見出し画像

【内容一部公開】2つの理論を、この1冊で身につける!――近刊『加群とホモロジー代数入門』

2024年5月下旬発行予定の新刊書籍、『加群とホモロジー代数入門』のご紹介です。
同書の一部を、発行に先駆けて公開します。



***

はじめに

本書は、環上の加群の理論をホモロジー代数と関係の深い部分を中心に解説し、逆に加群の理論からホモロジー代数の基本的な部分の理解を深めてもらうことを主な目的として書かれた入門書である。対象としては、群、環、体などの代数の基本的構造や、位相空間の基本的な概念を学んだ人を想定している。

環上の加群の理論においては、テンソル積と準同型加群の関係の理解が一つの鍵となるが、これは圏論や、複体や完全列などホモロジー代数についての知識がないと、系統的に理解することが難しい。逆に、ホモロジー代数は加群の理論を基礎にしており、また、加群の理論には、圏論における随伴関手の例など、ホモロジー代数を理解するうえで役に立つ例が豊富にある。したがって、加群の理論とホモロジー代数を平行して解説することが、これらの題材を効率よく学ぶことにつながると思われる。このような事情もあり、たとえばテンソル積と準同型加群については、第1章で基本的な事項を述べた後、圏論の章の一節や複体と完全列の後の章でより詳しい内容を解説するというスタイルを取っている。

ホモロジー代数は、もともとは代数的トポロジー、つまり図形の性質を代数的に扱う分野のなかで代数的な部分を一般化してできたものである。が、その手法は幾何だけではなくさまざまな分野で有効に働くことがわかり、現代数学の広い範囲で使われている。このホモロジー代数の発展は、圏論の発展と深く結びついている。また、さまざまな概念を統一して理解するためには、逆極限や順極限の概念が重要である。しかし圏論や極限は、代数や位相の基礎を学んだ段階では触れていない場合が多いと思われる。そこで、圏論や極限については、基礎的な部分から例を含めて詳しく説明するようにした。たとえば極限については、比較的わかりやすい擬順序集合上の場合を例を中心に説明し、その後で小さい圏上の場合を一般的に説明するようにした。

全体的には、入門書としての立場から、基本的な事項については詳しい解説を心掛けた。また、さまざまな加群の計算には、テンソル積や準同型加群、極限などの操作が交換できるかどうかが大切になることが多いので、そのような性質については、通常の加群の入門書より詳しく説明した。その分、ほかの重要なトピックについては手薄になってしまった。とくに、ホモロジー代数については、本来説明すべき事柄で説明していない内容がある。たとえば、Künneth公式や普遍係数定理は紹介していない。このような内容については、より本格的な書物で学習されたい。アーベル圏や、層の理論についても詳しく述べるだけの紙数がなかったが、関連が深い内容なので、概略を付録として解説した。

(後略)

***

千葉大学 松田 茂樹(著)

現代的な視点から、必須の理論が一望できる!

分野の垣根を超え、現代数学のあらゆる分野で活用されている「ホモロジー代数」と「加群」。それぞれの分野の具体例や視点を相互に活用しながら、これらを見通しよく一挙に解説します。
 
共通する土台としての圏論も丁寧に導入。無理なく、一歩一歩理解が進みます。


【目次】
第1章 加群

 1.1  環について
 1.2  環上の加群
 1.3  普遍性
 1.4  直積と直和
 1.5  核,余核
 1.6  準同型加群
 1.7  加群のテンソル積
 1.8  環のテンソル積
 1.9  局所化
 1.10  外積

第2章 圏と関手
 2.1  圏と自然変換
 2.2  圏
 2.3  圏における種々の概念
 2.4  関手
 2.5  充満性,忠実性,部分圏
 2.6  自然変換
 2.7  随伴関手
 2.8  表現可能関手
 2.9  圏同値
 2.10  準同型加群とテンソル積(その1)

第3章 極限
 3.1  極限のよび方について
 3.2  擬順序集合
 3.3  擬順序集合上の逆系,順系
 3.4  擬順序集合上の極限
 3.5  擬順序集合上の極限の例
 3.6  圏上の図式
 3.7  圏上の極限
 3.8  有向的圏
 3.9  極限の交換
 3.10  加群の圏における極限

第4章 複体と完全列
 4.1  定義と簡単な性質
 4.2  図式追跡
 4.3  加法的関手
 4.4  加群の圏の間の加法的関手の完全性
 4.5  射影加群,移入加群
 4.6  平坦性

第5章 加群への応用

 5.1  準同型加群とテンソル積(その2)
 5.2  可換環上の有限生成射影的加群
 5.3  テンソル積の計算の例
 5.4  極限と完全列
 5.5  極限の計算の例

第6章 コホモロジー
 6.1  複体のコホモロジーの性質
 6.2  連結準同型
 6.3  ホモトピー
 6.4  分解
 6.5  導来関手
 6.6  非輪状分解

第7章 スペクトル系列

 7.1  定義と例
 7.2  2重複体のスペクトル系列

第8章 TorとExt
 8.1  Tor
 8.2  Ext
 8.3  大域次元

付録A  アーベル圏
 A.1  加法圏
 A.2  アーベル圏
 A.3  関手の完全性と導来関手

付録B  層係数のコホモロジー
 B.1  層とは
 B.2  層の定義
 B.3  層係数のコホモロジー

付録C  群のコホモロジー
 C.1  群環
 C.2  G加群
 C.3  群のコホモロジー

参考文献
記号
索引


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?