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NHK-FM「サウンドストリート」かしぶち哲郎 featuring 矢野顕子 with ムーンライダーズ 『リラのホテル』コンサート(1983年9月23日放送)

NHK-FM「サウンドストリート」かしぶち哲郎 featuring 矢野顕子 with ムーンライダーズ 『リラのホテル』コンサート(1983年9月6日、東京・渋谷公会堂にて収録)

放送曲目:
1. 屋根裏の二匹のねずみ
2. 冬のバラ
3. 堕ちた恋
4. バーレスク
5. 恋ざんげ
6. Friends
7. Listen to me, Now!
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8. ひまわり
9. リラのホテル

演奏者:
かしぶち哲郎: Vocal
矢野顕子: Vocal, Keyboards
ムーンライダーズ(鈴木慶一、鈴木博文、岡田徹、武川雅寛、白井良明)
鈴木さえ子: Drums
奈良敏博: Bass
ひばり児童合唱団: Chorus
大貫妙子: Chorus
坂本龍一: Conduct for Strings


 片付けメモは、手持ちの記録の校閲、自身の記憶の補正が主な目的ですが、発表にあたっては、テキスト情報をウェブ上に残すことで、そのことについて確かめたい誰かの参考になればという気持ちがあります。その点で、個人ブログ、ウィキ、動画投稿サイトなどで発表されており、容易に検索できる情報については、「屋根屋を架す」必要はありません。YMO関連やムーンライダーズ関連は、詳しい情報を発信しているひとが多いので、付け加えることはほとんどありません。

 かしぶち哲郎さんのアルバム『リラのホテル』発売(1983年6月21日)に際して行われたコンサートについても、坂本龍一さんの番組で放送されたこともあり、ネット検索すれば、かしぶちさん自身の回想を始めとして、いくつかの情報が見つかりますし、動画投稿サイトで実際に聞くこともできます。にもかかわらず、ここに書こうと思ったのは、行われたのが、別稿で書いたリップ・リグ+パニックの来日コンサートの同じ場所の前日であったことを面白く思ったからです。

 コンサートは二部構成で、第1部が「ムーンライダーズ featuring かしぶち哲郎」と題された、かしぶち哲郎作品を中心にしたムーンライダーズの演奏。第2部が「かしぶち哲郎 featuring 矢野顕子」と題された『リラのホテル』収録曲を中心にしたプログラムだったようです。

かしぶち哲郎 featuring 矢野顕子『リラのホテル HOTEL LILAS』

 第1部についての情報はありませんが、のちにまとめられた『かしぶち哲郎 SONGBOOK』(1998年5月2日発売)に収録された曲が演奏されたのでしょうか。「砂丘」、「Beep Beep Beオーライ」、「ハバロフスクを訪ねて」、「オールド・レディー」、「トラベシア」、「バック・シート」、「狂ったバカンス」、「スカーレットの誓い」、「気球と通信」、「二十世紀鋼鉄の男」。ここに選曲されていない「バーレスク」(『MODERN MUSIC』、1979年10月25日発売)が第2部で演奏されているのが面白いです。「バーレスク」が第2部で演奏されたのは、ムーンライダーズ+アストロ・チンプスによるインタビュー+資料本『フライト・レコーダー FLIGHT RECORDER』(JICC出版局、1990年9月)で語られているように、『リラのホテル』と同じく、ピエール・バルー Pierre Barouh の影響を受けた曲だからかもしれません。

ムーンライダーズ 『かしぶち哲郎 SONGBOOK』

 ラジオで放送された第2部で感激したのは、曲順の妙です。1曲目は、レコードではA面最後(5曲目)の「屋根裏の二匹のねずみ」。まるで、物語の主人公の登場シーンのようです。闇に光が射すようなイントロはレコードと同じですが、歌に入る前にエレクトリックピアノによるイントロがひと呼吸付け加えられており、やや唐突に感じられたレコード版よりも、鮮やかな場面転換になっていると思います。これ以降、すっかり、かしぶちさんと矢野さんが演じる二匹のねずみが主人公のミュージカルのように進行していきます。喜劇と悲劇、紆余曲折。「Friends」が物語の出口を示すように奏でられ、「Listen to me, Now!」で大団円を迎えます(ラジオで放送された範囲、曲順からの勝手な感想です)。この2曲は、「Listen to me, Now!」をA面、「Friends」をB面としてシングル盤になりましたが、「Friends」がA面でもよかったと思っていました。

かしぶち哲郎&矢野顕子 「Listen to me, Now! 」c/w「Friends」

 アンコールの1曲目が、レコードではA面1曲目の晴れやかな「ひまわり」であるのもよいかんじです。コンサート版の演奏に全体的に言えることですが、レコード版ではあまり目立たない、ざらっとしたギターストロークが晴れやかさを際立たせています。最後に、アレンジを担当した坂本龍一氏の指揮によるストリングスを配した「リラのホテル」。かしぶちさんのオフィシャルウェブサイト kashibuchi.com に掲載されていたかしぶちさんの回想(※)によれば、当日のステージは「二階建てのホテルらしき洋館を作り」「出演者をホテルの客に見立てた演出で」「二階の窓から唄ったり、一階のドアからミュージシャンたちが出入りできる様にし」ていたそうです。見たかったと思います。
※現在、サイトはメンテナンスされていないため、回想ページは、home からはたどり着けません。"ソロ・コンサート リラのホテル" で検索すると、該当ページに行き当たります。

 番組では、開演前、終演後に、パーソナリティの坂本龍一氏による出演者への楽屋インタビューがありました。残念ながら、エアチェックテープには残していないのですが、ラジオ番組ならではでよかったと思います。

 構成の妙、アレンジの違い、演奏の勢いなど、このコンサートにはレコードとは異なる魅力があります。発売40周年ということで、2023年8月19日に『リラのホテル』トリビュートライブが「Billboard Live TOKYO」で行われましたが、この1983年9月のライヴ録音が、例えばオリジナルアルバムの40周年記念盤にボーナスディスクの形などで、正式リリースされるとよかったのにと思います。

 冒頭の写真は、『リラのホテル』発売当時の雑誌記事「異色対談 かしぶち哲郎 VS. 矢野顕子 回顧趣味に誤解されるとイヤ」に掲載されたものです。申し訳ないことに、誌名も号数も不明なのですが、撮影は、レコードのカバーと同じ、三浦順光氏によるものです。

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