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二世の自殺・統一教会問題をめぐる情報公害と汚染被害 【短信】

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加藤文宏


なぜ、いま、情報公害の整理なのか

 メディアに取り上げられる機会が多い宗教二世たちと意見を異にする「信者の人権を守る二世の会」が7月30日に都内でシンポジウムを開催した。同シンポジウムでパネリストを務めた福田ますみ氏から、家庭連合信者の後藤徹氏が監禁された12年5カ月の期間を「引きこもり」と形容したことについてコメントを求められた鈴木エイト氏は「どうでもいい」と発言してマイクを返した。後藤氏が親族と改宗活動家らを訴えた裁判は最高裁で損害賠償総額2200万円の支払いを命じる判決が下され、「引きこもり」などではないことが確定しているにもかかわらず、鈴木氏は誤った認識を改めないどころか説明責任を放棄した。

 このできごとは鈴木氏らによって牽引されてきた統一教会追及報道が、数々の誤った認識をもとにして信者らの人権を踏み躙ってきたものであったのを期せずしてあきらかにした。また前述のシンポジウムでは、報道と報道によって生じた社会現象に追い詰められて統一教会二世が自殺していたことが報告された。自殺者のみならず地方自治体での排除条例の制定など人権侵害を生じさせているとしたら、鈴木氏らの言論や報道は情報公害であると言わざるを得ない。

 鈴木発言を受け、全国拉致監禁強制改宗被害者の会によって8月6日に「鈴木エイト氏『宗教ヘイト』発言を問う」と緊急特別シンポジウムが開催された。これは「鈴木エイト氏ヘイトは絶対にしない」という立場であきらかなように意趣返しではなく、発言内容と統一教会報道の在り方を問うものだった。この機会に情報公害がどのように発生し、どのように広範囲に影響を及ぼしたか、いかに対処すべきか整理しておきたいと思う。

プレスリリースより(連絡先等記述を略)


図解と実例で知る統一教会追及

 統一教会追及とはいったい何であるかを、これまで論考で使用してきた図解によって振り返ってみよう。

1.統一教会追及の流れと現状

 いったい誰が、何が、なぜ、どのように憎悪を生み、拡大させたのか。これまでのできごとを鳥瞰してまとめたのが以下の図だ。

2.政治的背景(共産党の最終戦争)

3.言論封殺

 ツイッターでジャーナリストの佐々木俊尚氏が“「悪い奴は潰せばいい」という私的制裁”への懸念を表明したところ、日刊カルト新聞の藤倉善郎氏から「幸福の科学とズブズブだった自分もそのうち巻き込まれて叩かれる」から不安を抱くのだろうと揶揄されるとともに、宗教法人と相互に利益を得ている印象を与えられ発言権が奪われた。

4.2022 Report on International Religious Freedom: Japan

 アメリカ合衆国国務省の『信仰の自由に関する国際報告書』によって問題視された「統一教会追及」。2023年5月15日に公開された『2022 Report on International Religious Freedom: Japan(2022年信仰の自由に関する国際報告書: 日本に関する部分)』では、安倍晋三元首相暗殺からはじまった統一教会/家庭連合への「不寛容、差別、迫害キャンペーン」が、ウイグル人やロヒンギャ族への迫害問題と並列して扱われている。

5.異常な追及劇から自殺へ

 文化庁が統一教会に質問権を行使し続けているが、組織的な犯罪行為を何ひとつ証明できないまま時間だけがいたずらに過ぎ去った。

 だが統一教会追及では、教会は反社会的団体であると断定され、自民党とズブズブの関係にあるとされた。「ズブズブ」とは相手が旧統一教会(家庭連合)と共犯関係にあることを示す当て擦りだ。ルワンダ虐殺における「ゴキブリ(イニェンジ)」呼びと同類の下品なスラングは信者のみならず反論や忠告を言論空間や社会から排除するために、教会追及側の人物によって使用され、教会悪魔化と日本支配説を信じ込んで扇動された素朴な人々が多用したのだった。

 このズブズブによって何がどのようになったのか、仮説以上のものが追及側から提示されていない。実際に調べることなく、調べて証拠だてることもなく馬鹿ばかしいほど醜悪な統一教会像や信者像が生み出された。

