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トリリンガルなのに・・・。

ニュージーランドに来たのは、約6年前。
長女5歳、長男2歳、次男が1歳の頃だった。

長女は現在11歳。
母語として日本語を獲得してから英語に触れたのがよかったんだろう。言語が交わることなくスイッチを切り替えるように日本語と英語を使いこなす。

一方、長男・次男は人生のほとんどを英語圏で過ごしているため、英語が母語だろう。
日本語は聞いて理解はできるが、喋る方は日常会話程度。

こんな風に、子どもたちの母語やそれぞれの言語レベルが異なるため、家庭では英語も日本語を両方使う。

子どもたちを叱る時は英語。
日常会話は日本語。
その他は日本語と英語を混ぜた文で伝えている。

本当ならば、全てを英語で統一すればすむのだが、日本人の私がそれを許さない。やはり母語は楽なのだ。
楽が一番の私は子ども達と話す時も、楽を一番に重視したんだと思う。
その結果「伝わる単語(英語)」を、「私が無意識に話せる日本語」にのせて話す癖がついてしまった。
下記のように。

「はやくトイズ(おもちゃ)クリーンアップ(片付け)してくれよー!
みんなハングリー(お腹すいた)じゃないの?
ママはもうスタービング(餓死寸前)でピューク(ゲロ)しそうなんですけど!!」

この文章を読んで、勘がいい方は気がついたのではないだろうか。
そう、この言語は「トゥギャザー(Together)しようぜ!」のタレント、
ルー大柴さんのルー語に酷似しているのだ。

そして、どうやら私はこの言語を無意識に使いすぎているようだ…。

先週の月曜日のことだった。
子どもたちが通っている空手教室に、新しく日本人の男の子が入ってきた。
娘と日本語で会話していたのを聞いていたんだろう、男の子の母親が「日本人ですか?」と聞いてきた。
それからなんとなく、空手教室で会う度に話すようになった。
今日で会うのは3回目だった。

顔見知りの女が言った。
「前から思ってたんだけど、言葉使い面白いよね。ルー大柴なんだけど。笑」

さっきから笑っていた理由はこれか。
それより、いつ私と彼女はこんなにくだけた関係になったのだろう。

顔見知りの女は続けた。

「ルー語が母国語なんじゃね?母国語人口ランキング最下位とかだろうけど。笑」

ルー語が母国語・・・。

「しかも流れるように話すから、何いってんのか意味不明で笑える」

名前もしらない貴方にそんなこと言われて、私も笑える。

まてよ、言ってることがわからない?
そんなことを言われたら困る。

あれは去年日本に帰国した際、前職の社長が会員制のリゾートホテルに連れて行ってくれたときだ。

ホテルのラウンジで昼食をとることになった私は、緊張しながら革張りのソファーに座っていた。
目の前には値段のわからない白ワインが置かれ、テーブルには色彩豊かな料理が並んでいた。
美人社長とワインを飲みながら談笑していると、ピザを食べていた長男が叫んだ。

「ママ、このピザ、ゲロの味するぅぅぅ」

持っていたワイングラスを落としそうになった。
ホテルのラウンジでゲロ。
私は咄嗟に機転をきかせた。

私「えええええ?ゲロウ???ゲロウテイスト(味)??」

ゲロウなんてものはこの世に存在しない。
ゲロという単語を誤魔化すための一芝居だ。
まずはルー語を話すことによって、周囲に私達がカタコト風の日本語を話していることを印象付ける。人々は私達が日本人ではないと錯覚するだろう。
そしてラウンジ中に響き渡った耳障りな単語「ゲロ」は、私の「ゲロウ」によって塗り替えらる。
ゲロはゲロではなくなり、私達の会話を聞いていた周囲の方々は海外には「ゲロウなる食べ物があるんだ」そう思い込むはず。多分。

次男も叫んだ。

次男「うえええ。ママ、このピザ、うんこの味!!」

私「えーーーーウンコウ???ウンコウサワー(酸っぱい)だもんね。もしかしてウンコウ入っているのかな?ママもトライしてみるね」

思いっきりピザを頬張る。
一般市民には馴染みのない味。
私が生きていても出会うことのない食材。
これはブルーチーズ。
ゲロにうんこで正解だ。

私「イエス。これはリトルビット(ちょっとだけ)ウンコウかもね。」
「ママがイート(食べる)するからイッツオーケー
社長も周囲の方々も、海外には酸っぱい「ウンコウ」という食べ物があると思ったことだろう。

脳裏に浮かぶあの日の出来事。
誰に確かめた訳ではないけれど、あの時、あの場にいた全員がルー語を理解し、私の思惑にハマったはずだ。
そうでなければ、私は社長の白ワインを顔面に浴びていたはずだもの。

そんなことを思い出していると顔見知りの女が言った。

「こうなると。トリリンガルじゃね?」

トリリンガル。
言われてみれば、そうかもしれない。
私はいつの間にか母語がルー語になり、それと同時に、トリリンガルになっていた。

トリリンガルという響きにときめいていると、忌々しい顔で顔見知りの女が言った。

「家では私もルー語が出ちゃうけど、外では恥ずかしくて使えないよねぇ。笑」

言わぬがフラワー(花)ということわざを知らないのだろうか、このホース(馬)とディヤー(鹿)のウーマンは!!

私は馬鹿笑いしているホースとディアーのウーマンに言った。
「そんなこと言わず、トゥギャザーしようぜ」

ホースとディアーは即答した。
「絶対ムリ」

私の勝ちだな、ホースとディアー。
君は一生バイリンガル。対する私はトリリンガル。
ザマアミロ。
こうして私の小さな心は満たされたのだった。

みなさん、リードして下さって、サンキューベリーマッチ。
ワンダフルなウィーケンドをお過ごしください。















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