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Bible Gamer 第二夜 「ノアの方舟」

これは、2019年9月発行「季刊Ministry」(キリスト新聞社)Vol.42に掲載され、それを加筆修正した記事である。詳細は「前日譚」に記した。

古来、文学や音楽など創作において旧約聖書は優れたネタ帳として用いられてきた。それはアナログゲームでも同様で、その中でも「ノアの方舟」は、よく採り上げられる題材である。

それはこのエピソードが、(少なくともキリスト教圏では)多くの人が知っているポピュラーな物語であることに加えて、その内容がとりわけゲーム的な構成だからだ。

実際、創世記・第6章の中盤から第7章の冒頭までは、まるで「神のルールブック」のようだ。

ここで神は、自らの意思決定(洪水で滅ぼす)を宣告し、ノアに方舟の要求仕様と、全ての動物たちを「つがい(オスとメス)」で収容することを命じる。そして第7章の冒頭で要件定義がアップデートされ、工期が7日と明確になる。

創世記 6:11~7:4

「ノアの方舟」ゲームの多くは、ノアが洪水に備える準備期間を主題に置いている。ゲームの制作者たちは、この物語を読み解き、聖句には描かれていないノアたちの労苦を思い巡らせ、それをゲームの枠組みに落とし込んでいるのだ。

以下、ノアの方舟をモチーフにして、豊かな発想とユニークな着眼点で制作されたゲーム5点を紹介する。

"Noah's Ark" Card Game (『ノアの方舟』カードゲーム)

つがいには赤ちゃんがいる

これはファミリー向けカードゲームだ。初版は20世紀初頭に発売されたようで、版を重ねて現在でも販売されている。

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「ノアの方舟」カードゲーム

カードには、象やカバなどの17種の動物が描かれ、同種の動物はそれぞれ「オス(父)」「メス(母)」「赤ちゃん(子)」と3枚のカードで構成される。そしてこれら3枚1組を「家族」として扱う。

たとえば「象」のカードには、「オスの象」「メスの象」「象の赤ちゃん」の3種が1枚ずつある。

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右から「父」「母」「赤ちゃん」の象カード家族

これら動物カードの他に「ノア」カードが1枚ある。

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「ノア」カード

ゲームはババ抜きのように進行する(自分の番が来たら、左となりの人の手札から1枚のカードを引いて自分の手札に加える)。同じ種類のカード3枚、すなわち「家族」が手札にそろったら、それらを方舟に乗せる(自分の前に公開する)ことで得点になる。

また、同種のオスとメスのカード2枚がそろっただけでも「つがい」として方舟に乗せてもよい。聖書の記述に依れば、それが正解だろう。しかしそれでは、残された赤ちゃんはどうなってしまうのだろうか。

このとき、「ノア」カードを持つ人がその赤ちゃんカードを持っているなら、それを洪水に飲まれて溺れ死んだ(drown)ことにして得点してよいのだ(そして『ノア』カードを左となりの人に渡す)。

どういう状況であれ、これは赤ちゃんにとって不幸な厄災であることには違いない。百年ほど前の古いゲームではあるが、この不穏な表現には少し驚いた。

Animals on Board (アニマル・オンボード)

プレイヤーはノアではない

ノアの物語を、やや変わった視点からとらえたゲームだ。

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「アニマル・オンボード」

ノアは、プレイヤーたちのあずかり知らないどこかで動物のつがいを集めている(したがって、このゲームにノアは直接登場しない)。プレイヤーたちの役割は、自家製の小さな方舟を用いて、ノアが切り捨ててしまっているつがいではない動物たちを救い出すことにある。

プレイヤーは、同じ種類の動物を1頭だけか、あるいは3頭以上を集めれば得点になる。しかし、同種の動物を「2頭」しか集められなければ、それはつがいなのでノアが彼の方舟に持ち去ってしまう。持ち去られた動物は得点にならない。

同じ種類の動物を多く集めた方が高得点になる。では、集められるだけ集めてしまえばいいかというと、そうもいかない事情がある。プレイヤーたちの方舟は小さく、それに乗船できる動物は10頭までに制限されているのだ。

