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「コミュニケーション能力」と監査一連の流れ

「コミュニケーション能力が重要」と言われます。少し古いですが、経団連が公表している「2018年度 新卒採用に関するアンケート調査結果」なるものによれば、企業が選考に当たって特に重視した点という質問に対する企業側の回答は、5つ選択という方式ではありますが「コミュニケーション能力」が82.4%で断トツの1位となっています。

「2018年度 新卒採用に関するアンケート調査結果」https://www.keidanren.or.jp/policy/2018/110.pdf

また、ネットスラングでは「コミュ強」「コミュ障」といった言葉が頻繁に使われ、コミュニケーション能力の高低は、あたかも少年漫画におけるキャラクターたちの戦闘能力の指標かのようです。しかし、コミュニケーション能力とは何を指すのかは意外にあいまいですし、X(旧Twitter)でアンケートを取ってみたところ、かなり結果が分かれました。なお、私が挙げた4項目の他に、「相手の話を聞く能力」というものが重要ではとご指摘があり、それも重要な要素かと思います。以下、本noteではコミュニケーション能力を「相手と仲良くなる能力」
「分かりやすく伝える能力」
「お願いを聞いてもらう能力」
「大勢を巻き込む能力」
「相手の話を聞く能力」
の五つに分けて考えていきます。

前置きが長くなりましたが、内部監査業務は、社長・役員から、現場の担当者に至るまで様々なフェーズで色々な人と話をして、情報を得たり、納得して協力してもらったりしなければならない業務であり、「コミュニケーション能力」とは切っても切れない関係にあります。本noteでは、内部監査の一連の流れにおいて各段階で特に必要とされるコミュニケーション能力がどのようなものか、また、コミュニケーションをスムーズに進める工夫についてお話ししたいと思います。難しい場面で私が実際に説明した際の口上も一部公開しますので、お役に立ててください。


監査の年度計画策定段階

年度計画策定についての考え方や工夫については、既にnote「内部監査の年度計画の立案について」にまとめています。この段階で特にコミュニケーション能力が求められるのは、役員等へのヒアリングを実施して会社としてのリスク認識を行う時でしょう。もう少し解像度を上げると、まず、日ごろそれほど接点が多いわけでもない役員等にもこの段階では協力をお願いすることになります。ここで、相手に理解してもらいたいことは

  • 今の段階であなたの担当が特に危ういと考えているわけではなく、あくまでリスク評価が目的

  • 問題がありそうなところは早めに手当てすることが重要なので、隠し事をしないでほしい

  • リスク評価は全社ベースなので、あなたが危ういと思っているところを必ず監査するとは約束できない

といったところです。これに必要なコミュニケーション能力は「分かりやすく伝える能力」ですね。

また、相手から引き出したいのは、その人の所管の分野についてリスクと考えていることの他に、所管外でリスクと感じていることも聞き出したいところです。ここでは、「相手の話を聞く能力」が求められてきます。

では、これらのことをうまく進めるためにはどんな工夫があるかですが、まず相手に理解を求めるときは、相手が内部監査やその他の監査・検査についてどの程度の理解を持っているか、をよく考える必要があります。毎年のことで理解が十分な相手には簡便な説明で良いでしょうし、初めて内部監査のヒアリングを受けるという相手ならば、監査役監査や会計監査との違いを簡単に説明したうえで、昨年の例など示して警戒心を解いてから本題に入る方が安全でしょう。
次に、相手から情報を引き出すための工夫ですが、私の経験で非常に効果があったと思うのは、「対面で実施する」「できるだけ出席者を減らす、できれば一対一で」の二つです。対面実施のほうが良いのは言わずもがなですが、できれば一対一で、の方を補足すると、一対一になると、やはり本音が出やすくなりますし、場合によっては他部署への不満のようなことも比較的聞き出しやすくなります。

余談ですが、会計監査で経営者ディスカッションという手続があり、監査法人のパートナーが社長と話をする場面がありますが、会社・監査法人ともに出席者が多すぎるといつも思います。10人近い出席者がいるところで大企業の社長が、監査法人とはいえ外部の人間に、本音で会社のリスクについて語るとはとても思えません。

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