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かんがえたことたち・ときどきアート

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僕の「かんがえたこと」「アートについて考察や創作作品」を書いた投稿を集めました。ちょっと立ち止まって、考えてみたり、書いてみたり。
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記事一覧

どちらかではなく、どちらでもある

なかなか美術館にも行けなくなっているところで、こんな記事を見つけてとても嬉しくなったので、書いてくださったクリエイターさんに感謝を込めて。 何かと物議を醸す芸術家、バンクシー。その展覧会が開かれているとのことで、そのイベントレポートの記事でした。バンクシーの作品は、多くは屋外に、いわゆる”落書き”のような存在として現れます。 少し前に、彼の作品がオークションにかけられて、落札した瞬間、額縁に仕込まれていたシュレッダーによって作品が切り刻まれるというニュースを見ました。別の

アートで盛り上がるのは、地域より旅人だと思う

毎週月曜日には、旅の記録を書いています。 写真を探していたら、初めて行ってから11年も経っていました。転職して、初めての夏休みに行った瀬戸内のトリエンナーレは、僕のひとり旅の中でも、ひときわ多くの人と交流した記憶があります。 瀬戸内のトリエンナーレは、当時とても話題になって、自然とアート、海と島、そんな組み合わせが特徴的でした。いま考えてみると、トリエンナーレとしてのイベントは、様々な場所で行われ、アートを点在させて回遊するような時間の過ごし方は、もはや普通とも言えるくら

情熱の北斎

やっと出会えた。 浮世絵を見に行きました。身近なところに浮世絵専門の美術館があって、日本随一の蒐集家によるコレクションを展示している場所があるのです。 さて、浮世絵といえば、誰の名前が浮かぶでしょうか。 写真の作品は、かの葛飾北斎の作としてあまりにも有名です。 富嶽三十六景は、彼の作品の中でも群を抜いて多くの人が知っている名前かも知れません。その中の作品である上の2枚(複製画で撮影可でした)は、さまざまな場面で使われ、作者名は知らなくても、作品名も分からなくても、絵は

辞世の句は、彼の希望だったのか

北斎展に行って年間パスを買って以来、北斎のことが何かと気になっていて、何度もギャラリーに通っています。美術館なのに「いつもありがとうございます・・」と迎えてくださるようになりました(笑) 年間パスを持つことの意味は、安く観るとか、好きな作品だけを何度も観るというのもあるけれど、何より、フラッと立ち寄って、本物との対話を楽しむというのがあります。 しかも、年間パスだからこそ、知識や興味がなくても時間があれば行ける、これが醍醐味ですよね!(鼻息が荒くなってきた笑) そんな中

プール、プール、プール日和

毎週月曜日には、旅の記録を書いています。 暑い日が続くと、プールが恋しくなります。 僕は、唯一できたスポーツが泳ぐことだったので、なおさらプールが好きでした。 子どもの頃は、自宅近くの市民プールに通い詰めるほど。ときどき、家族で海のそばにある広いプールに行っていた思い出もありました。知る人ぞ知る、大磯ロングビーチです。 そんなふうに、プールは泳ぐ場所であって、泳ぐための施設だと信じて疑わなかった僕は、プールなのに「泳いではいけない」ものがあるのは、衝撃でした。 泳い

北斎とともに

身近な場所に浮世絵の美術館があり、葛飾北斎の作品を観て、年間パスを買いました。大北斎展と銘打った展覧会の後期の会期が、先週末から始まっていました。 かけかえの日数わずか4日。広くはないと分かっていても、デリケートな絵を外して、次の絵をかけて、作品解説なども貼り替える。その作業を考えた時、4日は短く感じました。 前期で、代表作が出ていたので、後期はそれなりだろうと思っていましたが、予想は裏切られました。 さまざまな滝を描いた滝巡り、雪月花シリーズ、橋のシリーズ、そして、富

アートは分からない、仕事なら分かるだろうか

こんな記事と出会ってしまいました。 あなたにとって、仕事とは何でしょうか。私にとって、仕事とは何でしょうか。ぜひ、読んでみてください。 仕事術みたいな本を読んでいると、「誰にでもできる仕事を、自分にしかできない仕事にしろ」と言った格言めいた言葉に出会うことがよくありますが、これって最初読んだ時には、なるほどね、と思うのですが、もうちょっと具体的に教えて欲しいなぁなんて思っていたのです。 この記事を読んで、ぼんやり考えたのは、”自分にしかできない”という部分は、いわゆるア

