政府のクラウド活用の歩みをざっくり振り返る
最近、公共界隈ではガバメントクラウドが本格スタートしました。
この記事ではガバメントクラウドの成り立ちの背景理解を深めるために、政府のクラウド活用のこれまでの歩みを公開情報ベースでざっくり振り返っていきたいと思います。
なお、この記事は以下のツイートを骨子として、情報をまとめ直したものです。
おことわり
私は「当時をよく知る関係者」ではありませんので、解釈が誤っていたり重要な経緯が抜け落ちていたらすみません。ご指摘をお願いします。
この記事は過去の歴史や経緯を整理・把握することが目的であり、批評をする意図はありません。
内容は公開情報に基づくものであり、私がITコンサルタントとして業務上知り得た秘密情報は含みません。また、主張や見解は全て個人の解釈に基づくものです。
一部の文書はリンク切れでたどりつけなかったため、国立国会図書館のインターネット資料収集保存事業「WARP」のリンクを使用しています。
第一期政府共通プラットフォーム
2009年 霞が関クラウド構想
政府のクラウド活用構想は、2009年(平成21年)からスタートします。
2009年4月、IT戦略本部が「デジタル新時代に向けた新たな戦略~三か年緊急プラン~」を発表しました。この中で、政府の共通基盤としての「霞が関クラウド(仮称)」の構築が明文化されました。
6月には「政府情報システムの整備の在り方に関する研究会」が立ち上がり、8月の中間取りまとめの時点で霞が関クラウドを具体化した「政府共通プラットフォーム」の基本コンセプトが公開されています。
脱線するのですが、この中間取りまとめの本編では「アプリケーション開発用プログラミングインターフェイス(API)」について言及がされており、少し驚きました。
後述の最終報告では消えてしまっています。なぜ。
ちなみに2009年前後がどんな時代だったかというと以下のような感じです。NISTによるクラウド定義が2011年であることを見ると、当時は結構先進的な方針だったのではと思います。
2007年:初代iPhoneの発売
2008年:AppleがApp Storeを開始
2009年:Windows 7発売
2010年:MicrosoftがAzureの提供を開始(ちなみにAWSは2006年)
2011年:NISTがSP800-145にてクラウドコンピューティングを定義
2013年 第一期政府共通プラットフォームの運用開始
その後は以下のように政府共通プラットフォームの整備が進められました。
(さっと確認できた限り。)
2010年4月 上記研究会の最終報告
2010年6月 「新たな情報通信技術戦略 工程表」において、2011年度から政府共通プラットフォームの設計・開発を行い2012年度中に運用を開始する計画が策定
2011年11月 「政府共通プラットフォーム整備計画」が策定
2012年4月〜2013年3月 政府共通プラットフォームの設計・構築
2013年3月 政府共通プラットフォーム運用開始
こうして2010年に策定された工程表の計画どおり、第一期政府共通プラットフォームは2013年3月に運用をスタートしました。
具体的なサービス内容についての公開情報は多くありませんが、会計検査院の随時報告から、その実態を垣間見ることができます。
例えばPF側からのリソース提供範囲は下図のようなa, b, d, eのパターンで行われており、PaaSとIaaS、ハウジングサービスを組み合わせた共通基盤であることが分かります。
2015年度末時点の計画では、1,312の政府情報システムのうち316のシステムが政府共通プラットフォームへと移行する計画とされました。
第一期政府共通プラットフォームはうまくいったのか?
