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ともだちはどこにいる? #書もつ

ひとつの事実、そこにはいろんな考えを持った、様々な立場の人が関わっていて。小説だけでなく、現実の世界でもよく感じていることです。

誰かが欠けていたら、この結果ではなかったかも知れない、そんなふうに考えたら、いま目の前のことにも自分がどうやって関わっていけるのか、そんなことを考えるようになりました。

もし、ともだちが不本意な理由で引っ越してしまうと知ったら、僕にできることは何だろう。

毎週木曜日は、読んだ本の記録を書いています。


デトロイト美術館の奇跡
原田マハ

美術館の価値は、人によって違います。

立地の良さ、建物の良さ、雰囲気の良さ、所蔵品の数、作品群のセンス、展覧会の頻度や規模、人的資源・・さまざまなものを思い浮かべることができます。

たった1枚の、運命的な絵との出会いがその美術館で実現できたとしたら、それは誰にも奪えない価値になってほしいと思うのです。

永遠に続くと思われていたことが、ふとした瞬間に失われてしまうと、心の準備ができないままに時間を過ごしてしまう・・そんな主人公に導かれて、一枚の絵が、そしてひとつの美術館が奇跡を起こす、そんな物語でした。

美術館に行くこと、それは僕にとってどんなことなのだろうと考えていました。色の発見だったり、外国の景色だったり、斬新な視点の獲得のため、それもそうだけれど、やはり絵を見ていると心が落ち着くのかも知れないと、それを求めているような気がするのです。

動かない、音が出ないことで、画家と僕の独り言での対話を重ねられます。正解もないし、見終わったらすぐに忘れ去ってしまうような淡い対話ですが、いつしか絵に励まされているのです。

実際にあったエピソードをもとに書かれた本作、この作家らしい華やかな描写もありつつ、淡々と登場人物たちの表情を切り取り、読み手は走るように読み進めることが出来ました。

作中、チーフキュレーターが心を動かされる場面があります。一人の市民(主人公)が「ともだちがたくさんいるから」と、告げた場面。

芸術が人間にとっていかに優しい存在であるのか、この作家が繰り返し訴える意味が掴めたような気がしました。美術館は、敷居の高い場所ではないんです。多少マナーは必要ですが、静かに対話ができるんです。

デトロイトが誇る、それだけでなくアメリカが誇るコレクションの数々、観てみたいなぁと思いました。この作家の物語を通じて、芸術が人の心を動かすこと、それは何度も読んできました。でも、小説だからできるんでしょ、と思ってみたりもしていました。

しかし、この作品に紹介されている”事実”は、これからの芸術と社会との関わり方を示してくれたようでした。

なによりも、主人公とその奥さんが美術館を愛していること、それがとても羨ましく思えたのです。

僕にも、そんな美術館ができたら、そんなともだちと出会えたら、と思うのでした。


テキストのないサムネイル、美術館でしっとりとした時間を過ごしているかのようです。あの独特の動かない空気感、また行きたい。infocusさん、ありがとうございます!


#推薦図書 #ともだち #アート #奇跡 #行政 #芸術

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