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【短編小説】魔法の美容室

#短編小説 #現代小説 #ファンタジー小説 #生きる力 #魔法の美容室 #理美容 #コーディネート #スタイリスト #崎陽軒 #人生はあなたのもの #まだ生きていてほしいから #美容院

毎月1日は小説の日という事で、
5月もなんとか投稿できました。
日曜日なので、
アニメ三昧の日なんですけどね。
ゴールデンウィークなんで、
ほぼアニメ三昧でしょうから、
それは別で書きましょう。

さて本日は約6,000字です。
今まで以上にライトに書きました。
ネット上の小説は難しいですね。
どうしたら皆さんへ想いが伝わるのか?
どんな工夫が必要か?
なんて、考えてしまいます。
できるだけ短く、端的に・・
それでも想いをつたえるのは難しいですね。
さて、ゴールデンウィークのひと時、
お時間のある時にお読みください。

「魔法の美容室」

謎の女性

サキは開店の準備をしていた。
9:55開店5分前

「予約はないけどいいかしら」

そう言って、一人の女性が入ってきた。
年は50代だろうか?
ブランド物の黒いスーツが
少し年齢を高く見せているようにも思えた。

サキは
「いらっしゃいませ、予約がなくてもよろしいですよ
 どうぞ」

そういって、鏡の前のセットチェアへ案内した。

「本日はご来店ありがとうございます。
 そのような髪形にいたしましょうか?」

ストレートヘアーが背中まで伸びている
女性の髪見ながら、
サキはお客様に問いかけた。

その女性は黙って、鏡を見ていた。
サキは同じ鏡を見ながら、女性の顔を見ていた。
クマの後を化粧で隠していることや、
やつれた顔を無理やり
メイクでごまかしているように感じた。

やがてその女性は、
最小ロッドでソバージュをオーダーした。
サキは少しびっくりした。
最近ではそんなオーダーを聞いた事がなかった。
最小ロッドだと、本当にチリチリになる。
少し離れた所で開店の準備をしていたノブちゃんも、
タオルを落としそうになるのが、鏡に映っていた。

サキはゆっくりと女性の前に回り込んで
鏡越しではなく、女性の顔と向きあって言った。

「オーダーは承知しました。
 何か事情がおありのようですが、
 それはお客様の個人的な問題ですから
 お聞きしたりはしません。
 ただ一つだけお願いがございます。
 あなたの髪形を私にプロデュースさせて
 いただけないでしょうか?」

サキは全て私に任せてほしいと伝えたのだった。
女性は少し考えてから

「いいは、貴方に任せるわ」

少し投げやりとも思える態度で女性は言った。
サキは小さくうなづくと再度確認した。

「今、10時になろうとしています。
 私どもの店は小さな店ですので、
 他のお客様が来店されると、
 掛け持ちになります。
 お客様にいただきたい時間は、
 14時までとなります。
 もちろん、お昼のお食事は、
 お店からサービスさせていただきます。
 それでよろしいでしょうか?」

女性は少しビックりした顔をしたが

「いいわ任せるわ」

ぶっきらぼうに、そう言った。

普通は<幾らになるのか>
値段の話や、
時間がないから<なるはや>でとか
いろいろ気になるはずだが、
女性は<どうでもいいわ>というように、
ただ任せると言った。

サキは小さくうなづくと、

「ノブちゃん、お店お願いね、
 私は特別室にはいります」

「はーい、まかされましたーー」

ノブちゃんの元気な声が誰もいない
店の中に響いた。

サキは、女性を特別室へ案内した。
そこは、お店の奥にあり、完全な個室だった。
ガラス張りの窓から、
下の通りが見下ろす事ができた。

サキは女性に説明を始めた。

「この部屋には鏡がありません。
 その代わり、外が見えます。
 どうか外の景色や、
 道を行き交う人を見ながら、
 貴方の人生と重ねてみてください。
 雑誌や本、スマホを見ていただいて、
 もかまいません。
 髪を切っているあいだだけ、
 それができませんけど」

サキは丁寧な説明をした。
普通は鏡の無い部屋に通されたら、
不思議に聞いてくるものだが、
女性は何も言わず
通りを見おろしながら、
少し悲しそうな顔をしていた。

サキは手際よく髪をカットしてから、
一度シャンプーをした。
シャンプー台にも鏡は無かった。
外に面した窓ガラスの反射で
若干の雰囲気はわかるが、
どんな状況かは、まったくわからなかった。

