見出し画像

香港の覚醒

 10月以降も売上は順調に伸びていき、その勢いのまま例年好調な12月に突入した。例年の事ではあるが、12月になると、9階にも関わらず普段から比較的混雑している店内が更に込み合い、タイミングによっては銀座の百貨店の1階かと思うくらいの状態にすらなった。もちろん、フロア自体が狭いため結果的に密集してしまっていると言うのはあるが、それにしても本当に9階のそして、マットレスや家具の売場かと思うくらいであった。特に、その年は、門間屋の売場が例年やっているポップアップスペースに加えて常設の売場もあったため例年の2倍以上の広さとなっていた。その結果、顧客対応が全く間に合わず、嬉しい悲鳴を通り越して完全に人手不足の状態となってしまっていた。

画像1

 そんな状況下でも、プロ販売員と言っても過言ではない、K君同様ポップアップの頃からお世話になっていたパートのMさんは獲物を見つける獣のような眼力で、売れそうなお客様を見つけては着実に売上を積み増してくれていた。4年経った今でもこのMさんは活躍してくれており、その眼力はいまだ衰えを感じさせない。どんな、接客をしているのか観察はしてみるものの、広東語のため何を言っているのかさっぱり解らず未だ核心に触れる事は出来ていない。しかしながら、何を言っているのか解らない中でも、お客様の懐に入り込んでいる感じや距離の詰め方の秀逸さはその空気感からも十分に伝わってくる。ところが、最後のクロージングが全然意味不明で、普通に話していたと思ったら、突然伝票を書き始めて成約していたりするのである。僕の感覚的に高額商品の最後のクロージングは、ある程度の緊張感の中、可能な限り平静を装いながら、お客様に確認し、そして、お客様も「よし決めた!!」的になってチャンチャンとなる気がしていたのだが、それが全く無いのであった。本当に、普通に日常会話をしている中で、「じゃあお昼でも行こうか」的なライトさで、数百万円の成約をしてしまっているのである。そのあまりの自然さは、もはや神の領域であった(笑)。確かに相手は香港の富裕層なので、日本の富裕層とは持ってる資産の桁が違うのかもしれないが、いくら何でも、こんなにライトで大丈夫的な感じでもあったが、全く大丈夫なのであった。香港の富裕層の金使いと、その富裕層の扱いが上手すぎるMさんに、僕のような日本の小市民はただただ驚くばかりであった。

画像2

 さて、話を2017年12月に戻すと、そのMさんがまたしてもビッグディールをロックオン。フルオーダーで直径2メートルの丸テーブルとチェア10脚のテーブルセットの商談であった。このお客様は、もともとは、家具城と呼ばれるあらゆるジャンルの家具屋が一つの大きな建物の中に納まっている、いわゆる巨大家具モールのようなところで、同様の品を探していたが、当然のことながら見つからなかったため、何となく来た百貨店に家具屋があったので、これまた何となく眺めていたら、Mさんにロックオンされたのであった。フルオーダーのため見積りに多少時間を要する旨を伝え、お客様には後日ご連絡する事になった。
 ビッグディールではあるものの正直なところ、中々やっかいな代物でもあった。と言うのも、日本においても中華料理店では丸テーブルをよく目にすると思うが、あれらはせいぜい直径150センチ前後で、しかも素材も加工しやすい合板製が100%と言っても過言ではないのである。それを、直径2メートルでしかも無垢材でという事なので、大きさもさることながら、重さやそれを支える脚の強度、そして、その後の輸送、組立等、ちょっと考えただけでも様々な問題が噴出してくるからであった。そうは言っても、ありがたいお話ではあったので、図面をひきつつ、提携工房の社長とも相談をしたが、やはり、提携工房の社長にも中々の衝撃を与えてしまった(笑)。しかしながら、なんとかかんとか方法を考えて、とりあえずの見積りを作成したが、これまた、やはり中々な金額となってしまった。これは流石に厳しいかなと思いながらも、念のため値引かれることも踏まえた価格でお客様にはMさんから伝えてもらった。ところが、あっさりと決まってしまった。多少の値引きは要請されたが、想定の範囲内だったので気持ちよくお値引きしてあげたところ、ほぼ即決だったようである。値引きも踏まえた価格設定にしておいて本当に良かったと胸をなでおろした(笑)

画像3

 2017年12月は他のスタッフの頑張りもあり、この丸テーブル以外にも、いくつかのビッグディールが決まり過去最高の売上を記録した。日本では、1年に1回も無いようなビッグディールが3つも決まった2017年12月は、門間屋として香港マーケットの凄さと覚醒を感じたタイミングであった。
後日談にはなるが、例の丸テーブルを納品に行ったところなぜかテーブルの裏に僕のサインを求められたのであった(笑)

画像4


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?