宝石の国 妄想解説「三族の取り込み」とは?
三族を取り込むとは具体的に何をすることなのか?
私が連載中から最も気になっていたのは、エクメアによるフォスの人間化計画の最重要項目であろう「三族の取り込み」です。
人間から分かれた三つの種族を再び一つにし、人間的なふるまいができるように仕組んだ、という意味であることはわかります。
けれども、具体的に何をしたら「三族を取り込めたことになるのか」についての説明がなく、よくわかりませんでした。
ここです。
「三族を得」と、さらりと書いていますが、フォスは月で何を得たのでしょう?
今回はそのあたりを妄想してみようと思います。
フォスの特別なインクルージョン
作中、何度も出てくるように、フォスのインクルージョンは特異な性質を持っています。
自分以外の異物との共生が得意で、他のものを取り込んでも拒絶反応が起きにくく、それどころか半分以上が自分ではないものに置き換わっても自己同一性を保持できる。
おかげでフォスは、何度もいろんなものたちと混ざり合ってきました。
わかりやすく一覧にしてみると、フォスは必ず何かが混ざることをきっかけに成長していく様子が見て取れます。
考えてみればこれは当たり前で、生まれた時から同じ形状の不老不死である宝石たちが、人間のように成長するには外から何かが入ってくる必要があるということでしょう。
まずは、「アドミラビリス」「月人」との接触により、フォスが得たものを見ていきましょう。
アドミラビリスとの接触がもたらしたもの
フォスは4話で、月から送り込まれた巨大カタツムリ・アドミラビリスに捕食され、体内で溶かされて破損した殻の修理に充てられることになりました。
おそらく、消化される過程で、アドミラビリスの一部がフォスのインクルージョンとの共生に成功したのでしょう。
フォスはアドミラビリスと会話する能力を得ます。
これによりフォスは新しい知識を得ました。
異文化との出会いです。
アドミラビリスが宝石たちのところにやってくる前、宝石たちはなぜ月人が自分たちを襲いにやってくるのか詳しく知りませんでした。
先生に教わったのは、生物としての自分たちの成り立ちだけ。
月に自分たちと同じような姿の生命がいることは経験的に知ってはいても、それがいったいどんな生命なのかはわからない。
そして、月からやってくる狩人は、自分たちを装飾品にすると教えられ、宝石たちはそれを何の疑いもなく信じているのです。
アドミラビリスとの会話によって、フォスが得たものは、彼らの間に伝わる伝説です。
ここで、初めてフォスは「人間」とその子孫たる三族に関する知識を得たのでした。
月からやってくる狩人たちは、肉と骨を取り戻し、人間になることを目的としているのだ、と。
アドミラビリスの王・ウェントリコススは、
と、月人と敵対関係にあることをフォスに伝えるのですが、この時のフォスはこう返します。
フォスは、「戦争に出て、先生を守るために働きたい」と思っていても、根っから戦闘が好きなわけではなく、もともと平和を好む優しく純粋な性質です。
月人と戦う事より、アドミラビリスたちと友好的な関係を保っていくことの方に関心があったのでしょう。
「僕らはずいぶん良いふうに変わったんだ」
という正の側面だけを見ようとするところに、最終回間近に登場する石達と同じ無垢さを感じます。
フォスを人間に仕立て上げたいエクメアからするとこれでは大失敗で、フォスにはもっと「争いを好み、満足することがなく、理由なく焦って」欲しい。
そこで彼は、もともと劣等感まみれで承認欲求強めのフォスの性質を利用するために、「強さによる驕り」「失態による後悔」「何でも知りたい知性」を与えるのです。
それが、「速い脚+強い手」「アンタークチサイトの喪失」「ラピスラズリの頭部接続」でした。
はじめの疑問「三族を得る」とはどういうことか?に戻ります。
フォスはアドミラビリスとの接触により、「貝(アゲート)の足」と、「アドミラビリスに伝わる伝説」という、種族を担う身体的・文化的なコアの部分を受け取りました。
そして、アドミラビリスの身の上に同情し、その心情に共感もするのです。
体と心に、別種の生物と同じものを取り入れたということでしょう。
まずは、肉の一族を得たわけです。
では、フォスが月人から得たものとは何だったのでしょうか?
月人との接触がもたらしたもの
前項で見たように、フォスが人間由来の一族を得たことになるための条件とは、おそらく身体の一部が混ざること、その文化を理解し、心情に共感することが必要なのだろうと思います。
フォスは月に到着後、これまで信じていた世界の根幹を揺るがすような事実を、エクメアから教えられました。
自分たちを教え導き、守ってくれる存在であったはずの先生が、実は戦争の根源だったこと。
先生は宝石たちとは違うものであること。
憎むべき敵だと思っていた月人にも、月人なりの理由があり、それが「皆を助けたい」フォスにとって大いに共感できるものだったこと。
そうしてフォスは機械の先生より仲間の平安を選び、地球に戻って先生を裏切ることをエクメアに提案するのです。
その結果、エクメアはフォスの左目に月の技術で作られた合成真珠を埋め込みます。
フォスの心と体の一部に、月人と同じものが入りました。
魂の一族、ゲット!と言いたいところなのですが。
ここが、正確には「フォスの体が月人の体(そもそもそも体がないし)と混ざったわけではない」ので、ずっと引っかかっていたところでした。
インクルージョンとの共生という条件を満たしていないのではないか、と思ったのです。
ところが、「宝石の国」の中では、目がとても重要な役割を果たしていることに気づきました。
「目」を入れることが意味するもの
金剛先生の回想シーンを見ると、生まれてくる宝石たちには最初「目」はありません。
先生が生まれた子の一部を加工して瞳をつくり、眼球をはめ込んで完成させているのです。
白眼の部分は何でできているのかは、作中に描かれていません。
ですが、自分の体の一部を砕いて月人を撃退していた金剛先生は、その後「ふんっ」と力を入れて、自身を再生させていたようですし、もしかすると、宝石たちの白眼はすべて先生の体の一部で作られていたのかもしれません。
そしてこちら。
月に来てからも、フォスに並外れた献身を続けようとしていたカンゴームは、その瞳の中にゴーストが残っていて、カンゴームに命令を続けていたことがわかりました。
さらに、フォスを楽園まで連れて行った、金剛の兄機。
彼は生まれた時から、目玉に意志と再生能力まで宿した存在でした。
目とは、ざっくり言ってしまえば脳の一部です。
つまり宝石たちは、金剛先生によって脳を与えられた存在なのです。
エクメアによる「合成真珠の目」の交換は、フォスを半分、月の脳に入れ替えるという荒業だったことがわかります。
これは、お気楽インクルージョンとの共生よりも、強いつながりを意味しているようにも思えます。
フォスはここに至り、三族のうちの魂の一族も得ることができたのでしょう。
そしてとうとう、フォスは失った右目の代わりに金剛先生の目を自らはめ込むに至りました。
「幸福が欲しい」
とつぶやきながら。
先生の脳を受け取り、膨大な記憶と能力を引き継ぐフォス。
一万年の移行期間ののち、彼は「祈ることで魂を完全に分解できる者」として再生しました。
三族の体と心に、神の脳を埋め込むエクメアの計画が成功したのです。
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いかがでしょう。
以上は、私が「宝石の国」を矛盾なく理解するために作り上げた妄想です。
「三族を得る」とは、具体的にこういった意味だったのではないでしょうか。
**連続投稿824日目**
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