サキは手早く最小のロッドを巻いた。
ロッドにパーマ液をかけ、
赤外線乾燥機を女性の頭の後ろに設置した。

「まだお昼迄前ですが、休憩にしましょう」

サキはそう言って部屋を出て、
すぐにワゴンに乗せたお弁当を運んできた。

「近くのお弁当でごめんなさい。
 でもこれとっても美味しいの」

そういって、
女性が座るセットチェアーの前にワゴンを置いた。
そこにはチャーハン弁当と書かれている
お弁当がのせられていた。
おかずにシューマイが入った、
チャーハン弁当のようだ。
サキはティーポッドにアールグレーを入れた。
そして女性の前にカップを出して、
アールグレーを注いだ。

「40分程で戻ります、
 ゆっくりしていてください」

そう言って特別室を出ていった。
女性は、不思議な面持ちでチャーハン弁当を
じっと見つめていた。
やがて、チャーハン弁当を食べはじめた。
時々通りを見ては、箸を休め
アールグレーを飲んだ。

きっちり40分でサキは戻ってきた。
ロッドを外し、
もう一度シャンプーをしてから
カットを始めた。

カットしながら、サキは女性に話しかけた。

「よろしければ、メイクとスタイリングを
 今日一日だけ私に任せてくれませんか?」


女性は何を言われているのか
わからないようだった。
けれど、

「いいわ、任せる」
<もう、どうでもいいもの>


そんな心の声が聞こえるようだった。

「ありがとうございます。
 ではまずメイクを落としますね」


サキは手際よく、女性のメイクを落とした。
そして

「この服に着替えていただけますか?」

いつの間にか個室には
レモンイエローのパンツスーツが運び込まれていた。

女性はあきれた顔でサキを見た。

「15分で戻ります。
 それまでに着替えておいてください。
 着替えが終わってからメイクに入ります。」


そういうとまた部屋を出ていった。
女性はしぶしぶ今のスーツを脱いで、
サキが用意したパンツスーツに着替えた。
白のパンプスまで用意してあることに
女性は少し驚いていた。
さらに驚いたのは、
女性のサイズにパンツスーツが、
ピッタリであることだった。

「とっても素敵です」

サキが戻ると開口一番
女性を絶賛した。

「メイクしてしまいますね」

そういうと、また手際よく、
メイクを施した。
おそらく、年齢より10歳以上若く見えると
サキは思った。

「終わりです。お疲れさまでした」

そう言って女性の肩をたたいた。

「まだ、鏡は見てはいけないの?」

そういう女性に

「はい、店の外へ出るまでは、
 我慢してください」


女性はあきれたという仕草をとった。

「もうわかったわ、おいくらかしら」

そう言って女性はサキに向き合った。
サキは、ニコっとして

「毎月1日に最初に来店されたお客様の
 料金はいただかない事にしています。」


そういった。

「だって、お昼だって、このスーツだって」

サキは女性の言葉を遮った。

「そのスーツは近所のファッションショップの
 オリジナル、試作品です。
 つるし用のスーツですので、
 お客様がお召しになっていた、ブランド物の
 スーツから比べれば、お安いスーツです。
 今回は試作品なので、無料です。
 お気になさらないでください。」


そういうと、女性が着てきたスーツを入れた
紙袋を差し出した。
女性はしぶしぶそれを受け取り
特別室から出てきた。

サキは店を出るまで女性をエスコートした。
一般客は誰もいなかった。
そして、通常セットチェアーの前にある鏡も
取り除かれていた。

徹底して見せないという事に
女性は少し苦笑いをしていた。

女性は結局自分の姿を見る事なく
店を出ていった。

「ありがとうございます。
 行ってらっしゃいませ」

店先でサキとノブちゃんの声が響いていた。

魔法の美容室

一か月後

「サキさん、みましたかこれ」

そう言ってノブちゃんが興奮気味にサキに
女性雑誌を差し出した。
誰もが知っている女性雑誌
その中の特集記事だった。
<編集長にきく>
そんなタイトルがつけられていた。

「あの女性、編集長だったんですね
 55歳って、なんか来店したときは
 もっと年にみえましたよね」


噂好きのノブちゃんが饒舌に語っている。

「でもサキさん、あの日のスーツと髪型のまま
 写真に写っていますよね。
 こお雑誌には珍しく、刊頭カラーです。
 なんか花が咲いたような表情で、きれいですね
 来店された時とはずいぶんちがいますよね」

