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洞窟壁画と洞窟儀礼

「シャーマンと伝統文化の智恵の道」に書いた文章を転載します。


後期旧石器時代以降、有名なラスコーやアルタミラの洞窟壁画のように、洞窟に描かれた壁画が世界各地にあって、類似した特徴を持っています。

洞窟壁画には、動物やシャーマンらしき人物の他に、様々な図形、線、手形などが描かれています。

描かれた壁画の意味について定説はありませんが、シャーマニズムとそこで行われた儀式に関係しているのではないかとする説が有力です。

儀式が行われていたとすれば、動物の「増殖儀礼(豊猟儀礼)」か、成人もしくはシャーマンの「イニシエーション儀礼」でしょう。

現代のアボリジニのアルンタ族によれば、動物の出産と繁栄を願うために動物の絵を描いているという証言があります。

また、南アフリカのサン族のシャーマンは、シャーマンらしき人物の洞窟壁画を見せられて、それがシャーマンの様々なトランス状態での体験を表現していると証言しています。


洞窟の意味


洞窟は冥界へつながる場所であり、岩壁の向こう側が純粋な冥界だと考えられたのでしょう。

また、洞窟は、地母神の子宮であり、鍾乳石は乳房であり、石筍は男根です。

ですから、動物は、洞窟の岩壁の向こう側で生まれて、壁を通って、洞窟からやってくると考えられていたのでしょう。

洞窟の中は暗黒です。

他界である洞窟に入ることは、トランス状態になることと同義であり、実際に、儀礼においては、トランス状態になったのでしょう。

また、洞窟では、ドラムなどの楽器の音が反響して、特別な効果を持ったでしょう。

岩壁や鍾乳石を叩く音は、精霊との交信や、動物の増殖を促すものであったのかもしれません。

ちなみに、洞窟の中、最も音が反響する特別な場所を見つけ、そこを特別に聖なる場所としていたようです。


動物


洞窟壁画に描かれる動物の多くは、食料となりうる草食動物ですが、肉食動物も含まれます。

他にも、鳥類や水性動物なども描かれています。

草食動物は「増殖儀礼」の対象となりますが、肉食動物はシャーマンや狩人が同一化するような対象でしょう。

「パワー・アニマル」や「スピリット・ヘルパー」となりえる動物もいます。

洞窟の壁画は、暗闇の中で、小さなランプの揺れる炎に照らされて、その一部しか見られません。

洞窟を歩いていくと、急に暗闇から動物が現れ、動いているように見えます。

岩壁は平面ではなく凹凸があります。

動物の絵は、その凹凸を利用して描かれることも多くあります。

つまり、まず、岩の形に動物を見つけることから始まるのでしょう。

動物を思わせる突起した岩の部分に、絵を書き足したり、岩壁から動物の顔が覗いているように描かれているものもあります。

窪みに描かれた動物も、飛び出してくるように見えます。

動物は、岩壁の向こうの冥界からやってくるのであって、絵を描くことは、それを再現し、助けるのでしょう。

狩られた動物や、動物の一部を描いた絵もありますし、洞窟中には動物の骨も見つかっていますので、逆に、岩壁の向こうの冥界に、動物(の魂)を送り返す儀礼も行われたかもしれません。

壁画には、地面が描かれることはなく、浮遊しているように描かれている動物もいます。

つまり、動物は、地上にいる姿とは限りません。

また、動物の絵は光を当てて見て終わりではなく、その後に目をつぶって、動物の残像がイメージとして動き出して初めて意味があったのかもしれません

暗黒の洞窟の中では、一種のトランス状態になっていれば、目を開いていても、閉じていても、ほとんど同じだったでしょう。


シャーマン


洞窟壁画には、シャーマンらしく人物がかなり描かれています。

頭から光を発していたり、半人半獣の姿であったりします。

上に書いたサン族のシャーマンらの証言によれば、ある絵は、シャーマンがライオンに変身する姿だと言います。

また、細長い体の絵については、シャーマンがトランス状態で体が伸びる感覚を表現したものだと言います。

また、シャーマンらしき人物の体の回りが点の配列で囲まれた絵に関しては、トランス状態での沸き立つ感覚の表現であると言います。


様々な図形、記号


洞窟壁画には、意味の不明な点、線、図形などが多数、描かれています。

それらは、別ページで紹介した生理的な「内部閃光」と関係しているのではないかというのは有力な説です。

洞窟は、トランス状態になる場所でもあり、壁画にはトランス状態で見たものを描いた部分もあるでしょう。

「内部閃光」と、その後に、あるいは、そこから動物などのイメージが立ち現れるように思える体験が、そのまま壁画に反映しているのかもしれません。

また、例えば、「渦巻」は、岩壁の向こう側へつながった穴を表現し、多数の短い線は、岩壁の向こう側を開こうとする切込みだという説もあります。

ひょっとしたら、自動書記のようにして、意図せずして描いた線から、意味あるイメージが浮かび上がってくることを待ちながら描いていたのかもしれません。

トランス状態では、実際に、多数の線の運動や変形からイメージが浮かび上がるようなこともあるでしょう。


ハンド・プリント


洞窟壁画に描かれているもので印象的なものに「ハンド・プリント」、つまり、手形があります。

これには、「ポジティブ・ハンド」と呼ばれるものと、「ネガティブ・ハンド」と呼ばれるものがあります。

「ポジティブ・ハンド」は、塗料を手のひらに塗って岩に押し当てて描かれたものです。

「ネガティブ・ハンド」は、岩に押し当てた手のひらの上から、塗料を吹きかける、あるいは、塗ることで、手のひらの周囲に塗料を付けて、ネガの手形を描くものです。

「ハンド・プリント」の意味については、定説もなければ、有力な説もありません。

あえて根拠なく推測してみると、「ポジティブ・ハンド」は現世の人間、「ネガティブ・ハンド」は冥界の人間(精霊)を表現しているのかもしれません。

あるいは、「ポジティブ・ハンド」はこちら側(現世)から岩壁の向こう側(冥界)へ行った印、あるいは、動物の魂を送った印。

「ネガティブ・ハンド」は向こう側からこちら側に来た印、あるいは、動物の魂を送られた印かもしれません。

そして、単なる記録ではなく、呪術的な意味があって、それは現世と冥界を媒介する岩壁との力のつながりを保持するためのものでしょう。



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