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画用紙の真ん中に

子が新しい習い事を始めたのは、昨年の今頃でした。それは、地域で開かれている子ども向けのお絵描き教室でした。

子ども向けだから、それでいいんだけれど、お絵描きというのが何となく子どもっぽいので、絵画教室と呼ぶことにします。

そこは、肩肘張った雰囲気もなく、絵を描くのが好きな子どもたちが集まり、それぞれのペースで描いている・・そんな教室でした。

教室というからには、先生がいます。明るいおばあちゃん先生です。この先生、とにかく褒めるのです。基本的に、まず褒めてくれる。どんな絵でも、必ず褒めてくれるのです。

初めて子に同行して教室を訪れたとき、先生のそんな姿に感動すらしてしまいました。親として真似したいと思ったものの、帰宅後すぐに「絵の道具、片付けて!」と叱ってしまうのでした・・。

あるとき、一緒に行って、子の隣で本を読み耽っていたら「お父さんも、描いてみたら?」と言ってくださいました。それは、あまりにも急だったので、僕はあわてて固辞してしまいました。しかし、その姿がどうやら先生には、かわいく映ったらしいのです。

結果、「かわいいお父さんねー!」と褒めていただきました。絵だけじゃなく、人も褒めるんですね・・。

何度か教室に通っていると、先生の性格というか行動パターンのようなものが見えてきました。

褒めるのは誰に対しても変わらないのですが、その作品について先生なりに進んで欲しい方向性があるようで、褒めつつ、アドバイスを投げかけてくれるのです。

「ここはもっと濃くする?」とか「このへん、もっと塗ろうか」「やっぱりペンで描いたら、もっといいんじゃない」という感じで。

先生なりに、もっと絵を良くしようとしてくれているのだし、そのアイデアには納得感もあります。

何より、子どもたちは画力も異なるし、描いているものもぜんぜん違います。それを瞬時に見て、改善点を提案できるのは、やはり感性が優れているからなのでしょう。

もっとも、先生に対する子どもにも、それぞれコミュニケーション能力に差があるわけで、そこへグイグイと分け行ってきて、流石のセンスを(いい意味で)見せつけてくる感じがして、楽しい先生だなと思いました。

いかんせん、子はそういうグイグイ系には弱いのです。きっと、イヤなのではなく、恥ずかしいのだとは思うけれど、自分のやりたいことがイマイチ掴みきれていない状態で「こうしたら?」「ああしよう」と言われてしまうと、子としては「いや、いいですぅぅ」となってしまうように見えるのです。


この絵画教室、課題やテーマは概ねないのですが、大小さまざまなコンクールを通年で告知&応募代行してくれるのです。子の場合は、それに応募する作品を描くことで、毎週の制作を継続している節もあるくらいなのです。

昨秋、ある地域活動団体の主催で「いま私がハマっていること」というテーマのコンクールがありました。それまでにいくつか絵を描いて、少しずつ慣れてきていた子も、勇んで応募することにしました。

そして、子が迷いなく描いた絵に、僕たち親は驚かされ、いたく感動することとなったのでした。

その絵を描いたとき、僕は留守番をしていて、妻が子と一緒でした。画用紙に大きく描き出した子の初手を見て、とても感動したと言っていました。


子は、真っ白な紙の真ん中に、”春に生まれた赤ちゃん”を描いたのです。

赤ちゃんと言っても動物の赤ちゃんではありません。僕たち家族の第三子、末っ子の長男を描いたのでした。

“ハマっていること”というテーマなら、スポーツや、本、勉強やテレビ番組など、何か活動的な、対外的なものを思い浮かべるのが普通だと思っていました。

まさか子が「赤ちゃんに夢中」だなんて考えもしませんでした。

何なら、親が赤ちゃんにかかりきりになってしまい、ママをとられた、なんて思われるのが当たり前のことだと思っていました。いつまで経っても、子どもは分からないものです・・。

赤ちゃんの隣には、お気に入りのスカートを穿いた笑顔の自分を描いて、真ん中の子は、横顔でシャボン玉を飛ばしている様子を描いていました。不自然さのない横顔が上手で、驚きました。間違いなく、絵が上手くなっていたのです。

妻はいたく感激し、教室から帰宅するなり、その絵を早く見てほしいと僕に言ったのです(描いたものは秘密にしていました)。

そして、後日、僕もその絵を見ることになり、あれだけ妻が感激したと言っていたのに、よくある“ハマっていること”を想定していたこともあって、とても驚いてしまいました。

