「日本人のための第一次世界大戦史」の感想③権力に操られないために

今日は長いけれど、まずは引用から

p84
1884年、若手士官の代表格であったジョン・フィッシャー海軍大佐は、
当時の有力誌「ポール・モール・ガゼット」の編集長W・T・ステッドに海軍の機密情報をリークし、
『海軍に対する責任(英語名中略)』
という質問形式のやらせ記事を書かせました。

それは
「我が国のフランスに対する海上優位などすでに存在しない、
海軍に資金を投入しなければ国が危ない」
というもので、掲載は国会の開会時期に調整されていました。

19世紀後半の識字率の向上、新聞や雑誌メディアの発達のもと、国民国家意識にめざめつつあった大衆は、意図的に煽られた「国家の危機」に不安を募らせたのです。

さらにこの年は普通選挙運動が盛り上がり、自由党政府は有権者の範囲を成年男子の70パーセントにまで広げる新選挙法案を提出したところでした。

この選挙法改革で所得税や不動産税を支払う富裕層の有権者は少数派となり、選挙権を得た税負担のない労働者や失業者などの階層が、軍事予算拡大を支持するようになります。

彼らにすれば軍備拡大による戦争勃発の危惧よりも、予算拡大は単純に自身に負担のない景気対策であり、失業対策だったのです。

フィッシャーのやり方は海軍士官による政治介入であり、理性ではなく大衆の感情に国家の将来を委ねる危険な兆候でした。

国家の将来を国民投票に委ねることが必ずしも正しいわけではない事例です。

(中略)

海軍費の拡大は失業対策のための造船業を通じた景気刺激策としても捉えられ、
これ以降、不況時には海軍予算が拡大するようになりました。

p85
普通選挙で実現した民主主義とは生活に直結した現実主義であって、必ずしも理想的な平和主義ではなかったのです。

日本人のための第一次世界大戦史 より引用

権力のある人間に好き勝手されないように市民が自分たちの立場を確立したのに、結局別の権力に裏で操られて愚かな選択をしてしまう。

少し前からフェイクニュースが叫ばれるようになったけれど、こんな昔からフェイクニュースと大衆煽動があったなんて驚きである。

どんどん社会や技術が複雑になって、無意識に自分の選択が操られているかなんて分からない世の中になってきている。

じゃあどうすればと言われれば、どうすればいいのか分からないのだけれど。

自分だけが騙されなくても周りが騙されれば、世論は悪い方に傾くだろうし。

だからといって平和や良い人生を諦めたくはない。

今回の引用のような過去の過ちから学び、まずは自分だけでも冷静な判断を下せるようになりたい。

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