結構から述べると、あまりうまくいかなかったようです。
2021年に出された会計検査院の報告から一部を抜粋・要約すると以下のとおりです。
当初は316システムが移行予定であったが、実績は100システム程度に留まった。
リソース使用率は最適化されなかった。
移行前と比較して運用コストは削減できなかった。
個人的な所感ですが、サーバをただ集めて仮想化・集約しただけ(に見える)の共通基盤では、コスト削減効果が出なかったのは当然かなと思います。
民間企業であれば、共通機能の集約、ライセンスの統合と最適化、運用保守の統合などによる削減効果が期待できると思いますが、ほぼ別企業に近い各府省の縦割りシステムを集約する政府共通プラットフォームにとっては難しい取り組みだったのだろうと推測します。
その他、会計検査院の報告では以下の記載が気になりました。
100システムに対して運用管理系サーバ843台は何かの間違いだと思いたいのですが、会計検査院の報告に書かれている数字なので正しいのでしょう。
843台・・・
第一期政府共通プラットフォームは現在も稼働していますが、2023年末までに運用を終了する予定となっています。
第二期政府共通プラットフォーム
2018年 「クラウド・バイ・デフォルト」とクラウド基本方針の策定
2018年6月、政府は「クラウドバイデフォルト原則」を定め、「政府情報システムにおけるクラウド・サービスの利用に係る基本方針」を策定しました。この基本方針によって、政府のクラウド活用は本格的にスタートします。
基本方針ではクラウド活用を第一とし、オンプレミスは最後の例外的な手段となるようなプロセスが定められました。
また、「クラウドサービス」の定義はNISTの5つの特徴を意識したものとなり、外部データセンターにサーバをホスティングするだけの「名ばかりクラウド」を区別できるようになりました。
2020年 第二期政府共通プラットフォームの運用開始
2019年2月、上記の「クラウド基本方針」と第一期の課題と教訓を踏まえつつ、政府共通プラットフォーム第二期整備計画が立ち上がります。
第一期ではいつの間にか「クラウド」の文字が消えてしまいましたが、第二期では明確に「クラウドサービスを活用しつつ、必要な機能・サービスを標準化・共通化した上で提供する。」と明記されました。
その後、第二期政府共通プラットフォームはパブリッククラウドであるAWSをベースとして構築され、2020年10月に運用を開始します。
AWSの採用ニュースは業界に衝撃が走りましたし、従量課金制を活用するための単価契約の採用など、調達面でも先進的であったと記憶しています。
(そのあたりを知ることのできる「第二期政府共通プラットフォームにおける クラウドサービス調達とその契約に係る報告書」は公開停止になってしまいました。WARPでも取得できず。)
ガバクラ統合に伴い廃止へ
そんな鳴り物入りの第二期PFでしたが、ガバメントクラウドの整備に伴い、サービス開始から1年足らずでサービスを終了する方針が決定されます。
第二期PFを継続せずガバメントクラウドに統合する理由については政府の文書から読み取ることはできませんでした。
以下の日経クロステックの記事(有料会員限定)によれば、ベンダー依存の脱却、独自サービスの廃止と内製化、調達方法の変更などが理由として挙げられています。
クラウドスマートとガバメントクラウド
2022年 クラウド基本方針の全面改定
2022年9月、「クラウド・バイ・デフォルト」を掲げたクラウド基本方針が抜本改定され、「政府情報システムにおける クラウドサービスの適切な利用に係る基本方針」として公開されました。
この新基本方針では、旧基本方針に基づくクラウド活用について「クラウドへの移行そのものが目的化されてしまい、必ずしもクラウドサービスの利用メリットを十分に享受できていないといった例も散見された。」という問題を挙げた上で、クラウドサービスのメリットを享受するためにモダン技術を活用する「スマートなクラウド利用」が掲げられました。
「クラウドスマート」の具体的な取組内容としては、一例として次のような内容が挙げられています。
マネージドサービスの活用、サーバレスアーキテクチャの採用
マイクロサービスアーキテクチャの採用
インフラ構築の自動化(IaC)とCI/CDパイプライン化
システム監視や運用、セキュリティ監視の自動化
ゼロトラストの考え方に基づくセキュリティ対策 等
さらに、新基本方針では政府情報システムにおけるクラウドサービスの選択について「クラウドサービスの利用についてはガバメントクラウドを原則とする」とされました。
これにより、今後政府のシステムはガバメントクラウドへと集約される方針となる想定されます。
そしてガバメントクラウドへ
・・・という見出しをつけておきながら、ガバメントクラウド自体については残念ながら現時点で公開情報がほぼ無く、このnoteに記載できることがありません。すみません。
技術的な志向については、デジタル庁クラウドチームによるnoteが公開されており、その方向性をなんとなく掴めるかもしれませんのでご紹介します。
このパートについては、今後公開情報が出てきたらまた拡充したいと思います。
ガバメントクラウドに対する理解のまとめ
ここまで整理した経緯を背景として、ガバメントクラウドに対する理解というか解釈を並べてみようと思います。
完全に個人的な解釈ですので、理解の誤りや異なる意見があれば、ぜひコメントをいただきたいです。
なぜクラウド活用が必要なのか。
共通機能の活用、自動化、リソース最適化などによる高度化とコスト削減のため。
なぜパブリッククラウドなのか。
プライベートクラウドは第一期政府共通PFで痛い目みたでしょ。
なぜマルチクラウドなのか。
特定のクラウドベンダ依存を解消し、競争性を確保するため。
システムの特性に応じて、クラウドサービスを使い分けられるようにするため。
なぜモダン化しないといけないのか。
オンプレ思想のままクラウドに単純移行するだけでは、クラウドメリットが享受できず、コスト削減にも繋がらないため。
謝辞
この記事は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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