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『漫画家の絵柄、AIでそっくり再現「ピュアモデルAI」』~【web3&AI-テックビジネスのアイディアのタネ】2024.4.29

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■漫画家の絵柄、AIでそっくり再現「ピュアモデルAI」ができたワケ

 韓国発祥のデジタル漫画「ウェブトゥーン」制作会社であるエンドルフィンが2024年4月2日、漫画家本人の絵柄のみを学習させたとするAIサービス「Pure Model AI(ピュアモデルAI)」を発表。一般社団法人マンガジャパンと連携し、漫画家の里中満智子氏、倉田よしみ氏らの協力のもと、Pure Model AIが制作の一部を担ったという作品を公開した。いずれも元の絵柄がそっくり再現されており、Xなどで生成AI関連の話題となった。

「生成AIは今ここまでできるようになった!」
という驚きと同時に、生成AIは過去のデータが多いほど有利であることから
「使える人を選び、格差を広げるかもしれない」
ということを感じさせるニュースをご紹介します。


漫画家ごとに作るオーダーメイドAI

漫画家の絵柄を学習し、ラフな下絵を描くだけで漫画家の画風で仕上げてくれる「Pure Model AI(ピュアモデルAI)」が韓国のエンドルフィン社から発表されました。

そう聞くと、誰でも有名漫画家の画風でフェイク漫画を描けるヤバい世界線を想像するかもしれませんが、著作権や人格権を重視する姿勢から、漫画家ごとに個別契約をして本人のみが使う前提で開発されており、「オーダーメイドAI」と表現しています。


ラフ画から着色仕上げを生成

これまでの生成AIは壮大なガチャでした。
同じプロンプトでも生成される絵柄は毎回異なり、狙った通りの絵を作ることはおおよそ不可能でした。

TBSラジオのポッドキャスト番組『工藤郁子×山本ポテト「働き者ラジオ」』第44回「AIを仕事でどう使ってる?」の中でも、「AIは庭師である」と説いています。

自然に育った木々の枝ぶりに合わせて最適化するような使い方が現在の生成AIには向いており、彫刻家が1点モノを狙い通りに削り出すような従来の創作手順には向いていないとしています。

つまり、最初にランダムで生成されたものの中から良いものを選び出したり、AIが生成したものを再加工する前提で候補を量産するような使い方が向いているわけです。

今回の「Pure Model AI(ピュアモデルAI)」については、たとえばストーリーのプロット自体を生成したり、プロットやネームから自動的に漫画が生成されるようなものではありません。ここに使ってしまうとランダムガチャになってしまいます。

ラフ画を描くと漫画家の画風をキープした状態で線画を仕上げ着色までを担当するというような使い方を想定しており、ストーリーや構図はあくまでも漫画家自身が決めるようになっています。

これまではアシスタントの人が手分けをして作業していた部分をAIに任せるような使い方です。

ウェブトゥーンは既存の漫画に比べても負荷がかなり高い領域なので、今のまま制作をしていくとコストに耐えられる会社は多くありません。この問題を解決するうえで大きなものはAIです。

「Pure Model AI(ピュアモデルAI)」を開発したエンドルフィン社がウェブトゥーンという縦スクロール×フルカラーの漫画制作会社であることもあり、フルカラー着色の作業の負荷の重さを解消したいという課題意識から開発されています。

これまでの(デジタル作業であるとはいえ)手作業での着色では週1話の連載も難しかったところ、「Pure Model AI(ピュアモデルAI)」を使うことにより、週2話くらい出せるようになるのでは、というのが今の期待値のようです。

ラフ画を描けばAIが漫画家の作風を維持したまま仕上げてくれ、大勢のアシスタントを使うことなく、2倍以上のペースで作品を発表できるというのが、最新の漫画AIの現在地です。


ベテラン漫画家が恩恵を受けやすいAI

「Pure Model AI(ピュアモデルAI)」の画風を維持する仕組みを実現させているのは、漫画家自身による学習データの提供です。つまり過去データが豊富なベテラン漫画家の方が恩恵を受けやすいと言えます。

ジェームズ 個人の新人作家の場合は現実的にはまだ厳しいと思います。想定以上にコストと時間がかかるので、耐えうる状況でないと。KAIST(韓国科学技術院)と一緒に取り組んでいるプロジェクトもあり、技術的には新人作家も使えるところまではいくと思います。ただ、まだコスト高なので、ある程度落ち着いてからの方がいいかなと。

新人漫画家の場合は過去作品がないか少ないうえ、画風が定まっていない、画力の伸びしろがあるという課題もあります。

KAISTでは著作権を守るためのツールを開発しているんです。その名も「Validator(検証ツール)」という、絵柄を検証する技術です。たとえば新人さんが絵を持ってきた場合、それが他人の絵であることがあるかもしれない。その段階でValidatorにかけると「Aさんの絵が何パーセント、Bさんの絵が何パーセント」とわかるというものです。

作風が定まっていない段階では、絵柄を検証するツールを使うと他人の作風に似ていると判定される恐れもあります。

ジェームズ 最初は500枚程度をいただいていましたが、いまは最小50枚です。ファインチューニング(微調整)が必要なときに別途複数枚をもらっています。

最小50枚でもパッと見ただけで〇〇さんの画風だと皆が思ってもらえるのもベテラン漫画家ならではでしょう。

また学習精度を高めるためには学習素材が多いほど有利です。ベテラン漫画家なら過去作品が使えますが、新人の場合は学習のためだけに描く必要も出てくるはずです。その分コストも時間もかかります。

つまり、過去作品がたくさん出ているベテラン漫画家が有利です。

過去作品がたくさん出ているということはもともと人気があったとも言えます。人気漫画家が作品の発表量を2倍にでき、アシスタントのコストも不要になり、結果的に売り上げも利益も出しやすいということが起きます。

お年を召してからだと、アイデアも豊富だし描きたいものも多いけど、体力がない。そこでAIが問題を解決してくれるのではないか、という考えもありました。

描きたいことを紡ぎ出すことも大変な作業だとは思いますが、多くの時間をいわゆる「インプット」に使えるようになるというのもAIを使うメリットになってきます。ベテラン漫画家の方がインプットの機会を増やせ、AIが使えない新人はアウトプットで枯れ果てるということも起きかねません。


「先にAIを育てる」という新人参入もあり得るか

著作権を守るやり方で進めると、どうしても作家さんの気に入らない“ダメ”なデータが出てくるので、先生方と話して、ふたたび追加で描いていただいた画を学習させて……を繰り返すわけです。しかし、長い目で見て、これはやるべきだという判断をしています。

先進的な新人漫画家なら、当たるかもわからない作品の量産ではなく、先に量産体制を整えるためにAIに学習させることに先行投資する人も現れるかもしれません。

自分の画風を固め、AIによる量産体制を整え、いざストーリーとアイディアで勝負、という順番で漫画市場に打って出るのが定石になる時代もあり得るでしょう。

今回は漫画、特に着彩が必要なウェブトゥーンに向けた生成AIでしたが、作風を守るAIは、小説家、映画監督、俳優、画家など別の専門領域でも登場するでしょう。

その時も、作風が定まり過去作が大量にあるベテランが有利になる可能性は高いはずです。そしてまた、「AIを先に育てる」という新人の挑戦方法も採られるようになるのでしょう。

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