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目指す天下と地元愛 #書もつ

普段、流行り物には距離を置くことにしている。流行っているから、などと言う理由で選ぶのは自らの信念も感じられないし、何より思考停止というか、どうでもいい感があるのでは、と思ってしまうのだ。

みんなや誰かと同じものを持つのが安心って時もあるけれど、ちゃんと自分に合うものを、自分で判断したいと思うのだ。

そんな中でも、読書に関しては、流行っていることに乗っかるのはアリだと思っている。都合のいいやつである。

それは、話題として同じものがある強みであったり、人気があったり、評価されているということは、読んだらきっと楽しいだろうと思うからだ。

本屋大賞受賞作品。

成瀬は天下を取りにいく
宮島未奈

女子のまぶしい青春小説・・かと思いきや、特徴的な成瀬以外は、どの人物も身近でどこにでもいそうだ。

成瀬のキャラクターばかりが際立っているけれど、それを友人として、恋人候補として、避けるべき相手として、地域の仲間として見ている語り手たちの存在が、この物語の支えになっていた。

とにかく、成瀬はブレない。

器用なのか、才能があるのか、成瀬は何でもできる。何でもできるから、どこへでも行きそうだけれど、そこはブレない。とにかく、地元を愛している。


物語の始まりは、地元・滋賀県大津で閉店してしまう西武への想いからだった。夏を捧げる成瀬の姿は、清々しさと執念深さの両極端な印象だった。しかし、それだけではなかった。

本編では、成瀬の独特な行動によって影響を受ける語り手が多く登場する。しかし、成瀬との出会いによって、自らの存在意義のようなものも気づく場面があることは、読み手にとっても発見だった。

成瀬は奔放とか、破天荒というよりは、純粋なのだと思う。毎日同じ時間に起き(秒の位まで書き込んである)、同じことをする。習慣の人、と妻から言われている僕も、こんなに同じことを続けていられないだろう。

親が独特なのかと言えば、それはまた違うようで、どうしたらこんな子が育つのかと、親目線で見つめてしまう。例えば我が子たちは、成瀬のようにとは言わないまでも、こだわりや強い信念を持って育ってくれるだろうか。

我々の世代にも、よく分かる言葉や人名が出てくる。よもや、“さだまさし”の名を聞くとは思わなかった。そして、何より大津をよく知らない読み手からすれば、成瀬がいたからこそ、彼女の暮らしている土地に興味が湧くというものだ。

出身地を卑下することなく、それでいて東京の記述もスマートにさらりと書いてある。それは成瀬自身の視点が、きちんと整理されているからだろう。さらさらと読んでしまうけれど、語り手がそれぞれの立場で語る成瀬は、とても魅力的に思えた。

きっと今後、映像化とかマンガ化とかされそうだけれど、まずは原作。まずは小説でこそ、成瀬を理解できると思う。この作品を読んだ人と、ちょっと語り合いたいような、そんな作品だった。



本屋大賞の発表で、この作品を知った。実はそれは遅きに逸したようだ。本屋大賞は受賞歴の一つらしい。そもそも、本屋大賞ノミネート作品すら知らなかった。

しかし、聴く読書に本作があると知って、勇んでダウンロードしたのだ。異性の朗読って、なんか普段読んでいるのとは違う、ラジオとか映画っぽさがあるので、好きなのだ。果たしてこの作品も、とても楽しい時間だった。


潔い背中、シンプルなモノトーンのイラストに、赤い字が映えるサムネイル、infocusさんありがとうございます!2巻もあるらしく、成瀬の行く末を親のように見守りたい気持ちです。

#推薦図書 #本屋大賞 #大津 #地元

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