何の絵が描かれているか分かる絵、というだけでもすごいのに、テーマから発想した感性も、親バカながら素敵だと思ったのです。

みんなが笑顔で、かわいい雰囲気の絵が描けるようになったこと、それぞれの服装がお気に入りのものであることもすぐにわかりました。

ただ、未完成だったその絵は、なぜか高原のような場所で、赤ちゃんはバウンサーに座っているようでした。

子に聞くと、背景を描いたら・・と妻からアドバイスがあったようで、以前、別の塗り絵に描いて褒められた”背景としての山”を描いたらしいことが分かりました。

山(でいいの)?と、子にも聞いてみたけれど、通りかかった先生も、いつものようにひととおり絵を褒めてから、「でも、背景は山?」となったのでした。

少し考えたふうの先生は、「山の輪郭を消して、すでにある緑を活かして、いろんな色で塗ってはどう?」と言ったのち、どこから取り出したのか消しゴムを画用紙に当て、ゴシゴシと線を消していたのです。

子も僕もちょっと驚きましたが、僕も”山”が唐突だな・・と思っていたので、すでに描いてあった背景の色を褒めつつ、先生の提案に従うことを子にも提案しました。

背景は、絵の具を使って薄めのパステルカラー調に塗ることにしました。絵画教室のおかげか、毎週のように絵の具に接していることもあって、扱いに慣れている様子にもまた、僕はとても感心してしまったのでした。

黄緑、黄色、水色などで背景の全体を塗り上げ、山があった背景は、絵本の1ページのように明るい色合いになりました。

赤ちゃんが乗っているバウンサーも、何となく不自然さは薄れた気がしました。もともと色鉛筆で背景を塗っていたこともあって、絵の具と重なり、期せずして深みのある色合いになり、さまざまなグラデーションがかかっているようにも見えてきました。


コンクールなので、応募作の中から選ばれるわけで、子の作品が選ばれるかどうかは全く分かりません。ただ、子が選んだ「ハマっていること」に、親としては感動し、また子に対して感謝するような気持ちになったのでした。

この絵を観てくれる人にも、何か届くといいなぁなんて思ったりもして、心の中は意外と忙しくしていました。

絵を描いたのち、子は赤ちゃんへの関わりをより増やしました。絵に書いたことで、思いが強化されたのでしょう。真ん中の子も影響されて、赤ちゃんはモテモテ。兄弟姉妹は、これから長い付き合いになるので、こうやって仲良くいてほしいと思わずにはいられませんでした。

応募作品として提出してしまうため、事前にカラーコピーをとり、記念として子の勉強スペースの壁に貼りました。

コンクールへの応募が完了し、展示されているという情報を得たものの、タイミングが悪く会場に足を運べないままに展示が終了してしまいました。

きっと、市内の多くの子どもが参加しているだろうから、いろんな絵が集まっていたはず。その中でも、赤ちゃんの顔を描いた絵は、きっと一枚だけだったのではないでしょうか。


コンクールの結果は、少し経った時期の絵画教室で告げられました。

子の作品、なんと「努力賞」を受賞していたのです!

正直、規模感の分からないコンテストではあったものの、賞は確率ではありません。間違いなく、どなたかに選んでいただいたはず。子は、先生やその場にいた大人に拍手してもらい、嬉しそうな表情を見せてくれました。自分が描いた絵が、誰かに認められるというのは、きっと嬉しいはずです。

本人の了解を得たので、その作品を紹介します。

下書きが残っていて、鉛筆の線や跡がところどころに見えて、かなり雑然としてしまっているけれど、大きく書かれた赤ちゃんの存在感と隣に立つ姉妹が、よく描けていると思いませんか。

何度も言うけれど、コンテストのテーマは「わたしが、いまハマっていること」でした。つくづつ、この絵は、ほんとうに“今しか描けない”作品になりました。

もともと色鉛筆だけで色をつけていたので、絵の具を楽しく使う発想もまた背景を明るくする助けになりました。先生のアドバイス、流石すぎます。

僕が好きなのは、背景の色遣いと姉妹2人の横顔です。横を向いた顔が、うまく描けていると思うのです。シャボン玉をしている子どもの横顔など、僕には描けません(笑)

そんなことを考えていたら、子が字を書き始めた時のことを思い出しました。大きくて拙い字でいくつかの文字を書いては見せてくれたのですが、とりわけ多かったのは「だいすき」でした。

それは本人の思いを文字にしたメッセージで、当時は同じことを書いた紙を何枚ももらいました。やがて、書ける文字が増えてきて、あいさつや好きなもの、キャラクターの名前、アニメのセリフ、色々と書いていました。書くことで字が上手くなり、文字を小さく書けるようになり、長い言葉も書けるようになっていきました。

絵を描くことも、それに似ているように思うのです。技術として様々なことを吸収しつつ、実践しながら自分の描きたいものが描けるようになって、それが誰かに届く、今回はそれを強く感じることができました。

描きたいものが描ける、そのために練習したり知識や技術を習得することを楽しんで欲しいなと思っています。

絵が上手い、という基準は人それぞれだけれど、何が描かれているのかが分かる絵が描けることは、実はかなり難しいことだと思うのです。

これからも、画用紙の真ん中に、美しいと思ったもの、楽しい気分になるもの、好きなもの、嬉しい気持ちなどを、もっともっと描いて欲しいなと思っています。



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