 人権侵害を証言する信者や信者の家族は多い。学校や職場で信仰を問われた人がいる。心を病んで治療している人がいる。富山市では「旧統一教会および関連団体と一切の関係を絶つ決議」が可決されている。このようなヘイトクライムの末、統一教会二世が前途を絶望して自らの命を絶ったのだ。

 これは営利がともなう言動で誤った「情報」が広範囲に影響を与えたことによってもたらされた被害であり、企業活動によって排出される有害物質によって環境が汚染されたり、破壊される公害とよく似ている。条例の制定や二世の自殺は、統一教会と関係者だけの問題ではなく、憲法で保護された人権を侵害する社会問題である点も「公共への害」つまり公害と呼ぶべき根拠だ。


情報公害と汚染被害の構造

発生回路と拡大回路

 統一教会追及は宗教二世問題に端を発し、彼らを救う名目ではじまった。ところがカルト問題の専門家とされる人々とマスメディアがはじめたのは誰が「ズブズブ」かを問う欠席裁判と、教会が日本を支配しているという陰謀説づくりだった。

 こうした政治的な追及劇はワイドショーのミヤネ屋を中心に、カルトの専門家とされる人々と司会者の宮根誠司氏によって進行した。どのようなものであったかはこれまでに
反省なき山上特需、統一教会追及、ヘイトクライムを反省する(note)
ミヤネ屋と専門家の構造 誰が陰謀論を生み 誰がテロに賛同したのか(note) 
ワイドショーが善悪を決めていいのか(月刊「正論」・外部サイト)
で説明した。

 統一教会追及劇の核心部分である山上特需は、原発事故にまつわるデマ発生や悪しき風評が生み出された構造と同じだ。

 まず、専門家や活動家や政治家が主張する説を、報道が誇張して虚像を生み出し、虚像によって不安感や不信感を抱いた人々が専門家や活動家や政治家を支持した。続いて、人々の負の感情に対して、専門家や活動家や政治家は怒りの対象を示唆した。原発事故では国や東電などへ、統一教会追及では教会や信者へ怒りが扇動された。この二重構造は循環し続けて、虚像はますます大きくなり、虚像の影響を受ける人々の負の感情も拡大した。ここまでが第一段階めの風評や情報汚染の発生回路である。

酷似している統一教会追及の情報公害と原子力発電所事故の情報災害

 マスメディアが報じる虚像は、とくに負の感情に取り憑かれていなかった一般層に対して、実際より拡大された危機感を伝えた。こうして第二段階めの拡大回路が形成されて、国内全般に風評被害や情報汚染被害が発生した。原発事故の風評被害では福島県産の品々が市場から追い出され、統一教会追及による情報汚染被害では嫌がらせにとどまらない排除条例の制定や二世の自殺が発生している。

弊害を断つために回路を遮断する

 福島県への風評加害は同県にのみ被害が及ぶものと考えられていた。しかし風評被害を生むデマを根拠に反原発運動が行われた結果、日本のエネルギー政策や電力問題は混沌を極めて現在に至っている。原因は風評発生回路が常に誤った情報を流し続け、誤った情報に基づく世論を生み出していたからだ。たとえばALPS処理水を「汚染水」と呼び続けた人々がいたことで、処理水について誤解が広がり、新たな原発恐怖が生まれ、エネルギー政策や電力問題への議論に歪みが生じた。

 統一教会追及も教会と信者にのみ被害が及ぶものではなくなっている。憲法で保護された人権を侵害する行為を是とする活動で成功体験を得た者が放置されるなら、いずれ統一教会にとどまらない新たな「追及」名目のヘイトクライムが発生するだろう。統一教会追及は国や自治体に対しても既にヘイトクライム参加へのハードルを限りなく低くしてしまった。

 弊害を断つには不安層、“専門家”や政治家、マスメディアの回路をいずれかの位置で遮断するほかない。言論の自由を尊重する以上、「遮断」は彼らが行うような言論封殺であってはならない。それには“専門家”や政治家が発する誤りを正し、正確な情報を提供して、大袈裟な意見を縮小させるほかない。

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