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プレイヤー用の小さな方舟

また、動物を集める仕組みが他のプレイヤーと干渉しあう構成にもなっており、手軽ながらも白熱した対戦が楽しめるゲームである。

Arka zwierzaków / Ark of Animals

つがいは1頭に減らされる

砂時計を用いるリアルタイム・アクションゲームである。

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「Arka zwierzaków」

このゲームは全員が自分の方舟を持っている。まず場に、多数の動物タイルを裏向きにして置く。準備が整ったら、砂時計をひっくり返してゲームが始まる。

全員が一斉に、場の動物タイルを片手で1枚ずつめくり、それを自分の方舟に乗せるか、いらなければ場に戻す。

めくった動物タイルを自分の方舟に乗せるなら、そのタイルを裏向きで置かなければならない。つまりプレイヤーは、自分の方舟のどこに何の動物を乗せたか覚えておかなければならない。

砂時計から砂が落ちる30秒が経過したら1ゲーム終了となり、方舟に乗せた動物タイルを表向きにして得点計算する。

このとき、方舟に同種の動物が2頭以上いたら1頭に減らされてしまう。このゲームでは方舟につがいを乗せられないのだ(もしかしたら、1枚のタイルでつがい一組を表しているのかもしれない)。

またもし、方舟の中に肉食動物がいたら、それに隣接する小さな草食動物を食べてしまう。食べられた動物は方舟からいなくなる。

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同種の動物や肉食動物に食べられたら方舟から除去

こうして、方舟に残ったタイル1枚につき1点を得る。これを3回プレイし、最終的に合計点を競う。記憶力と瞬間的な判断が交錯するリアルタイムゲームだ。

Ark (アーク)

動物たちは種ごとに多彩な特性を持つ

前述の「Arka zwierzaków」のように、方舟に収納する動物たちの船内管理を、一段と複雑にしたカードゲームだ。

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「アーク」

方舟が完成した後、動物たちはノアのもとにやって来る(創世記7:8~7:9)。これらの動物たちは、種ごとに固有の特質を持っていたはずだ。

詳細は創世記に記述されていないが、いくら巨大な船体であったとしても、それぞれの特質に合わせて船内に多数の動物たちを積み込むことに、ノアたちは相当に苦心したであろう。このゲームは、そこに焦点を当てている。

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左上のアイコンが動物の特質を表している

方舟には動物たちを収容するいくつかの「船倉」がある。しかしこのゲームでは、同じ船倉に複数の動物を収容することに対して、多くの制限が課せられている。

まず動物たちは、食性(草食・肉食・雑食)で分類されている。肉食動物とそれより小さな草食動物とは同じ船倉に入れることはできない。

また草食動物や雑食動物は、食料(野菜、穀物、くだものなど)と同じ船倉には入れてはならない。

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食料カード

動物には重さがあり、方舟の片側が重くなりすぎると傾いてしまう。方舟が横転してしまうような収容はできない。そのため、特に大型で重量級の動物は、左舷と右舷にバランス良く分散させる必要があるだろう。

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方舟の傾きを管理するカード

他にも、気温特質(暑さに強い・寒さに強い)があり、さらに「内気なもの」「動きの遅いもの」「役に立つもの」などに細かくステータスが設定されている。しかも一部の動物には特殊効果まで付いており、さらにややこしい。

こうして、本格的に大雨が降り出して洪水が起こる前に、ルール上の全ての複雑な制約をどうにかして乗り越え、より効率的に多くの動物たちを方舟に収容することに知恵を振り絞るのである。

Ark & Noah (アーク・ノア)

3人の息子たちとともに

これまで紹介したゲームと異なり、本作はノアの物語をストレートに、そして詳細に再現したゲームだ。

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「アーク・ノア」

本作には、「ノア」ゲームとしても珍しいことに、ノアの息子であるセム、ハム、ヤペテが3人とも登場する。

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ノアと3人の息子

そして、タールを作り、動物を捕獲し、食糧を備蓄し、切り出したゴフェルの木で仕切りを用意し、それを方舟にタールで固定させることで、船倉となる「囲い」を作る。この囲いの中に、食料や動物たちを積み込むことを目指すのである。

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「アーク・ノア」のゲーム進行例

動物たちは、その体格のサイズに応じた、ちょうどよい広さを持つ囲いにしか積み込めない。したがって区切りの建設には計画性が必要だ。

どうにか無事に積み込めたら、動物を積み込んだ人と、その囲いの仕切りを作って貢献した人が、いずれも得点を獲得する。

このようにプレイヤーたちは単に得点を競うだけではなく、時には協力し合って方舟造りに取り組むことも考えなければならない。

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「アーク・ノア」内容物

本稿は以上である。他にも興味深い「ノア」ゲームが多数あるが、それはまた別の機会に譲ろう。

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