ノブちゃんがさらに続けようとしたその時

「おーサキ、うちのスーツ使うなら
 店の名前くらい書いてもらえよなー-」


そう言って、地元のファッションショップ兼
デザイナーのタカさんが入ってきた。
タカさんは有名デザイナーの弟子だと
言っているが、ちょっと怪しい。
けれど、腕は確かで、サキはタカさんが作る
洋服を気に入っている。

「まぁいいじゃないですか、
 この雑誌と同じデザインのパンツスーツを
 マネキンに着せてディスプレイでもすれば
 宣伝になりますよ。
 でも、うちの美容室の話は内緒ですからね」


タカさんは

「そりゃいいな・・よし、
 カラバリ作って量産だ」


そう言ってそそくさと出て行った。
せわしなく、単純なのが
タカさんの長所でもあり短所でもある。
サキは少し苦笑いしていた。

「うちの店も有名になっちゃいますかね」

ノブちゃんが覗き込むようにサキに言った。

「だから、内緒だっていったでしょ
 もしも、あの女性が宣伝でもしたら、
 行列ができちゃうわよ、ノブちゃん休み無よ」

「でも、ここに編集長の話がかいてありますよ
 魔法の美容室で魔法をかけられたとか
 書いてありますよ


そこには、
あの日の女性のインタビューが書いてあった。

<ご主人を半年前に交通事故で亡くし
 すべてが色あせてしまった事。
 若い時にご主人と遊んだ、
 ディスコやマハラジャでの思い出を胸に、
 自分も自殺しようと思っていた事。
 最後にご主人との思い出が詰まった、
 ソバージュとバブリーなスーツで
 ご主人のもとへ行くはずだった事。
 ふと入った美容室で、
 不思議な体験をしたこと、
 ソバージュのオーダーをしたのに
 鏡を見た瞬間、
 まるで魔法にでもかかったかのように
 生きる力が湧いてきたこと等>


淡々とインタビュー記事はつづられていた。
けれど、美容師室の名前は書いてなかった。

その時、美容室の電話が鳴った。
ノブちゃんが、サキに電話を回した。

<もしもし>
 <あ・・パパ、携帯じゃなくなんで店・・>
<女性雑誌見たぞ・・あれお前だろ>
 <なんでわかるのよ>
<わかるさ・・あのスタイリングと髪形に
 メッシュ入れただろ、その模様から
 幸せのオーラを読み取ったのさ>
 <もうパパにはかなわないなー->
<まあ、頑張っていればいいさ
 ママも喜んでいたけど、今度帰ったら
 髪切ってほしいそうだ>
 <了解、ママによろしく言って>

電話の向こうでサキの父親が笑っていた。
ノブちゃんが聞き耳を立てていた。

サキが電話を切ると
店にはあの女性が立っていた。

「こんにちは、間宮サキさん、一か月前は
 お世話になりました」


あの時のパンツスーツを着て
女性は立っていた。

「もうご存じかもしれないけど
 矢崎ひろえです。
 そう、その雑誌の編集長をしているわ」


そう言ってノブちゃんが持っている雑誌を
目で示した。

サキとノブちゃんは茫然と顔を見わせた。

「立ち話もなんですから、どうぞ」

そう言って、
サキはウエイティングスペースの
椅子をすすめ、自分も座った。
ノブちゃんは茫然と立ったままだった。

「まずお礼を言わなきゃね、
 私を生かしてくれてありがとう。
 あの日、私は死ぬつもりでいたのよ
 雑誌にも書かれちゃったけど
 でもあなたのおかげで、こうして生きてる
 あなたはもしかして・・」


そう言って女性はサキを見た。

サキは戸惑いながら

「私、あなたが死のうと思っていたこと
 見えたんですよね。
 だから放っておけなくて・・・
 人の生き死には、その人のものです。
 それが自害だとしても、
 でも、死ぬにしても、生きるにしても、
 最後にちゃんとした格好で
 送り出したかったから、
 余計なおせっかいをしてしまいました」

