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映画「窓ぎわのトットちゃん」を見て

今年は見たい映画をたくさん見ることができた。

なかでも「窓ぎわのトットちゃん」は人生でも忘れられない作品になるだろうと思う。

理由はいくつかあるのだけど、まずひとつめは、いつの間にかトットちゃんが見ている楽しい”子供の世界”に連れていかれたこと。

私はアニメーション技術に詳しくないので、アニメは、目の前で平面的な映像が流れてそれを自分が見るという受け身なものだと思っていたのだが、そういう概念が崩れた。
映画が始まってしばらくすると、自分がトットちゃんの目線になって、映画の世界に入り込んでしまっていることに気づいた。
これは技術力と、数年かけて作り上げたという制作された方々の思いがあってこそなのだと感じた。

走る車の間をすり抜けて、向こう側に行こうとする気持ち、
リズムに乗って歩いたり走ったりしたくなる衝動、
見たもの感じたもの、匂い、手触り、すべてを伝えたくなる気持ち、
昨日と今日で世界が全く別のものになっているような高揚感、
そういう子供の頃に自分が持っていたものが、一気に蘇ってくるような、
ワクワクとドキドキでいっぱいになった。

そして自分の幼少期を思い出した。
小さいころ、おじいちゃんがどんな話も嬉しそうに聞いてくれて、
知らないことには何でも答えてくれた。
耳が遠いところがあったけど、おじいちゃんは自分にとっていなくてはならない存在だった。
というかそんなことを小さいときは考えたことはなく、当たり前にずっと一緒に居られると思っていた。

ところが、私が小学生になるころには、おじいちゃんは入院する時間が長くなり、家にはなかなか帰って来なくなった。
色んな話をしたいのになかなか会えなくて寂しかった。
おじいちゃんの前ではスラスラお喋りができるのに、他の大人の前では私はビクビクしてあまり話せなかった。

ある冬の寒い日、夕方にお父さんとお母さんが揃って病院に行くというので、私も絶対に行きたいと言った。
車は6人乗りだったし、姉と兄は家にいると言ってたし、私は聞き分けの良い子供だったから、私ひとりだったら絶対一緒にいけると思っていたのに何故か絶対にダメだと言われた。
その数日後におじいちゃんは亡くなった。
あの日、病院に行きたかったのに、会いたかったのに。こんなことになるならあの時絶対に行くべきだったのに。と思った。
いま思い出しても涙が出てくるくらい、おじいちゃんが死んでもう会えなくなることが悲しかった。
だけど、両親は会わない方がいいと思ったのだろう。おじいちゃんの最期の姿を知らないが、話せなかったのかもしれないし、苦しかったのかもしれない。
思えば、人の死というのは私にとって初めての経験だったのに、死ぬということがどういうことか、私はすごくよく分かっていたように思う。
おじいちゃんが火葬された姿をみて、悲しくて悲しくて悔しかった。

大人は子供のためを思って話さないこと、伝えないことが多い。
そのくせに、色んなルールを作って押し付けてもくる。
子供の世界は、危うさでいっぱいに見えるが、だからこそなのか、
本当にキラキラと輝いているのだと思う。

トットちゃんにとってのトモエ学園の小林校長先生は、
私にとってのおじいちゃんだった。

また小林校長先生の声を、大好きな役所広司さんがやっていたのも感動した。
優しく明るい人々、四季折々の植物、季節の移ろい、温かく可憐な住まい、芸術と知性、品位を守ろうとする強さ、生き物への愛など、言葉で言い表せないほどの愛で溢れ、それを造り上げ、見た人を吸い込むような映画だった。


この映画を忘れられないと思う理由のふたつめは、
戦争の描写が心底恐ろしく、寂しく、冷たく、悔しく、憎らしかったこと。

近年の映画のなかには、戦時下の人々の信念を称えるような風潮もある。
それほど現代の人は信じるもの、心酔するものを求めてしまっているのだろうか。

だけど、戦争とは、ある日突然、人々の日常が奪われることで、大儀のために我慢を強いられ、そして命さえも差し出し、自分や大切な人が殺される不安を常に抱え、その大義のために人を殺すことを正当化する、そんな恐ろしいものではないかと思う。

トットちゃんが顔の見えない大人に、そういう恐ろしさを植え付けられそうになるシーンは、本当に恐ろしかった。
個を潰し、集団のなかに引っ張り込み、暗い世界に没入させる。
トットちゃんたちの、愛らしく、幸せな、大切な日常が踏みにじられ、壊され、燃やされていく。
こんなことあっていいはずないのに。だけど今でも戦争は世界中で起きている。

私は戦争を体験したことはない。
戦争の本当の痛みは知らない。
戦争を経験した人の多くは、きっと忘れてしまいたいだろう。
語りたくないだろう。
私たちは、語られないほどの苦しみであることを想像し、戦争については徹底的に反対し、子供たちの未来を守るために行動しないといけないと思う。
だからこそ、戦争を知らない我々にも、戦争は絶対に避けるべき忌々しいものだと伝える作品であることが、映画の本気を感じるし、本当に有難い作品であると思う。



最後に感想を。
引き込まれるような描写と彩に心奪われるアニメーション、トットちゃんの世界を大事に包み込もうという気持ちが伝わる声優の方々の声、物語の構成、あいみょんの心に響く歌、その他たくさんの制作に関わられた方々の愛のこもったお仕事に本当に感動しました。

エンドロールは嗚咽が出るかと思うくらいに泣きました。
1回目でこれだけの衝撃と感動を与えてもらったので、何度見ても色んな発見があるだろうと思います。
この愛に溢れた作品を、また映画館で観たいと思います。

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