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京都「緑寿庵清水」さんの金平糖の作り方

 小説やエッセイを書いていると、ときどきと「役得」に恵まれます。
 普段の生活では、会えない人と話ができたり、
 工場の裏側を覗かせていただけることがあるのです。
 
 例えば、トヨタの水素カー「MIRAI」を取材した際には、開発責任者に会って製造時の苦労話を伺えました。
 また、「翼がくれた心が熱くなるいい話」(PHP研究所)という本を書いた時には、当時、企業再生中の中で働くJALの人たちの、生の声を聴くことができました。
 
 さて、「京都祇園もも吉庵のあまから帖」シリーズの第7巻を書くにあたって、金平糖で有名な「緑寿庵清水」さんを取材させていだくことができました。
 そして、金平糖を作るにのに、どれほどたいへんな苦労があるかを知りました。
 本文から、その工程を一部抜粋して紹介させていただきます。
 
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「泉美さん、金平糖ってどないして作るんかご存じどすか?」
泉美が首を横に振ると女将は、小さな白い粒々を手のひらに載せて見せてくれた。
「これは『イラ粉』言います。直径〇・五ミリ。もち米を細かく砕いたもんが金平糖の核になります。傾けた回転する大釜の中に『イラ粉』を入れて、丁寧に蜜を掛けていくんです。百聞は一見にしかず、御覧いただきましょう」
 (中略)
そこには、大釜が四つゆっくりと回転し、四人の職人が金平糖と睨めっこしつつ作業をしていた。ザザーッという音がして、釜の中を金平糖が転がり続ける。職人が、ときおりコテを釜の中に入れて、金平糖をかき回す。そして、蜜をサーサーッと掛けていく。
泉美はびっくりしてしまった。「大釜」と言うのでどれほどの大きさなのだろうと思っていたら、人の背丈ほどもあるではないか。
「回転する釜の中で、イラ粉が上から下へと転がります。イラ粉の釜に触れた部分にかかった蜜が乾くと、少しだけ堅いところがでけます。その部分が僅かに出っ張ってイガが生まれます。すると、またその出っ張りに蜜が付きやすくなる。そのようにして、イガイガが伸びていく。金平糖の状態をよう見ながら、蜜の濃度や釜の傾斜、回転速度を調整していきます」
(中略)
「釜の中を転がる金平糖に、五感をフルに働かせて釜の温度や蜜の濃度を調整します。季節や気温、湿度でも変わります。その五感の中でも、一番に大切なんが『音を聴く』ことやて聞いてます。転がる『音』で、今、金平糖が何をしてほしいんかがわかる。たとえば『ここへ蜜掛けて』て要求しはる部分に、蜜をかけるわけです。ちょっと眼ぇを離した隙に溶けたり焦げたり、はたまたイガが丸うなってしまいます。そやから、朝から晩まで釜の前で一瞬たりとも気ぃが抜けへんのです」
泉美は、金平糖なんて、自動化された機械で簡単に作れるものだと思っていた。いったい、どれくらいで完成するのだろう。その疑問を察したかのように、女将が教えてくれた。
「朝から晩まで八時間、釜の中の金平糖にコテを入れては蜜を掛け続けます。三日目で突起が出てきて、八日から十日目でようやくイガが出揃います。それから……」
 驚いて、思わず声が出た。
「十日ですって?」
「種類によりますけど、出来上がりまでに十四日から十六日かかります」
「……」
 
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 そうなんです。
 あの小さな金平糖ができるまでに、2週間もかかるのです。
 それを知ったら、カリカリッとかみ砕いて食べるのが惜しくなりました。

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