女性はゆっくりうなづいて

「そう、このスーツも、
 あなたがセットしてくれた
 今風のネオソバージュも、半分は黒髪の
 ストレートを活かしたメッシュも
 全部私の死に装束だったのね」


そういうと女性は微笑みながら
サキを見て、さらに話をつづけた。

あの後ね
 主人のお墓に行ったの。
 死ぬつもりでね。
 そして、そこで初めて手鏡で私の姿を
 確認したの。
 ちょっと驚いた。
 そこに居たのはまるで別人だった。
 そしたらね、小さな鏡に主人が移ったの
 そしてね
<君はまだこっちに来てはいけない>
 そう耳元で言われた気がしたの。
 私ね、お墓の前でわんわん泣いちゃったのよ
 でも、あなたにしてもらったメイクは
 ぜんぜん落ちなくて、それで
 すっぽかそうと思っていた編集長企画の
 取材に応じたの。
 今しかないと思ってね。
 だから、あの時、私が今までの服を脱いだ時
 私は死んだの。
 そして新しく生まれ変わったの。
 主人も喜んでいると思うわ。
 サキさん、本当にありがとう。
 全然おせっかいじゃなく、
 私はものすごく感謝しているし、
 久しぶりに心が震えた感覚を持ったの。
 シューマイの入ったチャーハン弁当も
 主人とよく食べたのよね。
 私は何でこれ・・って思った程、
 あなたは不思議な人ね・・私にこんなにも
 力をくれて、新しい色を付けてくれた。
 本当にありがとう」

そう言って、女性は少し涙ぐんでいた。
話を聞いていたノブちゃんが
わんわんと泣いていた。

サキは

「お店の名前を出さないでいてくれて
 ありがとうございます。」


そうお礼を言った。

「私も迷ったのよ、
 人生を変えてくれた美容室
 私に生きる魔法をかけてくれた美容室
 評判になるんじゃないかと思ったし、
 取材陣も私の変わりように興味深々だったの」

「そうですよね、正直評判になれば、
 お店の経営は楽になるでしょうけど、
 でも忙しくなってしまうと、
 ひろえさんのようなお客様には
 巡り会えなくなるような気がするんです。
 こころから喜んでくれる。そんなお客様。
 お客様とのめぐり逢いは、きっと必然で、
 それはお金ではないとおもうんです。
 かっこつけすぎかもしれませんけど」

「わかったわ、
 なんとなくそんな感じがしたの。
 だから私もあえてお店の名前は
 明かさなかったのよ。
 このスーツもとっても気やすいし、
 靴も履きやすわ。
 そして、髪型もメイクも、
 とても気に入っているの。
 サキさんがあの日、プロデュースさせてほしいと
 言った意味わかったわ。
 私、ここの常連になってもいいかしら」

「もちろんです」

サキはにこやかに笑った。

女性が帰った後
ノブちゃんが

「なんかさわやかな風が吹いた感じでしたよね
 ひろえさん、かっこよかった。
 そして、やっぱりサキさんってすごいです。
 サキさんと一緒に仕事ができてうれしいです。
 サキさんってなにものなんですか?」

そんなノブちゃんに

「精神科医の免許をもった、ただの美容師よ
 今はめっちゃ貧乏だけどね」


そう言って笑った。
ノブちゃんはきょとんとした顔をしたが
やがって一緒に大笑いした。

美容室の中に二人の笑い声が響いていた。

おわり

編集後記

今回も、1日に間に合うように、
ダッシュで書きあげました。
なので、細部のディテールは粗削りです。
ただ、なぜか美容室をテーマに書きたいと
思いました。
美容院か美容室か迷ったのですが、
あえて広辞苑にはない美容室のほうが
しっくりきたので、
こんなタイトルになりました。

FBで知り合った、美容師さんや
スタイリストさんや
スタイリングを学んでいる方たちが
頭をよぎりました。
なんとか色のある小説にしようと思いました。

頭の中では映像になり
登場人物たちが、
テレビドラマのように動くのです。
私の意思とは関係なく、
会話を始めているのです。
仕事をしていても、お風呂に入っていても
その会話は途絶えません。
それを拾う作業に骨がおれました。
さっきのセリフもう一度言ってと言っても
答えてはくれませんから、
それでも、
なんとか5月1日に間に合うように、
書き上げることができてほっとしています。
読んで、いただいた皆様すべてに、
感謝感謝です。
私もサキのように生きる力を与える人間に
近づけたらと思います。
ありがとうございました。

サポートいただいた方へ、いつもありがとうございます。あなたが幸せになるよう最大限の応援をさせていただきます。