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リンダ•ホイル Pieces of me

80年代前半、音楽と映画の話が合う男女七人は、学生時代の良き友でした。

バーニーレドンが好きなサトル(イーグルスの話し)、一番お喋りで音楽的リーダーの六角(ベンワットの話し)、仲が良く三人同時に喋るユウコ三姉妹(トムウェイツの話し)
そしてもうひとり、少年の様に純心な男がいて、彼の名はシュウ。

シュウの一番の特徴は「よく笑う」それも爆笑する。私はよく、イマイチと思うダジャレはシュウにおためしして彼は必ず爆笑してくれるのでそこに満足したりしました。
クールなサトルはニヤっとするだけ。六角は「あっ今のダジャレね?考えオチってやつ?ちょっと何言ってるか分かんなかったよぉ」とアレコレ長めの感想を言います。

シュウは高校入学の初日に声をかけてきて、少年のように純心でした。その頃彼から洋楽のお気に入りカセットテープを貰って、その内容は当時人気だったプログレでした。

アランパーソンズ「孤独の男の影」キャメル「水の精」キングクリムゾン「ポセイドンの目覚め」この三曲があって、私はその時まだカーペンターズとS&Gくらいしか音楽を知らなかったので、このテープは私のロックの言わば「初めてのレッスン」でした。

高校時は1980年頃でしたが、周囲はプログレ好きが多かったですね。イエス、ELP、キングクリムゾン。私はプログレよりもフォリナー、TOTO、シンリディが好きになっていましたけど、この三曲は今でも好きです。

大学もシュウと同じでした。彼の方が早く運転免許を取っていたので、私が免許を取得した時🔰首都高速を練習しようと彼に導かれ助手席に同乗してくれました。
あの日はほんとうに神経を使い疲れて家に帰った途端、めまいがして倒れる様に眠ってしまったのを覚えています。
シュウも初心者の首都高速の同行は、さぞ怖かっただろうに…有難う。

例の男女七人も皆社会人になり離れ離れになった後も、シュウとは年に一度は会って夜のドライヴに出ました。都会の高速道路でカーステレオの音楽は、大学の時皆が好きだったプリンスやスタイルカウンシル。

「あいつどうしてる?」「お前のお母さん元気?」私の母は、人の家でも元気で爆笑する割には文芸評論家の小林秀雄が好きだったりするシュウに対して好感を持っていて、シュウがよくウチに来ると、はりきって彼の好きなうどんを作りました。

徹夜で千葉県を車で一周しながら夜の浜辺で寝そべって、彼には可愛い彼女が居て上手くいかない時に悩みも幾度か聞きました。
「よーし、内房から外房回って銚子で日の出を見に行くぞ」カーステレオの音楽はT-Rex「電気の武者が一番イイでしょ」「いやスライダーでしょ」「じゃあ両方たっぷり聴こうぜ」そう言えばあの頃、初来日したU2もシュウと一緒だった。

音楽ではシュウは新しモノ好きなところがあって、80年代のニューロマンティックやデジタルサウンドも好きでしたが、私は古いダウントゥーアースな音が好きでした。
彼とは長い付き合いだし、音楽趣味は合ったり合わなかったり。そして、私の70年代ダウントゥアース趣味の中で彼が気に入っていたのが、この人です。

リンダホイル「Pieces of me 心のかけら」

1971年

元アフィニティの歌姫のソロアルバムという肩書きで、分かる人には分かるらしいのですが、アフィニティは、note仲間のよっしーさんが過去に取り上げていました↓

アフィニティは一枚だけアルバムを出して解散となり、翌年リンダ•ホイルがソロを発表します。その本作は一曲目から泥臭いブルースです。ヘヴィーなギターは以前私の記事でも取り上げたクリス•スペディング。

一曲目のブルース 長いので割愛

一曲目が荒々しいブルースで、ずっとこの調子なのかと思いきや二曲目は、聖歌みたいな曲、ペイパーチューリップ(冒頭↑)。私とシュウの好きな曲です。
リンダはアメリカに憧れる英国の女の子でしたが、集まったバック陣が英国ロックの人達で、この湿っぽさはやはり英国的です。
そしてハイトーンで紡ぎ出すように歌うリンダ•ホイルの声が美しいです。

シュウも会う度に「これ(リンダホイル)を聞くとおまえを思い出すよ」と言います。その彼は必ず年賀状を送ってくれて、彼が描くイラストとセンスある一文はちょっとしたうちの風物詩で、大人になってもその調子で年賀状は長く続きました。

そしてある時、ふと年賀状が途切れました。

それは疎遠になったのではなく、彼が本当に幸せになったからだと私には、分かります。純心であるが故に爆笑の裏側にある彼の孤独や挫折は収束して、穏やかな笑顔になったのだと、私には分かります。

もう会うことはないだろう
一緒に語り合った音楽は懐かしい
一緒に走った街の灯りも懐かしい

初めてのレッスンテープの歌
「孤独な男の影」を聴くと
シュウに近づいていくようだ
本作「心のかけら」を聴くと
シュウが私を呼んでいるようだ

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