見出し画像

コピー

「もう、木村部長の下では働けません。
 異動が無理なら、退職させてください。」

またか…。
俺の何がいけないんだろう。
沢木本部長と同じ様にしているのに。
皆、俺の下から去って行く。

沢木本部長は大変優秀な営業だ。
カリスマ性が有り、人望が厚い。
仕事熱心で厳しいが、お客様からも部下からも好かれている。

俺は入社した時から、沢木本部長(当時は課長)に憧れており、営業スタイルを真似して来た。
お陰で部長にまでなれたが、部下がついて来ない。

「木村。
 ちょっといいか?」
「はい!」

沢木本部長に呼ばれた。
部下の件で叱られるのだろうか。

「木村は今年、何歳になる?」
「え?
 わ、私は今年で47歳になります。」

「そうか、俺の10歳下だったな。
 木村が小学3年生の時、俺は大学1年生だ。」
「はぁ…。」

「俺はな、この先もずっと木村よりも10歳先輩だ。
 10年違えば、経験値も違う。
 人脈の広さも違う。

 でもな、木村は俺よりも体力が有る。
 好奇心が有る。
 柔軟性が有る。
 遊び心が有る。

 小学3年生と大学1年生の差は大きい。
 小学3年生が大学1年生を目指すのは良いが、真似しなくて良い。
 俺を目指しても、真似しなくて良いんだよ。

「…。」

「木村はゴルフが本当に好きか?
 野球が本当に好きか?
 木村は何が好きなんだ?」
「正直言うと、ゴルフや野球はそこまで…。
 ゲームと釣りが好きです。」

「ゲームと釣りか、良い趣味じゃないか。
 俺はゴルフと野球が本当に好きだから、お客とその話で盛り上がるし、一緒にゴルフをしているだけだ。
 営業だからと言って、無理にゴルフをしなくても良いし、野球に興味を持たなくても良いんだ。
 ゴルフ接待という文化も、この先は廃れるだろう。
 それから、無理に部下を叱らなくても良いんだ。
 俺のコピーにならなくて良い。
 木村らしく、頑張れ!」
「はい、有難うございます!」

「まぁ、俺はこれからもゴルフと野球で、お客の心を掴むけれどな。
 部下にも厳しくするぞ。」
「私はゲームと釣りでお客様の心を掴んでみせます!」

沢木本部長のこういうところが、俺は大好きだ。
真似は止めるが、目指し続けよう。


関連記事↓