている。

古井由吉は、「言葉がぼろぼろに崩れがちな時代ですし、これは敗戦に劣らぬ文学の危機ですね。」と言っている。

大江健三郎が亡くなって、大江健三郎を読めなくなった。どうすることも出来ない気持ちが続いていて、新潮名作選「百年の文学」を読みはじめた。

平成8年に出されたこの本は、新潮に掲載された短編の中から選んだ35編を読んだ感想と短編小説がもたらしている意味を問いかける対談だった。

この並びに痺れる

たまに、自分に必要なものが必要な分だけ、届くことがある。それを自分で必要だと感じるか感じないのかは、人それぞれだが。

その流れはとても自然な不思議で、僕にとって大切な出会いの中から、一つの海外文学短編集をいただいた。

「なにか大事なこと」、ありますから見つけてください。

と言われた。こういう誘われ方を断れる理由を知らない。

2冊ともに、その全てを読了したワケではない。なんとなく、一気に読むものでもなさそうな気がした。

どの作家も、どの表現もそれぞれが言葉と向き合っていることが流れてくる。短い分だけ端的に核心を衝いてくる。

作家がその言葉を紡ぐことに矜持を感じる。

海外文学短編集から、この文章が離れなくなった。これが僕にとっての大事なことなのかは判断出来ない。でもこれを掴んだ。

恐怖という言葉では形容できない現象がこの世にはある。恐怖とは、たかが疑惑からひきおこされる感情にすぎない。

という文章を自分へのメッセージとして受け取った僕は、それを走り書きでメモしていた。

僕は、大江健三郎を読むのになにが怖いのだろうかを思慮した。35編の一編づつ、一編づつに批評を残し思想を語る大江健三郎や古井由吉は、そこに生きていた。一編読み終わり2人の対談内容を読む。自然とそこに存在を感じる。話し合うその姿が浮かぶ。あぁ楽しい。それを読む僕の感情は、疑惑すら感じない素直な感覚だった。

やっぱり生きている。

それを感じてしまう恐怖だと気付いた。生が無い存在なのに、今なお、そこに存在して文章として残して生きている思想や想いは、そこに生を確かに存在させる。

存在を感じることで相対し、余計悲しくなるのだ。

どうしようもない。この感情の行方は、そのまま書くしかないだろう。

ここのところ、僕の表現について色々な意見を聞くタイミングが多かった。それは、自分から聞く場合もあるし、言ってくれる場合もある。

「あなたの文章には迷いがあるから好き」

唐突にこれを言われた。上がる心拍数と同時に浮かんだのは、

「僕の方があなたを好きです」

と、その女子の精一杯の告白に対してどうして迷いなく言えなかったのかという後悔だ。

反射的に口説けるようになりたい。
いやらしさを感じない色気にて。

昔から知ってくれている人達は、

「最近変化したのがスゴくわかる。前より読みたくなった」

と言ってくれた。お世辞でも嬉しく思う。付き合いが古い分だけ、嘘がないと信じたい。だけど、どうしてすぐに、

「変化したのは、僕だけじゃなく君の気持ちかも知れない」

と、ここぞとばかりに気持ち悪く言うことが出来なかったのか。

いつも後悔ばかりが残る。

そして、男性も僕に対する真剣な思いで意見をくれたりした。僕は、それがとても嬉しくて記憶しようとしたのだが、どこを探しても記憶にも記録にも残っていないようだった。

特に、それを後悔することはなかった。

短編を読むことは、自分にとってなにが大事でなにが怖いかを知るにはとても重要だった。認めたくない部分を徹底的に、炙り出してくれた。

それは、おそらく何かしらカッコつけて書こうとしている自分の存在を知ることが怖いからなのだろう。

書き残している人達は、恥ずかしさや未熟さをきちんと表現力で残している。恐るべきはその客観視だ。僕はいまだに自分がどう見られるかを気にすることがある。そんなことは、大した話しではなく、それを伝える方が重要なのだ。

大江健三郎が残している作品に存在するのは、嘘なき思想と文体だ。結局、それを感じて自分を小さく感じるのがとても嫌なのだろう。

だから、対談という形の文章を読み、いつもと違った形から誤魔化したくなったのだと思った。それでも触れたくなってしまうのだ。

でもね、そこに存在しているのは、やっぱり生きている証だった。

堂々巡りのこの僕は、この先何を読み、何を書くのかわからないけれど、とりあえず女性に躓く様を描き続けたい。

なんのはなしですか

大江健三郎。読むことで存在を感じ、泣いてしまうのを隠すことはやめよう。ただただ、もう少しだけ時間の必要性を感じている。

自分への疑惑が晴れるまでだ。


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