表情という説得力

浮世絵を観る時間が、僕の1週間に加わりました。身近な場所にある、浮世絵専門ギャラリーの年間パスを手に入れたのは、3ヶ月前のことでした。 浮世絵、僕は北斎から入門したのかも知れない・・そんな風に感じています。壁にかかる、やや古びた色味の画面には、江戸と呼ばれた時代に製作された、絵師によるプロの仕事が見えたのでした。 浮世絵や絵画に限らず、芸術作品は「観たことがある」という一時的な消費は、きっと大概の人が経験しているのです。しかし、数回の訪問を経て思うのは、何を感じたか、そし

そう来たかっ、国芳

このnoteでも定番になりつつある、浮世絵ギャラリーでの体験を綴るシリーズ。 以前書いた歌川国芳(以下、国芳)の投稿がnoteさんに選ばれて、注目記事にピックアップされました。読んでいただき、ありがとうございました。 国芳とその前に開催されていた北斎との違いから、絵を見つめること、自らの気持ちを読み取ること、そんなことを通じて、画家が描きたかった物事を感じ取れた、ような気がした体験を書きました。 力強く、音が出そうな迫力を持った画面に魅了されて、思いの丈をそのまま書いた

赤い風船は、きっと届く

ある日、僕の家の壁に、落書きが描かれていました。 オフホワイトの凸凹した壁面に、突如現れたその絵は、いわゆるグラフィティというジャンルの、カラースプレーで描く、不良チックな絵。 ステンシルで型を抜いたような輪郭と、リアルだけれど少しコミカルなネズミが、鞄のようなものを隣に置き、傘をさして斜め上を眺めているようでした。 その落書きは、すぐに消すべきだろうか。 その本を読んでいるあいだ、僕はずっと問い続けていました。驚かせてしまっていたらすみません、もちろん、たとえば・・

弟に宛てた手紙

天井から吊るされたランプの灯が、せまく埃っぽい室内を照らし出していた。食卓に置かれた皿からは、茹でたジャガイモの湯気が立ち上っている。 泥がついたままの服を着た農民たちは、みな痩せていて手は筋張っている。一日の終わり、疲労と安堵が入り混じる表情からは、農民たちの暮らしぶりが見て取れる。 やっと、やっと、描けたぞ。見てくれ、弟よ。 彼は、いつものように弟に手紙を書いた。それまで、いくつもの習作を繰り返し制作しては、弟から「本格的に描いてはどうか」と提案されていたのだ。

四つの季節

ある画家の絵を見た時、それは壁から飛び出しているようにも、吸い込まれるようにも見えた。 その絵は、画家の生きていた証拠であり、現代に生き続ける遺産になって、観る人を勇気づけてくれる。 その色彩、その筆つき、そして力強さ。その画面は動かない、そして写真でもない、声も音もない。 あるのは、光だ。 ー夏ー 「父のひまわり」 やっぱり、来るんじゃなかった。 少し後悔するほどに長い行列が見えた。 お世辞にも有名とは言えない、地方の小さな美術館なのに。 梅雨の終わり、うだ

ともだちはどこにいる? #書もつ

ひとつの事実、そこにはいろんな考えを持った、様々な立場の人が関わっていて。小説だけでなく、現実の世界でもよく感じていることです。 誰かが欠けていたら、この結果ではなかったかも知れない、そんなふうに考えたら、いま目の前のことにも自分がどうやって関わっていけるのか、そんなことを考えるようになりました。 もし、ともだちが不本意な理由で引っ越してしまうと知ったら、僕にできることは何だろう。 毎週木曜日は、読んだ本の記録を書いています。 デトロイト美術館の奇跡 原田マハ 美術

シン・美術館体験

新しい美術館って、こんなふうになるのか。 先日、渋谷にある美術館に行きました。渋谷は東横線の駅がまだ地上にあった頃の、僕がイメージする姿から、20年で(そんなに経ってる!)かなりの変貌を見せている街です。 渋谷にある美術館といえば、駅から少し歩くけれど、松濤美術館などがよく知られています。 美術館のある場所、それは静かで落ち着いたイメージがあります。街中であっても、館内は広くて、歩きながら作品を観る・・場合によっては、足が疲れてしまうこともあるでしょう。多くの作品があっ