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【短編小説】街を廻せば②

目が覚めると家にいた。


いつもの俺の部屋だ。


鏡で背中を確認すると傷は1つもなかった。


玄関ドアを開けて廊下を見てみると
血痕もなかった。


本当にあの日をやり直せるらしい。

ただし、あの日に会った全員を幸せにしないとまた刺されて殺される…。


俺は急いで町に出た。


まず、呪文を唱える若い女を探した。

昨日と同じ場所で同じように呪文を大声で唱えている。


「あんた、なんで呪文を唱えてるんだ?
やめとけ、人を呪うとろくなことがないぞ。」


「オジサン失礼だな。
呪文じゃない。飼ってる猫の名前だよ。
ヘモグロビン=インシュリン=ナトリウム=ケツアツ178世って言うの。」


「紛らわしい名前をつけるな!」


「医療本を読みながら名付けたんだよ!

そのヘモグロビン=インシュリン=ナトリウム=ケツアツ178世を今日親戚の家に預けようとしたら逃げ出しちゃって…

探してるんだけど全然見つからないの。
良かったらオジサンも手伝ってよ!」


なるほど。
猫を見つければ、この女は幸せになれるわけだな。


「よし、オジサンに任せろ。
見つけだしてやる!」


俺はヘモグロビン=インシュリン=ナトリウム=ケツアツ178世を探しに行った。






すると、途中で
ボロボロの杖で手招きをする老婆がいた。


俺は恐る恐る声をかけた。


「婆さんが魔女だってことは知ってる。
俺を生け贄に使いたいんだろうけど、
やめときな。
俺みたいな男を生け贄にしたところで
たいした魔術は使えないと思うぜ。」


「生け贄?なんのことや?
私は杖が折れて動けなくなったんだよ。
誰か助けてくれる人を探してるのや。」


そうだったのか。
ならこの婆さんを助ければいいんだな。


「婆さん、家までおんぶしてやるよ。」


「おんぶは嫌や。
若い頃、主人におんぶしてもらった時
なぜかパイルドライバーをかけられたことがあるんでな。
それ以来トラウマなんや。
だから杖の代わりになる物を探してくれんか?」


また、探し物か。
仕方ない、猫と杖を探して来よう。


パイルドライバーというプロレス技をかけた爺さんは何者なのかは置いておき
時間が無いので急いで探しに行った。








すると、今度は吸血鬼男に出くわした。


俺は怖がりながらも声をかけた。

「あのー、俺の血は不味いですよ…
でも、もし欲しいと言うなら。
少しだけ、本当に少し、ものすごーく少しだけあなたにあげます。」


「え?血?
血なんか欲しくないですよ!
僕が今欲しいのは、結婚指輪です!
今日マジックしながらサプライズで
プロポーズをしようとしてたのに無くしてしまったんです!」


だから、そんなヘンテコリンな格好で
青ざめた顔していたのか。


「指輪は俺が探すよ!」


男は感謝をして
なぜか俺の頭から小さな花を手品で出してきた。

少しイラッとした。








猫、杖、指輪。

探し物が多いな。
今日中に見つけないと殺されちまう。
急がないと。






しばらく探すと
四つん這いの鬼のような中年女に会った。


正直、この人が1番怖い。


「あの…えっと…ヨガかな?
道端で鬼の形相でヨガをしている最中に申し訳ございません。何をしているんですか?」


「あ?あんた失礼ね!
私は財布を無くしたのよ!
だからこうやって地面に近づいて探してるの!」

今度は財布か…


「わかった、俺も財布を見つけるよ。」


「絶対見つけても中身盗むなよ!
あんたそういうことやりそうだからね!」



俺はムカついて
パイルドライバーをかけようとしたが
やり方がわからないので止めた。

もしパイルドライバーのやり方が
わかればやっていたかもしれない。



俺は怒りを抑えて
猫、杖、指輪、財布を探しに行った。








すると、路地裏に
地縛霊の青年が誰かと入っていくのを見た。


俺は青年を成仏させるために
念仏を唱えながら路地裏に入った。


すると、青年は
柄の悪い男にカツアゲをされていた。


「君たち止めないか!
彼はこの地で亡くなった悲しき霊なのだ。
安らかに成仏させてあげなさい!」


「何言ってんだ。このオッサン。
こいつは足があるんだから生きてるぞ。」


確かに、その通りだ。
足がある。

なら彼は生きてるのか。

俺は地縛霊ではないことにホッとした。

「しかし、どんなに金に困っていても
カツアゲは許されん!」


俺はカッコよく叫んだ。

そして、
ヒーローのように立ち向かわず
急いで警察を呼ぶことにした。


青年、すまん!少しだけ待っててくれ。

自慢じゃないがオジサンは
すごく怖がりでとても弱いのだ。


柄の悪い男は細くて
とても弱そうだったけど。


オジサンはもっともっと弱いのだ!









交番まで走っている途中で
レオタードを着た河童に出会った。


バス停近くで中学生男子を食べようと掴みかかっていた。


「や、やめろ!なぜ河童がここにいるのか
理由は聞かないが人を食べるのは良くないぞ。
きっと!人間は美味しくない!…と思う。
…たぶん。」


「河童とはなんじゃ!ワシは人間じゃ!
この若造がワシにガンを飛ばしてきたんじゃ。」


「いやいや、僕はただバスを待ってただけです。」


「あーん?生意気じゃな?
聞いて驚くなよ?
さくらたんぽぽ苑のツルツル番長とは
ワシのことじゃ!」


「し、知りませんよ。さくらたんぽぽ苑って、そこの老人ホームの名前ですよね?
とにかく、暴力反対です。」


この爺さん、やたら血気盛んだな。
元気な証拠だ。
中学生は絡まれただけか。
可哀想に。


この爺さんの暴走を止めるのもやらないといけないのか。


もう夕方だ。
時間がない。


今日中に全員を幸せにするなんてできるのか。


もし間に合わなければ
今後こそ本当に死ぬ…















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